お嬢様、夏に賭ける(4)
嗚呼、これこそ少女漫画の王道と言えるでしょう。
ヒロインが行方不明になり、ヒーローは血眼で探し回って、ついに感動の再会を果たす。
さあいいのですよ、山田 健太郎。
特別に許可を与えてあげます。
思う存分この清純な肢体を抱き締め、あわよくばキッスを
「悠莉!大丈夫か!?」
デスヨネーーー!!!
クッ……!勇ましく女子高生をおんぶしている女と、青白い顔で足を怪我をしている女。
私が山田の立場でも、後者に優先して手を差し伸べるでしょう。
こうなったら、またプロに頼んで『好きな人の前で貧血を起こし、可憐に倒れる演技』を指導して頂きます。
綾◯はるかや戸田恵◯香もびっくりの名演技で、彼に心配させてみますわ!!!
ファイッ!!!
それはさておき、今は悠莉を介抱しなくてはいけません。
私は何とか平静を装い、
「野犬に追われて、迷っていましたの。悠莉、足を怪我していて。医務室に連れていきますわ」
「そっか。とりあえず、無事で良かった。あ、俺が連れていくよ」
(悠莉、発作は起きてないみたいだな。良かった……。にしても有栖川さん、意外と力あるんだ。すげー)
くううう……残念無念!!!
山田の中で私のイメージが、女版武井壮になってしまいました……!
そりゃこんな長距離をおぶって歩いたのですから、当然ですけれども。
しかも悠莉を医務室へ連れていくと申しております。
これは……お姫様抱っこへのフラグ再び……!!??
何故?何故ですの??
物語が始まって既に第15部、文字にして三万字超えですのに、ライバルは二度もいい感じになっていて、私は触れ合ってすらいない。
こんな理不尽な恋愛小説が、この世に存在してよろしいんです??
作品によっては既にピーしてピーする、R-18指定の展開になってますわよ??
それとも知らない内に、私は本当に悪役令嬢に転生していたのかしら??
ならば遠慮なくヒロイン(悠莉)を苛めてやりますわー!!!でないと損ですものー!!!
と心の中ではどす黒い感情が渦巻いておりましたが、表面上は笑みを湛え、
「では、お願い致します。助かりますわ」
すると、途端に悠莉が慌て出しました。
「え、ええっ、えーっと、それは、その」
(何や、抜け駆けするみたいでズルくないか!?せっかく美麗、おぶってくれてたのに……そりゃ出来れば……健太郎に連れていって欲しいけど……)
ふん、何とも清らかな思考回路だこと。
確かに腸が煮えくり返りそうですが、今は非常事態です。
男性である山田に代わる方が、やはり自然でしょう。
大丈夫です、私はどんな時でも冷静沈着な才女、ちょっとやそっとじゃ取り乱さな
「んじゃ、行くか。ちゃんと掴まってろよ」
(なんか体育祭の時みたいだな。んとに、世話のかかる奴)
「う、うう、うん……あ、ありがとな、美麗」
(そんで、ごめん!でも……健太郎にまたお姫様抱っこしてもらえたわ♡ラッキー♡)
てんめーーー!!!
fuck youですわーーー!!!
キャッ、私ったら……内心とは言え、お下劣の極みとも言える言葉を発してしまいました。
良い子も悪い子も普通の子も、真似はしないで下さいまし。
けれどもこちらの心情など露知らず、山田と悠莉は早々と去って行きます。
私はただ呆然と、その後ろ姿を眺めておりました。
次の瞬間、……一気に虚しさが襲いかかって参りました。
私だって幼馴染みだったら、体が弱かったら、庶民的な家庭に産まれていたなら。
この運命は変わっていたのかしらん??
とすれば、何て理不尽なのでしょう。
完璧なまでの容姿に恵まれ、心身共に健康で、誰もが羨む大金持ちなのは、私の責任ではございませんのに……。
これは神が下した試練、或いは悪魔がかけた呪いに違いないですわ。
どうすれば彼を振り向かせられるのでしょう。
いつになったら、(美麗様……僕は貴女の虜です……好きにして下さい、ハアハア♡♡♡)となるのでしょう(申し訳ありません、つい誇張致しました)。
途方に暮れ、柄にもなく目頭が熱くなりました。
そこへ、
「愛しのマドモアゼル。良かった、無事で。心配したよ」
気障な台詞を吐きながら現れたのは、言う間でもなく流星でした。
普段なら冷たくあしらうところですが、珍しく凹んでいた私の声は、覇気を失くしていました。
「ご心配、ありがとうございます。ちょっと迷ってしまって……もう戻らなくちゃいけませんわね」
「……泣いてるの?そんなに怖かった?可哀想に」
(嗚呼……何て愛おしいんだ。泣いてる姿すら、美しい。……君が思っている以上に、君は魅力的だよ)
ドキッ。
流星の心の声に、不覚にも心臓が跳ね上がりました。
まるで私の本心を読み取られているような、そんな。
思わず上目遣いで彼を見つめるとーフワッと。
優しく抱き寄せられました。
……ってwhat!!??
と、ととと殿方と抱擁なんて、は、初めてですわーーー!!!
な、ななな何てハレンチな……しかも意中の相手とは別の、キングオブ女たらしに触れられるなど……油断しておりました。
慌てて離れようとするも、流星は腕の力を強めて、
「こういう時くらい、僕に甘えてよ。ね?」
(まずいな、思った以上に好きになってる……やっぱり彼女に言われたら……他の女の子達を全て諦めてもいい……かもしれない)
また『かも』かよ。
そろそろ絶対を誓えよ、何保険かけてんだよ。
けれど流星の私に対する想いが、思っていたよりもずっと真剣で、純然たるものだと感じました。
今は人肌が心地よく、つい抵抗を止めてしまいます。
このまま彼を好きになれたら。
山田を諦められたら、私はー。
「……何してんの?」
ってあっぶねーーー!!!
キングオブ女たらしこええーーー!!!
遠くの暗闇から山田の声が聞こえ、私は瞬時に我に返りました。
直ぐに流星から身体を離し、何事もなかったかのように振る舞います。
「あら、山田くん。悠莉は大丈夫ですの?」
「医務室に連れて行った。問題ないって。でも二人が、なかなか戻ってこないから」
「ちょ、ちょっと談笑してただけですわ。オホ、オホホホ。ではお二人とも、おやすみなさいっ!」
距離があったおかげで、幸い山田の心の声は聞こえてきませんでした。
去り際に流星がウィンクをしてきましたが、勿論華麗にスルー致しました。
この令和の時代にウィンク……アイドルでも滅多にお目にかかれないですわ……本当に彼は平成生まれなのかしら……。
なので、私が去った後に何故か山田が流星を睨み付けたこと。
それを見て流星がポツリと、
「お互い超絶鈍感じゃ、救いようがないね」
と漏らしたことなど、知る由もありませんでした。
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