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二度目の人生、呪いも無能も継続中なのに、なぜか毒母が聖母すぎる  作者: 真崎 奈南
四章

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未来と繋がる

 ネイトが警戒の体勢を取るより先に、精霊たちによって腕を引っ張られ、そのまま壇上へと連れて行かれる。

 戸惑いの中、ネイトがエルザからオカリナを受け取ったところで、再びシスターによって教会の扉が開かれた。

 一斉に精霊たちは姿を消し、それと同時に、ネイトを追いかけてきた人々が一気になだれ込んできた。


 人々は壇上にオカリナを手にしたネイトが立っているのに気づくと、速やかに椅子へ腰かけていく。

 期待の眼差しをネイトに向けているのは町の人々だけでない。姿を隠した精霊たちの視線もしっかり感じ取ることができた。

 ミラーナとジョセフとエルザがちゃっかり並んで椅子に腰かけているのを視界に捕らえ、ネイトの顔に苦笑いが浮かぶ。


(この状況で、面倒だから嫌だなんて言えない)


 オカリナを吹く以外の選択肢はないと悟り、ネイトは短く息を吐いた後、集まった人々に向けて一礼した。


(まあいいか。……母さんが家を出たら、しばらく吹くこともないだろうし)


 ネイトは真っ直ぐに自分を見つめるミラーナへ視線を返してから、オカリナを吹き始めた。

 時折拙くなりながらも、子どもが懸命に披露する姿は心に響くらしく、一曲吹き終わるごとに温かな拍手が贈られる。


 一度目の人生の時、オカリナを吹きながらネイトが見ていた世界は真逆だった。

 興味を持って耳を傾け、小銭をくれた人々もいたが、ほとんどは冷めた瞳、もしくは恐れを抱いた顔でネイトを見つめていた。


 それが自分の未来なのだと思うと、ネイトの胸が苦しさを覚えた。

 この温かな空気感に慣れそうになっていることに気づかされ、急に居心地が悪くなり、瞳を伏せた。


 続けざまに三曲吹くと、そこで閉幕を告げるようにネイトは頭を下げ、素早く壇上を降りた。


(あとはよろしく)


 シスターに視線で訴えかけてから、ネイトは誰の呼びかけにも反応することなく、外へと出て行った。

 そのまま教会の裏手へと回って、身を隠すように木の幹に背中を預けて地面に座り込んだ。

 耳を澄ますと、寄付を呼び掛けるミラーナの声が聞こえてきて、ネイトはゆっくり空を見上げる。


(人が捌けてから戻ろう)


 流れていく雲をただぼんやり見つめていると、急に多くの気配に囲まれ、ハッとさせられる。

 程なくしてドレイクとリリンナを始めとする精霊たちがネイトの前に姿を現した。


「わざわざ連れてきたの?」


 ネイトが目を細めて問いかけると、リリンナが心外だという風に首を横に振った。


「違うわよ。私がネイトの話をしたから、皆聴きたいって思ったみたい。カメリア教会にいれば聴けるかもって予想して、待ち構えていたんだって」

「……はあ」


 気の抜けた声音を返したネイトの目の前へ、肩に届くくらいの薄茶色の髪をわずかに揺らしながら女の子の精霊が気恥ずかしそうに進み出てきた。

 彼女から紙風船のように丸みを帯びた花弁を持つ花を一輪差し出され、ネイトは大きく戸惑う。


(こんな花、見たことないけど……もしかして毒があるとか?)


 ネイトから助けを求めるような視線を向けられ、思わずドレイクは笑みを浮かべて説明を始める。


「実はこいつ、祝祭の日にネイトのオカリナをこっそり聴いていたみたいなんだ。また聴けたのが本当に嬉しいらしい。もらってやれよ」


 女の子の精霊はとても内気らしく、頬を赤く染めたまま、まともにネイトを見れずにいる。

 ネイトは迷った末に持っていたオカリナを傍らに置くと、手を伸ばして花を受け取った。


「珍しい花だけど。変な効果はないよね?」

「あるわけないだろ。良い香りがするくらいだ」


 ドレイクにきっぱり断言され、ネイトは恐る恐る自分の顔に花を近づける。

 甘い香りがする以外は、体に痺れなどの変化が現れることもなく、ネイトは「確かに」と呟いた。


「この花は私たちの国でしか咲いていないわ。しかも栽培に手間がかかるんだから。それを贈られたのよ。もう少し喜びなさいよ!」


 リリンナから感謝を強制された気持ちになり、いまいちその価値がわからないネイトは口元を引きつらせる。


(俺にどうしろと? ……とりあえず「ありがとう」くらい言っておくか)


 花を貰ったのは事実であるため、ネイトは女の子の精霊へと視線を戻した。

 口を開いた瞬間、精霊の薄茶色の髪が日差しを反射し、ネイトの動きが止まる。

 陽の光を受けて、薄茶色が金色へと変化したのだ。

 それは非常に美しく、普通なら目を奪われるところだが、ネイトは違った。

 一度目の人生で、彼女を見たことがあるのを思い出したからだ。


 それはネイトが大人になってからの話。

 ゴードンの指示によって、とある貴族の男の元を訪ねた際、飼われている彼女を見た。

 彼女は表情を失い、とてもやせ細っていた。

 そして貴族の男が美しいだろうと自慢気に語った彼女の髪も、今、ネイトが目にしているほどの眩さはなかった。


 女の子の精霊はもじもじと体を揺らしてから、はにかむようにネイトに笑いかけてきた。

 そして、身を翻して他の精霊たちの元へと戻っていく。

 笑顔まで見せられ、ネイトの胸が痛みを発した。


「おい、ネイト。どうした?」

「……い、いや。別になにも」


 ドレイクに顔を覗き込まれ、ネイトは動揺を隠し切れないまま答えた。


「それじゃあ、私たちはそろそろ行くわね。素敵な演奏をありがとう!」


 リリンナはネイトにそう声を掛け、精霊たちと共に姿を消す。


「じゃあ、ネイトまたな」

「……待って!」


 そう言って姿を消しかけたドレイクへ、ネイトは大きく声を掛けた。

 ドレイクはその場にとどまり、不思議そうにネイトを見つめる。

 呼び止めたのになかなか言葉が出て来なくて、ネイトはただ瞳を揺らす。

 自分の元に残された一輪の花に視線を止めたあと、ほんの数秒瞳を閉じ、ネイトはようやく口を開いた。


「この花をくれた子に、伝えて欲しい。ありがとうって」


 あまりにもネイトが真剣な顔をしていたため、ドレイクは身構えていたが、飛び出したのが感謝の言葉だったことに、拍子抜けしたように笑みを浮かべた。


「わかったよ。ちゃんと伝える」

「それから、気をつけてって言って。庭で会ったあの男、危険だから注意して」


 ネイトの声音がさらに真剣さを増し、それにつられるようにドレイクの顔が強張った。


「あの子だけじゃない。精霊たちみんなに伝えて」


 未来で目にすることになるだろう光景を頭の中から打ち消すように、ネイトは真摯に訴えかけた。

 ドレイクが何か言いかけたところで、教会から出てきた人々で、入り口正面の方が一気に賑やかになる。

 それによって緊張が削がれ、ネイトとドレイクはわずかに表情を和らげた。


「忠告感謝する」


 ドレイクは力強く返すと、頭を下げる格好のまま、ゆっくりと姿を消していった。

 騒がしい声をどこか遠くに感じながら、ネイトは小さく笑う。


「……ドレイクたちにとって、俺も危険人物だよな」


 今更ながら気づいてしまった事実を小声で吐露して、瞳を伏せた。




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