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二度目の人生、呪いも無能も継続中なのに、なぜか毒母が聖母すぎる  作者: 真崎 奈南
五章

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波乱の前夜3

「もしかして……精霊さんたちになにかあった?」


 まだなにひとつ言葉にしていないというのにミラーナから言い当てられ、ネイトは大きく目を見開く。


「その通りだけど、どうしてわかったの?」


 ミラーナはネイトの疑問に答えるように視線をテーブルへと移動させた。

 テーブルにはネイトが内気な精霊からもらった、ふっくらとした大きな丸みを持つ花が飾られてあった。


「実は、エルザに木剣と一緒にこの花も持って行ってもらう予定だったのだけれど、うっかり忘れてしまって。見たことがなかったから、最初は国外の花だと思ったの。カメリア教会でオカリナの演奏を聴いた誰かが、ネイトにプレゼントしたものだと」


 そう考えるのも無理はない。

 精霊たちと別れた後、迎えに来たエルザに花を預かってもらったのだが、その際、ネイトは精霊からもらったものだと伝えていなかったからだ。


「でもね……」


 そこでミラーナの言葉が途切れ、再びネイトは目を丸くすることになる。

 紙風船にも似ている花弁が弱々しく光を放ち始めたのだ。


「国内外を問わず、光り輝く花なんて聞いたことない。だとしたら、精霊たちからの贈り物ではと考えたの」

「母さんの言う通り、この花は精霊にもらったものだ」


 ネイトの答えにミラーナは「やっぱり」と呟き、神妙な面持ちで話を続ける。


「それで、どうして私が精霊さんになにかあったかと思ったかというと……見ていて」


 花を注視するように促されて、数秒後、ネイトの目の前で大きな変化が起きた。

 輝きが消え失せると同時に花弁が一枚はらりと落下する。みずみずしかった花弁が一気に枯れ果ていった。


「精霊さんたちが助けてって訴えかけているみたいじゃない?」


 ミラーナの言葉通り、それは苦しみ悶える姿のようで、一度目の人生で目にしたあの内気な精霊の弱った姿と重なる。


(この花はあの精霊がくれたもの。このままだと確実に彼女は売られてしまう)


 見て見ぬふりをした大人の自分の愚かさが心を強く締め付け、ネイトは胸元を手で押さえる。顔を俯かせて、唇をきつく噛んだ。

 そんなネイトの様子に視線を配りながらも、ミラーナは重い口調で事の顛末を述べた。


「それで居てもたってもいられなくなって、直接ネイトにこの花は何なのか確認しに行こうとしたんだけど、ことごとく失敗に終わってしまって、途方に暮れていたところだったの」


 そこでミラーナは、ハッとしたように部屋の扉へ目を向ける。


「部屋の外にうるさい門番がいたはずだけど、よく通してもらえたわね。そうだわ、エルザは一緒じゃないの? 木剣を持っているってことは……」


 言葉を遮るようにして、ネイトはミラーナの腕を掴んだ。

 ほんの一瞬の間を挟んで、ネイトは勢いよく顔をあげると、しっかりとミラーナを見つめて訴えかけた。


「精霊たちが攫われてしまった。主犯はおそらく、母さんも庭で会っているあの男。俺はどうしても……皆を助け出したい! このまま見過ごすなんてしたくない!」


 突き付けた事実に、侍女たちから息をのむ声が聞こえてくる。

 ミラーナはわずかに表情を強張らせたが、予感はあったのか冷静な面持ちでネイトを見つめ返した。


(捕らえられた精霊の未来を俺は知っている。でも今動いたら、あの悲惨な未来を変えられるかもしれない)


 拒否されるかもしれないという恐れを振り切るようにして、ネイトは勇気をもってミラーナへと心を寄せた。


「悔しいけど、今の俺では歯が立たない……だから母さん、お願いだ、力を貸して欲してほしい」


 願いを込めて声を絞り出す。

 縋るように見つめる先で、硬かったミラーナの表情がゆっくりとほどけていき、自信たっぷりの笑みに変わった。


「もちろんよ! 全員、助け出しましょう!」


 ミラーナの腕を掴むネイトの手に、大きな手が重ね置かれた。

 温かさにネイトは大きくホッとし、同時に、心強い味方を得たことに自然と口元に笑みが浮かぶ。


「母さん、ありがとう」

「ローブを羽織るわ。ちょっと待っていてちょうだい」


 安堵と共に出たネイトの感謝の言葉にミラーナは柔らかく微笑むと、部屋の隅に積まれてある箱へと足を向ける。

 そこでネイトも改めて室内を見回し、物が少なくなっていることに気が付いた。

 おそらく箱には、明日屋敷を出て行く際に持っていく物が入っているのだろう。

 箱をひっくり返す勢いでローブを探し始めたミラーナの後ろ姿を見つめつつ、ネイトは思い出した様に先ほどの問いかけに答えた。


「エルザは俺の部屋にいる。俺の不在があの眼鏡の侍女にばれないように成りすましてくれている。それと、部屋の外にいた侍女はドレイクがおとりになって引き付けてくれている。この後、外で落ち合う予定。だから今、部屋の外には誰もいない」

「そう言うことだったのね。だったら急がなくちゃ」


 ネイトの報告を聞いてミラーナが慌てふためくと、以前、町に同行した侍女がミラーナの横に並び、一緒にローブを探し始めた。


「ではこの場は私たちにお任せください!」


 手を止めぬまま、彼女はミラーナへ宣言する。他の侍女たちも同じ気持ちのようで、みんな使命感に燃えた顔だ。


「お願いします。エルザの様子にも気を配ってもらえると嬉しいわ。でも、決して無理はせず。場合によっては私のせいにでもして、逃げ出してちょうだい」


 ミラーナが微笑みながら女たちに指示を飛ばすその傍らで、再び花が輝き始めたのにネイトは気が付いた。

 自然とネイトの足は、花に向かって進んでいく。

 手を伸ばして触れた瞬間、花弁が身震いしたかのように揺れ、纏っていた輝きがふわりと飛散した。

 戸惑っているネイト視線の先で、輝きは金色の線へと形を変える。そのまま窓の隙間をすり抜け、夜空に舞い上がっていく。

 ネイトは急いで窓へ駆け寄る。金色の線が向かっていく方向を確認していると、背後でバサッとローブを纏う音が響いた。


「私も花の輝きに触れたけど、さっきみたいに花弁を落としただけだった。でも、ネイトだとまったく違う反応ね」

「……俺を呼んでいるみたいだ」

「きっとそうね。リリンナたちがネイトを呼んでいるんだわ。ネイトなら助けに来てくれるって信じて。信頼に応えましょう!」


 ローブを纏って準備を整え終えたミラーナへ、ネイトは力強く頷いた。




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