第6話「月夜の告白」
銀色の月光が、王宮のバルコニーを青白く照らし出している。
夜の空気は研ぎ澄まされ、遠くで鳴く夜鳥の声が静寂をより一層深めていた。
呼び出され、誰もいない回廊の端に立っていた。
「お待たせいたしました、閣下」
アシュレイは手すりに身を預け、夜空を見上げていた。
月光に縁取られたそのシルエットは、どこか現実離れした美しさを放っている。
「……ルシエル。お前は、なぜ私に従う?」
唐突な問い。
振り返らず、ただ夜の闇を見つめている。
「私は、ただの給仕ですから。閣下のお世話をするのが、私の役目です」
「役目、か。……ならば、もし私が明日、この地位を追われたとしても、お前は私の傍にいるか?」
その言葉に含まれた重みに息を呑んだ。
陰謀の影が、確実に彼を蝕もうとしている。
ゆっくりと歩み寄り、隣に並んだ。
「私は、騎士団長という肩書きに仕えているわけではありません。私は、私の菓子を美味しいと言ってくださる、アシュレイ様という個人に仕えたいのです」
アシュレイの指先がピクリと跳ねた。
ゆっくりと首を巡らせ、彼はこちらを見つめた。
その瞳には今まで隠してきた全ての弱さと、溢れんばかりの愛着が同居していた。
「……お前は、本当に愚かだな」
自嘲気味に微笑んだ。
初めて目にする本物の笑顔。
それは凍てついた大地から芽吹く、奇跡のような温かさを持っていた。
「私は、お前が思うほど高潔な男ではない。お前を、この不自由な宮廷に繋ぎ止め、私だけを見させたいと願う、卑怯な男だ」
「……知っています。閣下は、とても独占欲が強い方ですから」
少し悪戯っぽく笑うと、不意に腰を引き寄せられ抱きしめられた。
「……もう、離さない」
耳元で囁かれる誓い。
体温が全身に伝播し、心の奥底を優しく溶かしていく。
その時舌が捉えた味は、これまでのどんな菓子よりも複雑で、圧倒的に甘美なものだった。
信頼、覚悟、そして命を賭した恋慕。
それらが混ざり合い、魂を極上の悦楽で満たしていく。
『ああ、なんて……幸せな味なんだろう』
背中に手を回し、その存在を確かめるように強く抱き返した。
シュガーがどこからか現れ、足元でくるくると回りながら祝福するように鼻を鳴らした。
月光の下で重なり合う二人の影。
迫りくる陰謀の嵐を前に、今、世界で最も強く甘い絆で結ばれていた。




