お嬢様、看病する(1)
臨海学校から帰宅した後、私は早速『好きな人の前で貧血を起こし、華麗に倒れる演技』をモノにしようと、特訓を始めました。
プロの方に指導して頂き、フラフラとした覚束ない足取り、額を手で押さえる仕草、「嗚呼……もう駄目……♡」と弱々しくも色香を交えた声の出し方を学びます。
更には恋愛ドラマを拝見し、動作を研究致します。
大概ヒロインは頑張り屋さんで、体調が悪いのに無理をし、倒れてヒーローにお姫様抱っこをされるーという展開でした。
よくもまぁ都合よく意中の相手の前で倒れるな、タイミング良すぎだろ、とツッコミを入れたくなりますが、でないと物語が進みません。
『ハッ……ここは……え、◯◯くん!?』
『やっと気付いたか。ったく、過労だってよ。無理しやがって』
『だ、だって……今休む訳には、いかないんだもの』
『でも健康が一番だろ。……そういう一生懸命なとこ、好きだけどな』
『え?何か言った?』
『何でもねーよ!』
キャーーー♡♡♡
これを私と山田が実践しますのね……!
まさにハッピーライフ、ハッピーホーム、タ◯ホームですわ!!!
又は少女漫画の王道のように、寝ている間に接吻されるのも乙でございます。
過去に『天使のような寝顔の赤ちゃんコンテスト』で優勝を飾った私のこと、高校生の今でもきっと天使のような寝顔に違いありません。
それを前にして、欲望を抑えられる男がいるかしら、いえおりません(反語)。
(有栖川さん……何て可愛い寝顔なんだ……それに、愛らしい唇……クッ……こんなの……我慢出来ないっ!!!)
となること間違いなし!
現実では強制わいせつ罪ですが、恋愛小説では全然オッケーむしろ大歓迎です♡
既成事実を作ってしまえば、後はどうとでもなりますわ。
オーホッホッ!これで怒濤の如く巻き返せますわね!!!
見てなさい、悠莉。
今まで散々先を越されてきましたが、ここで一気に出し抜
「今日は山田は風邪で休みだ。皆も気を付けるように」
お前が倒れるんかーーーい!!!
おのれ山田……一度も体調を崩したことなどなかった癖に……これでは計画が台無しじゃないですの……。
夜通し倒れる練習をしたあの時間、全くの無駄になりましたわ……。
ばあやに見つかってしまい、救急車を呼ぶ騒ぎにまでなりましたのに……。
以後私は先生の言葉など頭に入らず、ひたすら呆然としておりました。
ですが。
よくよく考えましたら、逆にチャンスじゃなくて??
今、山田は心身共に弱っているはずです。
そこに天使のような美少女(私)が見舞い、優しく優しく看病すれば、一発でフォーリンラブなのでは??
『ハアハア……あれ、有栖川さん……?何で、ここに……』
『先生に言われて、プリントを持って参りました。しんどそうですわね。冷◯ピタ、貼り替えますわ』
『ありがとう。……優しいんだな。それに、手際もいい』
『そ、そんな。女性として当然です』
『いや、なかなか出来ないもんだよ。ああ、どうして風邪なんか引いたんだ俺は……今すぐ君を抱き締めたいのに』
『ま、まぁ、山田くんってば』
『山田じゃない。健太郎、だろ?』
『け、けけ、健太郎……♡♡♡』
そうです、これです!!!
このパターンBを採用致しますわ。
ピンチをチャンスにするのです!!!
完璧な計画を練った私は、放課後担任の先生の元へ行き、山田に渡すプリントを持って行くと申し出ました。
が。
「ああ、気にしなくていいぞ。先生の家が近いから、様子を見るついでに渡してくる」
くーーーうーーーきーーーをーーーよーーーめーーー。
想定外の展開にズッコケそうになりましたが、何とか姿勢を正しました。
仕方ありません、先生はとっくに青春を終えた身(40歳・既婚男性)。
教師としては素晴らしい方なのですが、この甘酸っぱい恋心を察せれないようです。
私はそれでもめげず、一気に捲し立てました。
「いえ、是非ぜひ私に行かせて下さい。私の自宅の方が近いはずです」
「ん?いや、確か有栖川の家は別方向……」
「迎えの者に連れていってもらいますから、問題ございません。生徒同士、親睦を深めるのも大切ですわ。こういう小さいことからコツコツと、積み重ねていくものなのです」
「しかしなぁ、もし風邪がうつったら」
「私、産まれてこの方一度も風邪を引いたことがございませんの。これ以上ない健康優良児ですわ。むしろご高齢の先生の方が危険です。リスクが高いです。肺炎もあり得ます」
「お、おい、ご高齢って……ま、そこまで言うならよろしく頼むわ。移らないよう気を付けろよ」
(有栖川、熱心だな~うんうん、生徒同士仲良くて、先生は嬉しいよ)
オッシャーーー!!!
無事プリントを手に入れた私は、内心ガッツポーズを決めました。
……フッフッフ。
ヘッーヘッヘッヘ。
ついにXデイがやって参りました。
悲惨なまでに遅れをとっていたこの恋、ようやくビッグチャンスが巡ってきましたわ。
待っていなさい、山田 健太郎!!!
もうすぐ貴方のハートを奪いに、ツンデレ美少女お嬢様が白衣の天使として登
「美麗~?何処行こうとしてるん……?」
ひぃっ!!!
意気揚々(いきようよう)とスキップしていると、急に肩を掴まれ、咄嗟に振り返りましたら。
悠莉がニッコリと満面の笑みを湛えておりました。
非常に愛らしくはあるのですが、胸の内は。
(ぜぇーーーったい、抜け駆けなんてさせへんからな!!!)
oh my god……。
想像以上に悠莉は勘が鋭く、頭が回るようです。
私は引き攣った笑みを返し、しばらく二人で不気味な笑い声を上げ、周囲の注目を浴びておりました。
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