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二度目の人生、呪いも無能も継続中なのに、なぜか毒母が聖母すぎる  作者: 真崎 奈南
四章

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新しい木剣

 男が立ち去ってから二時間後、ネイトとミラーナの姿は町の武具店にあった。


「本当にごめんなさい。まさかあんなに真っ黒こげにしてしまうなんて」


 ミラーナの炎魔法によって、ふたつの木剣が使い物にならない状態になってしまった。

 ネイトの木剣は初等部に入学後も使用する予定だったとジョセフに打ち明けられ、ミラーナが顔を青くしたのは言うまでもない。

 お詫びとして新たに木剣を購入すべく、こうして慌ただしく店へとやって来たのだ。


「わあ。素敵ね。これなんて、ネイトに似合いそう。絶対格好いいわ」

「母さん、それ木剣じゃなくて真剣だから。初等部では使えない」


 店の入り口近くに飾られてある細身の剣をうっとりと見つめているミラーナへ、ネイトは呆れ顔で声を掛けた。

 同行しているジョセフとエルザが、動く気配のないミラーナに苦笑いを浮かべたところで、店主が説明をはじめた。


「木剣はこちらに並んでいるふたつのみとなります。申し訳ございませんが、先日購入いただきました木剣はただいま品切れ中です」


 ネイトが使っていた木剣はこの店で購入した物らしく、店主が書類を確認しながら頭を下げる。


「そうですか」


 困惑の滲んだジョセフの呟きを聞きながら、ネイトは並べ置かれているふたつの木剣を交互に見た。

 一方は装飾が凝っていて、剣先や柄など細部まで配慮が行き届いている高級品。もう一方は、特に手が込んでいない簡素な低級品。

 値段に五倍近い差があることから、見た目だけで優劣を判断できるのも納得である。


(俺が使っていた木剣がちょうど中間の品だったみたいだな。こっちはすぐに壊れてしまいそうだし、こっちは高級品すぎて身の丈に合わない)


 ネイトが肩を竦めたところで、ようやくやって来たミラーナが店主に質問する。


「授業で使う木剣は、どれでも構わないの?」

「前回お買い求めになられたものが推奨品ではありますが、当店では大きさや重さなど基準内の品を取り揃えてありますので、どれを選ばれても問題ございません」


 店主の返答を受けて、ミラーナはふたつの木剣にぐっと顔を近づけると、吟味するように真剣な眼差しを向ける。


「同じものがよろしければ、予約を承ります。現在、職人が製作中ですので、仕上がりまで少しお時間をいただくことにはなりますが」


 提示されたもう一つの選択肢など耳に入っていない様子で、ミラーナは再び問いかけた。


「こちら、手に取ってみてもよろしくて?」


 ミラーナが指をさしたのは高級品の木剣で、店主は嬉しそうに手もみする。


「はい。もちろんです」

「ネイト、ちょっと持ってみてちょうだい」

「……母さん。ここまで高価なものは必要ないよ。授業で使うのもまだ先の話しだし、仕上がりを待つ時間は十分にある」


 ネイトは困惑の顔で首を振ったが、ミラーナに「いいからいいから」と押し切られてしまい、高級品の木剣を掴み取った。


(わ。手に馴染む。……これなら戦えそうな気がする)


 柄も握りやすく、なにより軽い。戦力となりそうな予感をネイトが覚えた時、ミラーナが高らかに言い切った。


「こちらをいただくわ!」


 戸惑うネイトをよそに、店主から「ありがとうございます!」と歓喜の声が上がった。




 店主に見送られながら店を出たあと、ネイトはジョセフが大事そうに抱え持っている新しい木剣へちらりと目を向けた。

 そして前を歩いていたミラーナの横に並び、話しかける。


「本当によかったの? 高かったけど」

「確かに値は張ったけど、悔いはないわ。私が贈った剣が、ネイトの未来を切り開く力になってくれるかもしれないもの」

「……未来を切り開く力」


 ミラーナは微笑みながらネイトに頷きかける。


「私が光魔法を覚えたのは、ネイトや誰かの力になりたかったのもあるけれど、望む未来を自分自身の力で掴み取りたいって思ったからよ。ネイトもそう思わない?」


(自分の力で未来を切り開く。……ほんの少しでもいい。未来を書き換えることができるなら、俺は……)


 頭に思い浮かんだゴードンの顔に反発するように、ネイトは拳を握りしめた。


「そうだね。……母さん、ありがとう」

「どういたしまして」


 ネイトが呟いた感謝の言葉に、ミラーナは嬉しそうに微笑むと、思い出したように続けた。


「そうだわ。せっかくだし、カメリア教会に寄って行かない? シスターがネイトに会いたがっているし」

「別に構わないけど」

「またネイトのオカリナが聴きたいって言っていたものね」

「私もぜひ聴かせてもらいたいわ!」


 急に話に割り込んできた声に、ネイトたちは揃って振り返る。

 街路樹にはドレイクとリリンナの姿があり、リリンナは目を輝かせてネイトを見つめている。

 ネイトは近くに人の姿がないのを確認してから、改めて精霊たちへと視線をのぼらせた。


「オカリナは吹かないよ。持ってきてないし」

「……奥様から必要になるかもと言われましたので、持ってきていますよ」


 エルザがポケットからそっとネイトのオカリナを取り出し、にこりと笑った。

 それにリリンナは大喜びして、「先に行っているわ!」とドレイクと共にその場から姿を消した。

 ネイトがじろりと見ると、ミラーナは慌てて視線を逸らす。


(母さん、元々そのつもりだったな)


 面倒な気持ちを隠すことなく、ネイトは口元を引きつらせた。

 そのまま一行は、カメリア教会へ向かって歩き出したが、その道中、ネイトは何度も後ろを振り返ることになる。


「あとをつけられているように見えるんだけど」


 ネイトたちを追いかけるように、老若男女関係なく、複数人がついてきているのだ。

 命を狙っている様子は一切ないため、彼らは刺客ではない。

 しかしそうなると、どのような理由でついてきているのか、ネイトは想像すらつかず、逆に警戒してしまう。

 そこでミラーナが「ふふふ」と笑った。


「祝祭の時、ネイトのオカリナを聞いていたご婦人もいらっしゃるわね。話題になっているし、もしかしたら聴けるかもって思って、皆さんついてきているのかも」

(それが本当なら、迷惑な話だ)


 逃げ出したい気持ちからか、ネイトが足早になったこともあり、あっという間にカメリア教会に到着する。

 すると教会の扉が開き、シスターが外に出てきた。ネイトたちに向かって、にこやかに手を振る。


「ネイト君、来てくれて嬉しいわ……あらあら」


 シスターもあとを追いかけてやって来た人々に気づき、目を丸くさせたため、ミラーナが誇らしげに言葉を引き継いだ。


「ネイトの魅力で、たくさん引き連れてきてしまったわ」


 シスターは愉快そうに顔を綻ばせると、一気に扉を押し開けた。


「引き寄せられたのは、彼らだけじゃないですよ。さあ、中へどうぞ」


 ネイトは促されるままに教会の中へと足を踏み入れ、真顔になった。

 ドレイクとリリンナの他に、多くの精霊がいたからだ。


(こ、これはいったい)


 思わず足が後退しかけた時、精霊たちが一斉に飛んできて、ネイトを取り囲んだ。




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