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二度目の人生、呪いも無能も継続中なのに、なぜか毒母が聖母すぎる  作者: 真崎 奈南
五章

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闇夜の救出3

 気絶した男をそのままに、ネイトは御者台から飛び降りる。

 戸口に向かって進む途中で合流したミラーナから唖然とした顔で見つめられ、ネイトはぎこちなく目をそらした。


(焦りで体が動いてしまった。今のは五歳児らしからぬ行動だったかも)


 どう誤魔化そうかと考えを巡らせていると、ミラーナの口元が緩んだ。


「手際の良さに見惚れちゃったわ。さすがネイトね!」

(なぜ褒められた?……い、いやでも、助かった)


 ネイトは苦笑いを浮かべつつ、小屋の戸の前で足を止めた。

 わずかに押し開けて、ミラーナと共に室内の様子をうかがう。


 小屋の中には、先ほど室内に入って行った貴族服の男性と庭で会った男の他に、見た目からして素行が悪そうな男たちが三人いる。彼らが手下で、庭で会った男が主犯と考えて間違いないだろう。

 そしてミラーナの言う通り、見える範囲にリリンナたちの姿はない。その一方、カーテンの陰にドレイクの気配があるのを確認する。


(こんな感じだったかな)


 室内の様子と記憶の間にずれを覚えてネイトが眉根を寄せた時、貴族の男がテーブルの上に分厚い札束を投げ置いた。


「言われた金額を用意した。早速見せてもらおうか」


 ならず者の男たちが目を輝かせて口笛を吹く中、主犯の男は確認するように札束を手に取った。


「いいでしょう」


 主犯の男はにやりと笑って、札束を鍵付きの箱の中に入れると、自分の背丈ほどある棚に向かって歩き出した。

 手をかけると棚は簡単に横へと動き、扉が現れる。そこでようやくネイトは違和感の正体に気づいた。


(そうだ。部屋が足りなかったんだ)


 記憶ではそこに棚などなく、もちろん部屋も隠されていなかった。

 しかし改めて思い返すと、取り引きや人に聞かれたくない話をするのにあの部屋が利用されていたため、ネイトは自信を持って断言した。


「リリンナたちはあの部屋の中だ。隙があったら突入する」


 ミラーナがより一層真剣な面持ちとなり、力強く頷き返してくる。

 慎重に機会をうかがうネイトの視線の先で、主犯の男がぎぎっと嫌な音を立てて扉を開けた。

 次の瞬間、カーテンの裏に潜んでいた小さな気配が飛び出し、開いた扉の隙間目掛けて飛んでいった。

 ネイトがひやりとするのと、主犯の男の手が動いたのはほぼ同時だった。


「はい。捕まえた」


 そう言った主犯の男の手の中に、ドレイクの姿が現れ出る。

 ドレイクは男の手から逃れようと必死にもがいていたが、次第に動きが鈍くなっていった。

 いつの間にか男の手にはめられていた薄汚れた手袋を見て、ネイトは拳を握りしめる。


(やっぱりドレイクの気配を気づかれていた)


 精霊を誘拐する際、麻痺と魔力軽減の効果のある魔法薬を染み込ませた手袋や麻袋を用いていた。

 あの手袋もそうだとすると、男はドレイクに気づいていて、捕らえる機会を見計らっていたことになる。

 主犯の男は達成感に満ちた顔で笑い、貴族の男が「おおっ、精霊!」と興奮気味に声を上げて、ドレイクへ顔を近づけた。


「面構えは悪くないが……うーん……はやく他のも見せてくれ」


 主犯の男は客の要求にこたえるように小部屋の扉を大きく開け放つと、ドレイクを掴んでいない方の手でポケットから鍵を取り出した。

 隠されていた部屋の中へ、男たちが足音を響かせてぞろぞろ入って行く。

 入り口付近に誰もいなくなったことでネイトの足がじりっと前へ進んだ時、薄暗い部屋の中で、貴族の男が嬉々とした声をあげた。


「おおっ、なんて美しい髪! 決めた! この女の精霊だ。これが欲しい」


 その言葉が、ネイトの一度目の人生での記憶を鮮やかに蘇らせ、苛立ちと嫌悪感を一気に増幅させていく。

 そこまでの慎重さなどかなぐり捨てて、ネイトはガンっと派手な音を立ててドアを蹴り開けた。

 その音で男たちのぎょっとした顔が一斉に向けられる。

 貴族の男は狼狽して後ずさり、主犯の男はわずかに焦った表情を浮かべたが、手下の男たちは好戦的な態度でネイトに向かって歩き出した。


「なんだこのガキは」

「女もいるじゃねえか」

「見られちまったら逃がすわけにはいかねえな。捕まえろ!」


 主犯の男が「おい!」と呼び止めたが、手下たちは聞く耳を持たない。

 捕えようとにじり寄ってきた男たちの動きを冷静に見つめながら、ネイトは背中に背負っていた木剣を引き抜いた。

 掴みかかろうとする手を機敏に避けると、手の甲やわき腹へと容赦なく剣を叩き込む。

 しっかり反撃しつつも、雑魚には用はないとばかりにネイトは真っ直ぐ主犯の男へと進んでいった。


「ドレイクを放せ!」

「断る」


 主犯の男が言い放つと同時に、ネイトは下から鋭く剣先を突き上げた。

 咄嗟に身を引いた男の鼻先を剣先が掠め、チッとネイトの舌打ちが小さく響いた。

 手下の男たちは痛みを与えられた横腹や手の甲をそれぞれ擦りながら、苛立った様子で再びネイトに狙いを定めて近づいていく。

 しかし、男たちの動きが同時にぴたりと止まり、唖然とした視線が足元に落とされた。


「なっ、……動かねえ!」


 男たちの足は凍り付いていた。動きを封じられた彼らの間を縫うようにミラーナが前へと進み出た。その姿を目にして、ひとりが吠えた。


「年増女、お前の仕業だな! ふざけるな!」


 途端、ミラーナは足を止め、ゆっくりと男たちへ振り返った。


「今、とてつもない暴言が聞こえたけど」

「暴言じゃない、事実だろうが! 何度でも言ってやる! ババアが!」


 引きつった笑みを浮かべているミラーナへと、男はさらに悪態をついた。

 すると、ミラーナは笑みを深めた。しかし、目は完全に笑っておらず、男たちの足から腰、そして胸元まで物凄い勢いで凍り付いていった。

 慌てて身をよじって氷から逃れようとする男たちへと、ミラーナは乾いた笑いを添えながら告げた。


「無駄です。逃がしません。あなたたちには凍っていてもらいます。だから黙っていた方が良いわよ。私、これ以上侮辱されたら、凍ったあなたたちを粉々にしてしまうかもしれないから」


 凍り付いた者を粉々にする。それは死を意味していて、男たちは口を閉じた。

 主犯の男はネイトの剣を避けながら、あっという間に頭のてっぺんまで凍り付き戦闘不能とさせられた三人を横目で見て、奥歯を噛みしめた。


「戦闘能力は高そうだと感じていたが、……くそっ!」


 よそ見をした主犯の男へ、ネイトは素早く攻撃を仕掛けた。


「ドレイクを放せって言っているだろ!」


 魔法薬が効きすぎてしまっているらしく、男の手の中にいるドレイクは顔色を失い、ぐったりとしている。

 なんとか奪い取りたくて、ネイトは男の肩や腕を執拗に狙い続けた。

 先ほどまで余裕の顔をしていた男だったが、手下三人を沈めたミラーナもネイトを補佐する形で魔法での攻撃を仕掛けてくるため、表情に焦りが滲みだす。

 主犯の男が手下たちへ炎を放った。しかし、ミラーナの魔力の方が強力らしく、男たちは凍り付いたまま変化はない。

 悪あがきを許さないとばかりに、ネイトが頭、足、腕、腹部へと素早く攻撃を仕掛けていく。

 剣先が男の肩を捕え、苦悶の声が響いた。握力を奪ったことで、男の手の中から床の上へドレイクは落ちていった。


「ドレイク!」


 力なく横たわる小さな体へと駆け寄ろうとした瞬間、主犯の男からネイトに向かって炎が放たれた。


(しまった!)


 咄嗟に手のひらを前へ向けて、魔法で対抗しようとしたが、炎は熱風へと化す。

 それをまともに食らってしまったネイトの体は吹き飛ばされ、壁へと背中を打ち付けた。

 ネイトが顔を歪めて痛みを堪える。その最中、背にした壁の向こう、隠されていた部屋で発せられた小さな悲鳴を耳が拾った。

 戸口から中を覗き込むと、まずは貴族の男の横幅のある背中が見えた。

 男の向こうに大きめの鳥かごがいくつも置かれていて、その中にリリンナたち精霊の姿があった。

 男は小さな戸の鍵を開けると、鳥かごの中へと手を突っ込み、あの茶色の髪の女の子の精霊を掴み取った。

 嫌がるように抵抗はしているが力は弱く、ぐったりしている。

 よく見れば、精霊たちはみんな首輪をつけられている。

 みんなドレイクと似通った状態であることから、首輪に魔法薬が使用されていると予想がついた。

 貴族の男は麻袋に女の子の妖精を放り込んだ。そのまま小走りで部屋から出てきた男の足へ、ネイトは力一杯しがみついた。




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