第13話「甘い生活」
復興の槌音が青空に高く響き渡っている。
石畳を焼く陽光は力強く、人々が放つ味は絶望的な泥の味から瑞々しい若葉のような希望の味へと塗り替えられていた。
新設された慰撫菓子工房の窓から、その光景を眩しそうに見つめていた。
あの大乱から一ヶ月。
内務大臣一派は一掃され、実家の冤罪も晴らされた。
奇跡の菓子職人として名を知らしめている。
ルシエルは作業台に置かれた純白のクリームを丁寧に塗り広げた。
指先に伝わる感触は滑らかで、確かな重みがある。
平和を祝う式典のために用意された特製のアニバーサリーケーキだ。
スポンジの間には少しだけ苦みの効いた高級なカカオのクリームと、甘酸っぱい木苺のジャムを層にして重ねた。
『二人の味が、一つに重なるように』
気恥ずかしい願いを込めたことを思い出し、一人で頬を赤らめた。
背後で重厚な扉が開く音がした。
「……まだ、終わらないのか」
低く、どこか拗ねたような響きを含んだ声。
振り返らなくても分かる。
最愛の人となったアシュレイだ。
「アシュレイ様! まだ式典まで時間はありますよ。……それに、執務は終わったのですか?」
苦笑しながら振り返ると、豪華な軍装を少しだけ崩し不機嫌そうに腕を組んで立っていた。
膝元ではシュガーが当然のような顔をして足元を陣取っている。
「……そんなものは部下に投げ捨ててきた。それよりも、お前が工房にこもりきりなのが気に入らない」
大股で近づき、腰を後ろから抱きしめた。
首筋に押し当てられる鼻先。
体温が服越しに全身へと伝播する。
「あっ……閣下、汚れますから! 今はクリームを塗っている最中で……」
「構わない。……お前の匂いを嗅がないと、落ち着かないんだ」
声は甘く、深い執着に満ちていた。
舌が捉える味はもはや無機質な灰などではない。
焦がした蜂蜜と研ぎ澄まされた銀が調和したような、熱く強烈な愛着の味だ。
「……わがままですね、本当に」
「お前がそうさせたんだ。……私の世界に、味を与えた責任を取れ」
耳たぶを優しくついばみ、そのまま顎を向けさせた。
至近距離で見つめ合う。
瞳の中に自分だけが映っている幸福感に胸が潰れそうになる。
「……愛しています、アシュレイ様」
「……分かっている。私も、お前なしでは息もできない」
重なり合う唇。
どんな高級な砂糖菓子よりも濃厚で、命の熱を帯びた極上の甘みだった。
式典の鐘が遠くで鳴り響く。
物語はここからまた新しいページを刻み始めるのだ。
腕の中で幸せを噛みしめるようにそっと目を閉じた。




