お嬢様、看病する(2)
それから小一時間近く交わした激論の末、私と悠莉の間で取り決めた条件は、以下のようなものでした。
・山田の部屋で二人きりになった場合、各々十分の時間制限を設ける。
・さりげないボディタッチはOK。
・直接的な告白はまだ厳禁(風邪で冷静な判断が出来ないかもしれない)。
・匂わす程度ならOK。
・ジャンケンした結果、先攻が美麗で後攻が悠莉。
などでございます。
ふーむ……なかなか厳しいですが、致し方ありません。
残念ながら現状はこちらの方が、大変不利なのです。
悠莉はライバルながら人柄は信頼でき、抜け駆けは決してしないでしょう。
甘んじて受け入れることに決めました。
私達は山田家の近くまでSPに送ってもらい、入り組んだ路地裏を歩きながら、
「そや、美麗。健太郎に妹おるのは知っとる?」
(へへーん☆どうせ知らんやろ。ここは差をつけとこ)
お、おお、神よ……!
恐ろしい……恐ろしいですわ……これが女のマウンティングというやつですわね!?
コミックサイトの宣伝でよく出てくる、『本当にあった怖い隣人の話』系でよく見ます!!!
しょっちゅう間違えてタップしてしまい、うっかり試し読みを読んで、続きが気になるやつですわ!!!
まぁ妹の有無くらいでどや顔する悠莉は小学生レベルですが、このままでは将来きっと強欲な女になります。
だから山田よ、私にしておきなさい……(合掌)。
え?お前はどうなのかって??
何をおっしゃるのです、私は全世界が認める唯一無二の美少女。
他人を蹴落とす前に、皆追い付けないのです。
なのでマウンティングする必要もございません。
それはさておき、ふっふっふ、実は山田の妹の存在は知っております。
満面に笑みを湛えて、
「ええ、存じ上げてますわ。山田 鈴香ちゃん。確か小学五年生でしたわね♪」
「え、あ、ああ……そうや」
(げっ、健太郎とそんな話までするんか!?思ったより進んでるんかな……ちょっと不安……)
ホーホッホッホッホッ。
フォーフォッフォッフォッフォ!!!
引っ掛かりましたわね、悠莉!!!
私の超能力をもってすれば、こんな情報容易く手に入れられますの。
山田の脳内でちょくちょく鈴香ちゃんは登場するのです。
両親が共働きでほとんど家にいないらしく、そのせいかかなり可愛がっているようです。
いずれは義理の妹になる方なので(キャー♡♡♡)、今回の任務の一つとしては、彼女に気に入られることも入
「わぁ、悠莉ちゃーん♡久しぶりー!!」
ファー!!??
ま、毎度のことですが、さ、早速出鼻を挫かれました……。
悠莉の腕に巻き付いてきたこの少女こそ、山田の妹である鈴香ちゃん。
山田によく似た円らな瞳が印象的な、可愛らしい子です。
が、既に悠莉に懐いてるではありませんか……!
よくよく考えてみれば、幼馴染みなのだから当然なのですが。
ワナワナと震える私を前に、悠莉は勝ち誇ったように、
「鈴香ちゃん!元気そうやな。今、帰り?」
(相変わらず可愛いし、うちのこと大好きなんよな♡一歩リード♪)
「うん。今日は何?お兄ちゃんのお見舞い?」
(わーい、悠莉ちゃんが来てくれた!お兄ちゃんの代わりに遊んでもらおっと)
「そや。何や、風邪引いたんやって?」
(まずは現状を把握しないと。大丈夫やとは思うけど……)
「そうなの、珍しく。でも微熱だし、あんま咳もしてないし、大丈夫そうだよ!悠莉ちゃんの顔見たら、元気出るんじゃないかな」
(あ~大好きなお兄ちゃんと悠莉ちゃんがくっつけばいいのに。お似合いなんだよね♡)
キエエエエーーー!!!
MK5です……マジで壊れる5秒前ですわ……!!!
何ですの、この容赦なく心がえぐられる感じ……邪な感情がないからこそ、かなりの威力がございます……。
にしても、山田 健太郎よ。
貴方はツンデレ美少女お嬢様、関西弁巨乳美少女に加え、愛らしい幼女の妹にまで愛されているなんて……。
ラノベ界の陰キャの頂点じゃないですの!!!
これで鈴香ちゃんが『お兄ちゃんをとらないでぇ!ぷくぅ☆』とか『お兄ちゃん大好きなのですぅ♡お風呂一緒に入ろぉ♡』とか言うキャラだったら、またしてもタイトルを『校内一貧乏で超絶貧乏な陰キャは、実は激モテリア充の権化でした』に変更しなくてはなりません。
泣く泣く主人公の座を譲らなければなりません。
そんなのご勘弁ですわー!!!
しかし幸い、鈴香ちゃんはブラコンではあるものの、至ってまともなキャラのようです。
胸を撫で下ろしていると、ようやく悠莉が私の方に目線をやり、
「あ、こっちは有栖川 美麗。クラスメイトやねん」
(ま、ここはフォローしてあげんとな。うちの方が圧倒的に有利やし。悠莉だけに?へっへー)
こんの関西弁巨乳美少女め……つまらんギャグを言いやがってコンニャロウ……!!!
悠莉の余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)ぶりに腸が煮え繰り返りましたが、ここは平静を装わないと。
私はこれ以上ない程ニッコリと笑みを湛え、「はじめまして、有栖川 美麗です。よろしくお願いいたします♡」と鈴香ちゃんに挨拶を致しました。
すると、彼女はじぃっとこちらを見据えて。
(ん?この人……髪の毛が口に入ってる……言った方がいいのかな??)
こ、こここれは……まさにデジャヴ……!!!
全く、山田家の遺伝子はどうなっておりますの??
人類の美を理解出来ないように操作されてますの??
一度研究所にDNAを調べてもらった方がよろしいですわ。
兄に引き続き妹まで、私の美貌よりも髪の毛ハムハムを気にするとは……まぁ鼻毛よりはマシかしら……感覚がすっかり麻痺しております。
私は何とか好印象を与えようと、笑みを深くして、
「今日は悠莉と一緒に、お兄様のお見舞いに参りましたの。お家は何処かしら?」
「それはどうも。お家はここだよ」
と鈴香ちゃんが指を差したのは、これ築100年は経ってない??とツッコミを入れたくなるような物置小屋でした。
殆どがトタン板で出来ており、小さな台風でも吹き飛ぶでしょうし、震度2でもペチャンと潰れてしまいそうです。
私はキョトンと首を傾げ、
「こちら、物置小屋ですわね?お家は?住んでいる所は何処にございます?」
そう訊ねた途端、鈴香ちゃんの表情が曇りました。
悠莉が慌てて私の脇腹に肘鉄を食らわします。
い、痛い!と文句を言おうとしたところ、
「あ、アホ!物置小屋ちゃう、ここが健太郎の家や!」
ど、どえええーーー!!!
血の気が引く、とはまさにこのことです。
未来の義理の妹(仮)に対して、何たる失態……。
まるで『パンがなければお菓子を食べればいいじゃない?』と暴言を吐き、吊し上げにあったマリー・アントワネットの再来ではありませんか……!!!
授業で教わった時は何て傲慢な女、と嘆きましたが、今は痛い程気持ちが分かります。
お~よしよし、そんなつもりじゃなかったんでちゅよね~と思い切り抱き締めてやりたいです。
恐る恐る鈴香ちゃんの様子を見ると、彼女は私を睨み付け、
(なにこのババア!帰れーーー!!!)
有栖川 美麗、ピッチピチの十五歳。
心の中とは言えど、産まれて初めてBBAと罵られました。
本日はBBA記念日として、反省と共に胸に刻み込もうと思います……。
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