↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
18/29

お嬢様、看病する(3)

価値観の違いにより、盛大なミスを犯した私は、すっかり鈴香ちゃんにソッポを向かれてしまいました。

家にお邪魔(じゃま)してからもずっと、こちらを見ようとはせず、悠莉にばかりまとわりついています。


「ねえね、悠莉ちゃん、ゲームしようよ!友達から譲ってもらえたんだ~」

(悠莉ちゃんとゲームできるなんてラッキー!嬉しい!)

「うん、しよしよ。美麗、先に健太郎のとこ行っといて」

(ふふ、その間に鈴香ちゃんにもっと好かれよ。義理の妹やもんな……なーんてキャー♡♡♡)


何がキャー♡♡♡じゃ。

♡マーク三つ連打しとるんじゃ。

それはこっちの専売特許(せんばいとっきょ)じゃーーー!!!

と叫べる訳もなく、私は黙って従(したが)う他ありませんでした。

いえ、弱気になっては駄目ですわ、美麗。

今までどれだけの男達を魅了(みりょう)してきたか、思い出すのです。

殆どの男が一目惚れし、胸元を強調すれば虜になり、宇宙一崇め奉(たてまつ)られてきたではありませんか(当社比)。

山田はDNAの不具合により、この素晴らしさが理解出来ないだけなのです。

神様は彼に、人類史上最大の試練(しれん)を与えたのです。

おお、何と不遇(ふぐう)な男でしょう。

しかーし!!!

密室(みっしつ)にて山田と二人きりなんて、私の良さを知らしめる、またとないチャンスでございます。

これを逃してはなりません。

私は山田の部屋をノックし、ですが返事がない為、恐る恐るドアを開けました。


「山田くん、お邪魔しますわよ……」


と中を覗いて、唖然(あぜん)と致しました。

まぁ、何と狭い空間!

歴史の教科書に載っている、江戸時代の平民の部屋みたいですわ!!!

今、確か時代は令和のはず……もはや世界遺産に認定されるのでは……申請しないといけませんわね……。

広さは我が家の御手洗いと同じくらいかしら。

その上ベッドがなく、床に薄っぺらい布団が敷いてあり、それに山田は横たわって眠っておりました。

背中を痛めてしまいそうで、より心配になります。

お見舞いに最高級のベッドを用意すべきでした。

あ、将来花嫁道具として持って来るのも有りですわ……勿論ダブルベッドで♡キャー♡♡♡

にしても、残念ながら山田は目覚める気配がなく、規則正しい寝息を立てております。

一瞬落胆したものの、心の声を気にせずに接するのは、なかなか新鮮なものだと考え直しました。


「……可愛い寝顔ですわね……」


私はそろりそろりと忍び足で山田に近付き、ここぞとばかりにじっと見つめました。

少し額に汗をかいていますが、思ったよりは顔色は悪くありません。

長い前髪の隙間(すきま)から見え隠れするその寝顔は、赤ん坊のように無垢で、思わず胸が高鳴ります。

……ちょ、ちょちょ、ちょっとだけ……さわ、触っても……よろしいかしら……?

い、いえ、や、やややましい気持ちなど、一ミリもございませんわよ!?

た、ただ、前髪が汗でベッタリして、こ、このまま瞼を開けたら入りそうで危険ですし、そう、これは純なる看護(かんご)ですわ!!!

ヘレン・ケラーもびっくりの世話好きな私は、放っておくことなど出来ないのです。

これは抗えぬ、自然の摂理(せつり)なのです。


「ちょ、ちょっと……失礼致します……」


私はそっと、白魚を彷彿(ほうふつ)させる美しい指先で、山田の前髪を横分けにしました。

嗚呼、やっぱり……愛らしい寝顔でございます。

普段は表情が乏(とぼ)しい山田の、意外な一面を見れた気がして、密かに満悦(まんえつ)致しました。

少女漫画ではこの勢いでせ、せせせ接吻をするパターンが多いのですが……。

さすがにうら若き乙女が、そんな卑怯(ひきょう)な真似は出来ません。

でも……このまま寝顔を堪能(たんのう)するだけで終わるのは……。

ビンタで叩き起こして、無理矢理にでも会話しようかしら??

いえ、いけませんわ!焦って暴走しては!!!

そうです、今の内に下の名前で呼び捨てにする練習を致しましょう。

いずれ私達は結ばれる運命ですし、悠莉に先を越されてばかりはいられません。

さあ、彼の意識が戻る前に挑戦するのです。


「け、けけけけ……けけけけ……」


!!??おかしいですわ!!??

滑舌(かつぜつ)には絶対的な自信がありますのに、健太郎という実に単純な名称(めいしょう)を口に出来ない……!!!

何故か唇が震えて、歯が小刻みに上下に揺れ、体が言うことを聞いてくれません。

ええい、でもこんなチャンス、もう二度となくてよ!

KE・N・TA・RO!と呼ぶのです、有栖川 美麗!!!


「け、けけけけ……健太郎ーっっっ!!!」


何てことでしょう、思いの外馬鹿でかい声が出ました……。

これでは親を起こしに来た、ヤンチャ盛りの幼児(ようじ)でございます。

案の定ゆっくりと、山田の瞼が開かれました。

……もしかして、聞こえていたかしら。

だとしたら、急に呼び捨てにされてドキッとしてそこから恋が芽生


「!!??ギャーーー!!??」

(ど、どど泥棒!!??強盗ーーー!!??)


山田よ、落ち着きなさい。

この自他共に認める宇宙一の美少女が、どうしたら泥棒や強盗に見えるのです。

貴方の視力は0.000001以下ですか?

分厚~~~い眼鏡をした方がよろしいんじゃなくて?

百歩譲っても、天国からの使いが来たと怯(おび)えるのが筋でしょう。

私はズッコケそうになりながらも平静を装い、ニッコリと笑みを湛(たた)えました。


「驚かせてごめんなさい。風邪と聞いて、お見舞いに参りましたの。プリントを持って来ましたわ」

「あ、有栖川さんか……そっか……ありがとう……」

(そうだよなーこんなボロ屋に強盗なんか入る訳ないよなー良かった良かった)


そこは『こんな美少女が強盗のはずがない』だろうがよ。

ちょっとHな深夜アニメみたいになっちゃっただろうがよ。

全く、相変わらずの鈍感ぶりに辟易(へきえき)致します。

ここは一つ、拗(す)ねた振りをしてみましょう。

フッフッフ、この私が頬を膨らまし、目線を逸らしたその姿は、かのレオナルド・ダ・ヴィンチが描きたいと申し出る程の可愛さのはずなのです。


「山田くんってば……もうちょっと喜んでくれてもいいのに♡」


と甘ったるい声と共に実演するとー山田は。

じぃっとこちらを凝視(ぎょうし)してきました。

えっ……何何、何ですの!!??

もしや、効果グンバツ!!??

『十五歳の美少女が男を落とした、衝撃の方法!』などと、ブログの中央に誇大広告を打とうかしら(あれもうっかりタップしてしまいます)!!??

そうですわよね、さすがに超絶鈍感な奴でも、この鉄板の仕草には抑えていた欲望が沸き上が


(有栖川さん……鼻水出てる……風邪移しちゃったかな……?)


お前、そこしか見いへんのかい。

そろそろ別のところに目ぇ向けろや。

こんなべっぴんさん、人生で一度お目にかかれるかどうかやで。

他の輩(やから)やったら神に感謝するところや!!!

あら嫌だ。

悠莉の影響か、ついえげつない関西弁で突っ込んでしまいました。

悲しいかな、テンプレになりつつあるやり取りに慣れた私は、聖母の笑みを崩さぬまま、ハンカチでさりげなく鼻の下を拭ったのでした。

※訂正→前回条件の中に『五分』とありましたが、『十分』に変更しました。

五分では何も出来ないですよね……(笑)


いつもご感想、ブックマーク、評価ありがとうございます!

気に入って頂けたら、引き続きして貰えると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。