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二度目の人生、呪いも無能も継続中なのに、なぜか毒母が聖母すぎる  作者: 真崎 奈南
五章

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闇夜の救出2

「さすがゴードン、読みが当たったわね。あの男にミラーナを見張らせて正解だったわ」

「カメリア教会周辺での精霊の目撃情報が多くのなったのも、ミラーナが出入りし始めてからだ。あいつは精霊と繋がっている。離縁した後も使えるだけ使ってやろうじゃないか」


 にやにやとした下品な顔を突き合わせるようにして、アドリアとゴードンが言葉を交わしている。

 ネイトは今の言葉を聞いて、ミラーナが怒って飛び出して行くのでは考え、慌てて横へ目を向けた。

 しかし、ミラーナは軽蔑と嫌悪感が入り混じった顔でふたりを見つめているだけで、暴れ出しそうな気配は一切ない。

 安堵の息を吐いたところで、再びゴードンの声が聞こえてくる。


「ミラーナだけではない。ネイトの周りにも精霊の気配があるようだ。これからたっぷり、私の役に立ってもらおうではないか」


 さっきの言葉には冷静だったミラーナだが、「なんですって」と低く唸るように呟いた。

 飛び出して行って喧嘩を始めてしまいそうな様子に焦りを覚え、ネイトはすぐさま抑えにかかった。

 茂みの中の母子の攻防などまったく気づかずに、アドリアが高笑いした。


「坊やをたっぷり可愛がってあげないといけないわね」

(確かに最初は優しくしてくれたけどね)


 それは愛情からではなく、手綱を握るための手段でしかないでことを、ネイトは身をもって知っている。

 冷めた眼差しをアドリアに向けていたが、ミラーナが気遣うように自分をちらちら見ていることに気づき、思わず眉根を寄せた。


「どうしたの?」

「……いいえ、やめておくわ」


 ミラーナは出かかった言葉を飲み込んで、首を横に振った。

 すっきりしない態度を取られたことが面白くなくて、ネイトは「なに?」と詰め寄ろうとしたが、続けて聞こえてきたアドリアの言葉に動きが止まった。


「今日捕らえた精霊たちは高く売れそうね」

「ああそうだな。あとはあの男に任せておけばいい」

「客が来る前にここを離れましょう。……それにしても、気分が良いわ。明日ミラーナが消える。私があなたの妻になる時がようやく来たのよ。ねえ、今からどこかで祝杯あげましょう」


 アドリアがゴードンに腕を絡ませて体を密着させ始めたところで、ミラーナの手によってネイトの視界がふさがれた。


「ネイトは見ない方が良い」


 ミラーナの呆れ声でのひと言と共にむさぼるようなリップ音が微かに聞こえ、思わずネイトは口元を引きつらせる。

 子どもに見せられる光景じゃない。

 もちろんそれもあるだろうが、口づけを交わしているのは実の父親と今現在は赤の他人でしかない女性だ。

 ネイトに複雑な感情を抱かせないための配慮もあるのだろう。


 大人しく視界を隠されたままでいると誰かもうひとり小屋から出てきて、やがて三人分の足音が聞こえてきた。

 ミラーナの手が離れてネイトが視界を取り戻すと、ゴードンとアドリアはすでに馬車に乗り込んだ後だった。

 御者台に座った男が手綱を振るい、馬車はあっという間にネイトたちの前を通り過ぎて行った。

 馬の蹄も車輪の音も消え去り夜の静寂に包まれると、ネイトはミラーナと視線を交わして頷き合う。

 行動開始。極力足音を立てずに小屋へと近づいていく。


「どうやって潜入する? 裏口……があればそこから入る? それとも音を立てて外におびき出し、その間にこっそり室内に入る?」


 間取りを思い返しつつネイトが提案する。

 ミラーナが瞳を揺らして迷っているうちに、ふたりは小屋にたどり着く。ひとまず壁に背を預けて、中の気配をうかがう。

 答えを出せぬまま、ミラーナは窓からそろりと室内を覗き込んだ。

 ネイトも室内の状況を確認したいが、少しばかり背が足りず、顔をしかめる。


「精霊たちの姿が見当たらないわ」


 ミラーナから戸惑いと共に発せられたひと言に、ネイトは大きく目を見開く。


(もしかして読み間違えたか?)


 大きく動揺が走るが、ここまで道案内してくれた花の輝きや、先ほどのゴードンとアドリアの会話を思い出し、ネイトは冷静さを取り戻す。


「きっとどこかにいるはずだ。……頼む。いてくれ」


 切望の言葉を吐き出したあと、ネイトは目をつぶった。室内から精霊の気配を感じ取るべく、左目へと意識を集中させる。


(窓のすぐに向こうに気配がひとつ。……姿が見えないと思ったらドレイクだ。すでに中にいる)


 ゴードンとアドリア、もしくは御者台に乗り込んだ男がドアを開けて外に出てきた時に、ドレイクはひとりで室内に突入してしまったのだろう。


「……母さん、庭で会った男は中にいる?」

「ええ、いるわ」

(くそっ。あいつがいるとなると、遅かれ早かれドレイクがいることを気づかれるな。なんならすでに把握されているかもしれない)


 目を閉じたまま奥歯を噛みしめた次の瞬間、ネイトは弱々しい気配を感じ取った。


(……他にもいる。小さな気配がいくつか。リリンナたちだ)


 ネイトは勢いよく目を開けて断言する。


「母さん、間違いない。リリンナたちは中にいる。奥の方にわずかだけど気配を感じる」


 ミラーナは改めて室内を覗き込み、一拍置いて眉根を寄せた。


「見つけられないわ。もしかしたらどこかに隠されているのかも」

「それとドレイクがすでに中にいる。はやく合流した方が良いかもしれない。正面から突入しよう」


 正面突破を求めると、ミラーナの瞳が不安そうに揺れた。

 そのためネイトは背負っている木剣の柄をポンポンと叩き、笑みを浮かべてみせた。


「危険は承知の上。そのための力だ」


 ミラーナはわずかに目を瞠ったあと、にやりと笑い返してくる。


「わかったわ。大暴れしましょう!」

「……ほ、ほどほどでいいよ」


 ミラーナが全力で魔法を放ったら、間違いなく小屋は全壊するだろう。

 戸口に向かって、慎重に一歩踏み出したその瞬間、からからからとこちらに近づいてくる車輪の音を耳が拾った。

 ネイトとミラーナは視線を通わせると同時に、戸口ではなく小屋の裏手へと回り込み、再び息をひそめた。


(父さんたちが戻ってきたのか?)


 そんな考えが頭に浮かんだが、小屋の前に停まった馬車はミルツェーア家のものではなかった。

 御者が扉を開けると、中から恰幅のいい貴族服の男が出てきた。


(……あいつ)


 貴族の男に見覚えがあった。

 男はネイトに花をくれたあの薄茶色の髪色の精霊を飼っていた輩で、思わずネイトは拳を握りしめる。

 程なくして小屋の戸が開いて、庭で会ったあの男が姿を現した。


「さ、どうぞ中へ」


 男たちは似たり寄ったりの下卑た笑みを浮かべる。


「お前は外で見張っていろ」


 貴族の男は、御者台から降りてきた付き人らしき小柄の男へ当然のように命じたあと、上機嫌で小屋の中へと入って行った。


「俺は外かよ。寒いな」


 ぼやきながら御者台へと戻ってきた小柄の男へとネイトは素早く近づいていく。

 追いかけるようにしてネイトは御者台へと飛び乗り、突然目の前に現れた子どもに唖然としている男へ囁きかけた。


「少し眠っていて。邪魔だから」

「なっ!」


 男はネイトを掴もうと手を伸ばす。

 ネイトは男の手を機敏にかわすと、逆にその手を掴み取って引っ張り、前のめりになった男の首へと遠慮なく手刀を叩きこんだ。




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