表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷の騎士団長は没落給仕の甘い香りに囚われる〜無味の凄腕騎士様が俺の手作りお菓子しか食べられず、激重な独占欲で溺愛してきます〜  作者: 水凪しおん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/15

第6話「月夜の告白」

 銀色の月光が、王宮のバルコニーを青白く照らし出している。

 夜の空気は研ぎ澄まされ、遠くで鳴く夜鳥の声が静寂をより一層深めていた。

 呼び出され、誰もいない回廊の端に立っていた。


「お待たせいたしました、閣下」


 アシュレイは手すりに身を預け、夜空を見上げていた。

 月光に縁取られたそのシルエットは、どこか現実離れした美しさを放っている。


「……ルシエル。お前は、なぜ私に従う?」


 唐突な問い。

 振り返らず、ただ夜の闇を見つめている。


「私は、ただの給仕ですから。閣下のお世話をするのが、私の役目です」


「役目、か。……ならば、もし私が明日、この地位を追われたとしても、お前は私の傍にいるか?」


 その言葉に含まれた重みに息を呑んだ。

 陰謀の影が、確実に彼を蝕もうとしている。

 ゆっくりと歩み寄り、隣に並んだ。


「私は、騎士団長という肩書きに仕えているわけではありません。私は、私の菓子を美味しいと言ってくださる、アシュレイ様という個人に仕えたいのです」


 アシュレイの指先がピクリと跳ねた。

 ゆっくりと首を巡らせ、彼はこちらを見つめた。

 その瞳には今まで隠してきた全ての弱さと、溢れんばかりの愛着が同居していた。


「……お前は、本当に愚かだな」


 自嘲気味に微笑んだ。

 初めて目にする本物の笑顔。

 それは凍てついた大地から芽吹く、奇跡のような温かさを持っていた。


「私は、お前が思うほど高潔な男ではない。お前を、この不自由な宮廷に繋ぎ止め、私だけを見させたいと願う、卑怯な男だ」


「……知っています。閣下は、とても独占欲が強い方ですから」


 少し悪戯っぽく笑うと、不意に腰を引き寄せられ抱きしめられた。


「……もう、離さない」


 耳元で囁かれる誓い。

 体温が全身に伝播し、心の奥底を優しく溶かしていく。

 その時舌が捉えた味は、これまでのどんな菓子よりも複雑で、圧倒的に甘美なものだった。

 信頼、覚悟、そして命を賭した恋慕。

 それらが混ざり合い、魂を極上の悦楽で満たしていく。


『ああ、なんて……幸せな味なんだろう』


 背中に手を回し、その存在を確かめるように強く抱き返した。

 シュガーがどこからか現れ、足元でくるくると回りながら祝福するように鼻を鳴らした。

 月光の下で重なり合う二人の影。

 迫りくる陰謀の嵐を前に、今、世界で最も強く甘い絆で結ばれていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ