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二度目の人生、呪いも無能も継続中なのに、なぜか毒母が聖母すぎる  作者: 真崎 奈南
五章

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闇夜の救出4

「その子を渡さない!」

「なんだと! これはもう俺のだ! 邪魔するな!」


 逃がすまいと、ネイトは必死に食らいつく。

 しかし、貴族の男に何度も蹴り飛ばされ、力尽きる形で体は床を転がっていく。

 貴族の男は焦りを顔に滲ませたまま、大慌てで外へと逃げ出した。

 ネイトは痛みを堪え、気力を振り絞って立ち上がる。

 壁に背中を打ち付けた拍子に落としてしまった木剣を素早く掴み取り、外へ出て行ってしまった貴族の男を追いかけた。


「このガキ!」


 途中、ネイトの進行を妨害するように、主犯の男が炎を放った。

 それにミラーナが即座に反応し、氷柱で男の動きを封じる。

 男の炎を機敏に避けつつ戸口にたどり着いたネイトは、ミラーナに向かって声を張り上げた。


「母さん、ドレイクを頼む! リリンナたちは部屋の奥だ! 俺はあの男から精霊を奪い返す!」


 ミラーナは床の上で辛そうに体を横たえているドレイクから、リリンナたちが捕らえられている薄暗い部屋へと視線を移動させる。

 貴族の男を逃がすわけにいかないが、ネイトをひとりで行かせるのも心配でたまらない。

 強張っているミラーナの表情が、そう物語っていた。

 もちろんその一方で、容態の悪いドレイクやリリンナたちを置いて、ネイトを追いかけるわけにいかないことも、ミラーナは分かっている。


「……わかったわ。気をつけて!」


 返された決断の言葉にネイトは頷き返し、勢いよく小屋の外へ飛び出した。


(どこだ……いた!)


 乗ってきた馬車に向かってどたどた進んでいく恰幅のいい姿は、すぐに見つかった。

 ネイトが剣の柄を握り直すと同時に、剣先に炎が宿った。

 意識を集中させ大きく剣を振るうと、炎が貴族の男に向かって一直線に走り出した。


「うわわっ!」


 炎が襲いかかり、貴族の男は前のめりに倒れた。

 甲高い声で「熱い! 痛い!」と繰り返し叫びながら、巨体がごろごろと土の上を転げまわっている。

 ネイトもまた、魔法を使ったことで体に大きな負担がのしかかっていた。

 荒い呼吸に視界も霞む中、男が放り出した麻袋に気が付いて、ふらつく足を無理やり動かす。


(……絶対に彼女を助ける……俺は未来を変えたい!)


 その一心で前進する。

 麻袋を掴み取り、ホッとした次の瞬間、横から強い衝撃を受け、ネイトは勢いよく倒れ込んだ。


「小僧! 俺を誰だと思っているんだ! 許さないぞ!」


 男の怒鳴り声を浴びながら、なんとか体を起こす。

 頬の痛みと口の中に広がった血の味で殴られたのだと理解し、ネイトは貴族の男を睨みつけた。

 男は拳を振り上げて、さらにネイトを殴りつけようとしたが、あどけなさの残る顔には似つかわしくないほどの強い殺意を突きつけられ、完全に怖気づく。


「……なっ、なっ、なんて生意気な奴だ!!」


 しかし、子ども相手に怯えてしまったことに、ばつの悪さも覚えたようだった。

 男は散々喚き散らしたのち、ネイトがしっかりと抱え持っている麻袋を奪いにかかった。


「返せって言っているだろ! それは俺のだぞ!」

「触るな!」


 ネイトは必死に麻袋を守るが、力での攻防になるとやはり分が悪く、奪われそうになる。

 男に飼われてやつれ切った精霊の姿がネイトの脳裏に蘇る。

 憔悴しきった彼女の姿に、幼い自分と大人の自分の姿がそれぞれ重なっては消えていく。

 ネイトはがむしゃらに麻袋へしがみつき、心の底から叫んだ。


「精霊たちは物じゃない! お前ごときに彼女の未来を壊されてたまるか!」


 込み上げてくる熱い想いと共に、ネイトは風魔法を放つ。

 今までにない手ごたえを感じるほどに、威力は強大だった。

 男を一気に後退させることに成功したが、ネイト自身も強い反動を受け、立ち上がることすらままならない。


(……に、逃げないと……)


 本能的にそう思うが、足に力が入らず、眩暈で視界も歪む。

 言葉になっていない怒りの咆哮をあげながら男が近づいてきた。武骨な手に胸倉を掴まれ、ネイトは殴られるのを覚悟し奥歯を噛みしめる。


 麻袋をしっかりと抱いて数秒後、男は殴ってこない上に、力が抜けたように手を離した。


 ネイトは警戒しながら視線を上らせ、貴族の男が白目をむいていることにぎょっとする。

 やがて巨体は後ろへと倒れ、盛大に土埃をあげる。 そして、男の倒れた先に、ルイモールが剣を片手に立っていた。


「ルイモール」


(助けてくれた? ま、まさか。そんなはずはない。だって俺は敵……今は違うか? い、いや、でも……)


 そうとしか思えない光景にネイトは完全に動揺し、混乱する。

 ルイモールは貴族の男を冷たく一瞥すると、剣を鞘に納めて、ネイトへと近づいてきた。


「大丈夫か?」

「え? ……あ、ああ、そうだった!」


 ルイモールの視線が自分の手元にも向けられたのを感じ取り、ネイトは慌てて麻袋の口を開けて、中にいる精霊へと声を掛けた。


「しっかりして!」


 呼びかけに反応するように、ゆっくり瞼が持ち上げられる。

 目と目が合った瞬間、女の子の精霊はにこりと笑った。

 弱々しくはあったが、ネイトにとって守り抜いた笑顔で間違いなく、大きく息を吐き出した。


「……良かった」


 ホッとした途端、小屋に置いてきたドレイクやリリンナたち、そしてミラーナの顔を思い出す。


「小屋の中にドレイクやリリンナたちがいる」


 ルイモールに説明しながら、ネイトは慌てて立ち上がろうとしたが、足にうまく力が入らず、よろけてしまう。

 それでもネイトは、なんとか立ち上がろうと試みる。


「母さんを助けに行かなくちゃ」


 今の自分では力になれないだろうことはわかっていても、じっとしていられなかった。


「手を貸そうか」


 懸命に立ち上がろうとするネイトへ、ルイモールが手を差し伸べた瞬間、小屋の中で爆発が起こった。

 窓が割れ、何かが地面に落下した音が響く。

 驚き顔を向けると、割れた窓の下に主犯の男の体が転がっていた。


「ど、どうなっている。母さん!」


 不安を隠し切れぬままにネイトが声を張り上げると、勢いよくドアが開いてミラーナが外へ出てきた。

 怪我をしている様子はないものの、厳しい面持ちから怒り心頭であることが分かった。


「誰が枯れているですって」


 低く発せられたひと言で、ミラーナの怒りの理由を悟り、ネイトは真顔になる。


(……あ、心配して損した)


 脱力しながらそんなことを考えていると、ミラーナの後ろからドレイクが姿を現した。


「ネイト!」


 ドレイクはすっかり回復しているらしく、ネイトとルイモールを見付けると一直線に向かってくる。


「ルイモール様も来てくださったんですね!」

「ああ。お前がしっかりと足跡を残してくれたから辿ることができた。遅くなってすまなかったな」


 ルイモールの謝罪に、ドレイクは笑みを湛えながらゆるりと首を横に振った。

 そんなふたりのやり取りを見つめながら、ネイトはドレイクに疑問をぶつける。


「ドレイク、もう大丈夫なのか?」

「ミラーナの光魔法で全回復だ」


 穏やかな声で「そっか。よかった」とネイトが呟くと、ドレイクの目にじわりと涙が浮かんだ。


「ネイト、俺を助けようと必死に抗ってくれて、ありがとう」


 気恥ずかしくて、ネイトは口ごもる。反応すらできずにいると、ミラーナが慌てて駆け寄ってきた。


「ネイト、無事でよかっ……よくないわ! 頬が腫れているじゃない! あの男ね」


 倒れている貴族の男を、ミラーナは殺意と共に睨みつける。


「そ、それより母さん、この子とリリンナたちも回復を……」


 ネイトは何気なく視線を移動させ、ハッとする。

 腕を押さえながら立ち上がった主犯の男が、小屋の裏手に広がる林の中へと逃げ込もうとしていたからだ。


「待て!」


 咄嗟にネイトは追いかけようとしたものの、やはり上手く立ち上がれず、前のめりに倒れそうになる。


「私が行くわ!」

「いや、大丈夫だ。エイモン様がいらっしゃる」


 しっかりとネイトを支えつつミラーナが声をあげると、ルイモールが素早く言葉をかぶせた。

 言われてネイトは目を凝らす。

 主犯の男が林に入るその寸前で、地面から木の根がいくつも出てきて男の体に巻き付いていく。

 あっという間に男は雁字搦めの状態となり、そのまま地面へと引き込まれていった。

 同様に、貴族の男も同様に木の根に捕らえられ、地中へと飲み込まれた。

 衝撃的な光景にネイトはしばし唖然としていたが、エイモンの気配を察知し、機敏に視線を上昇させる。

 やや間を置いて、頭上にエイモンが姿を現した。


「悪人どもは、いったんこちらで預からせていただく」


 エイモンはわずかに肩を竦めたあと、ネイトとミラーナを真っすぐ見つめた。


「ネイト、ミラーナ。ふたりには心より感謝申し上げる」


 胸に手を当てて頭を下げたエイモンに続き、ルイモールとドレイクもネイトたちに感謝の意を示す。


「……それにしても、無茶したようだな」


 顔をあげたエイモンはにやりと笑うと、音もなく近づき、ネイトの左目に手をかざした。

 途端にネイトの視界が大きく揺れる。

 温かな熱が左目から体の隅々へと一気に広がり、ネイトはゆっくりと意識を手放した。




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