第三話 始まりは何となく③
頭がぼーっとする。
目を開けると無限の光が舞い込んできた。
「まぶしっ」
だんだんと慣れてきた。
俺はあたりを見渡す。
そこは、
「病院?」
まるで日本のようだった。
木でできた部屋。家具。ドア。
だが確実に違うところがある。それは、電気だ。ここには電気が通っていない。
しかし、電化製品らしきものがないわけではない。
彼の目には冷蔵庫らしきものも見つかるし、それに四角いあれは電子レンジだろう。
正確には電子ではなく魔力で動いているのだが・・・。
彼がそんなことを考えているうちにだいぶ時間が立ったようだ。
コンコン。
ドアをノックする音がする。
「はいるぞ」
そう言って入ってきたのは、彼を助けたあの女だった。
「なんだ、もう意識が回復したのか。おまえ、丈夫だな。私の騎士団に入らないか?」
「あなたは・・・」
「そうか。私のことを知らないと来たか。これは面白い」
「有名な人なんですか?」
「ああ、それなりにな。そうだ、今後のために自己紹介しておこう。このレム国の第一騎士団、その団長だよ」
騎士団長?
それは、すごい人なんじゃないか?
俺の知ってる本とかだと、団長ってめちゃ強い人なんだよな。俺が話していい相手なのか?
それに、今この人、レム国っていったよな。
確かに俺は地理に弱いが、それでも地球にある国とそうではない国の識別くらいはできる。
間違いない。レム国は後者だ。
つまり、ここは・・・
俺がここまで考えていると、団長が覗き込んだ。
「なんだ、考え事? 何か引っかかることでもあったか?」
「いえ、そういうわけではないですが・・・」
「なんだ急に。それより私はレム・モスキーだ。よろしく」
レムってことは・・・
「王族?」
「よくわかったな。一応、王家の血がながれた、王族ってことになっている。ま、王位継承兼はほぼないんだ。気軽に接してくれよ」
「はあ。そんなんでいいんですか?」
「なんだ、説教か? そんなことより、お前のことも教えろよ」
「俺のこと、ですか?」
「そうだ。お前があのときあの森で何をしていたか。あとついでに名前もな」
俺の名前、か。
その瞬間、俺の脳内を雑音が駆け巡る。
嫌な記憶だ。
もう二度と、この名前は聞きたくない。言いたくない。
ならば、偽造するしかあるまい。
「俺の名前は・・・イナリだ」
俺の名前を聞くと、モスキー団長は持ってきた書類に何かを書き込む。
「イナリ、か。よし、これで大丈夫だ。あの森へは、大方何かを集めに行ったんだろう。上へは適当にごまかしておくよ」
意外とあっさりとしているな。
イナリはそう、直感した。だが、彼も合理主義側の人間だ。話す時間はもったいないと思ってしまう。
「それじゃあ、私は帰るからな。この家はあと3日間くらいなら使っていいぞ。なんせ我が第一騎士団の拠点なんだからな」
そんなところにいたのか。
「わかりました。ありがとうございます」
「いいってことさ。それと、何かあったらすぐに私に言うんだよ」
「はい」
それを聞くとモスキー団長は部屋を出ていってしまった。
そしてそれと引き換えに、一人の人が入ってくる。
ビリリ。
空気がこわばるのを感じた。
「君が、我が騎士団を訪ねてきたっていう、男だな」
入ってきたのは、白衣姿の男だった。
メガネをかけ、髪をボサボサにしている姿は、清潔とはとても言えないものだったが、その目から放たれる圧は、凄まじいものがあった。
「はい、そうです」
「そうか。私は団長から君の診察を任されていてね・・・」
ホントはこんな仕事やりたくないんだけど。
そんな言葉が顔に書いてあるようだった。
「私も時間がないから手短に話すよ。君は、健康だ。以上」
「以上? もっとないんですか? 例えば骨折とか」
「ないね。至って健康だ。君は普通のミーミス人の体をしているよ」
ミーミス人・・・
ミーミスはおそらくこの世界の名前。
つまり、地球人とミーミス人はほぼ変わらないのか?
「あー、それともう一つ話してもいいかな?」
その男はイナリの方を見た。
そしてニコッと笑う。
「図に乗るなよ、一般人」
は?
「貴様ごときが団長に気にかけてもらえるなんて、なんて幸運なんだろう。でもね、そんな幸運を自分の実力だと履き違えるやつがいるんだよ」
「だから私は君に忠告をしにきた。今日中にここからでていけと、ね」
「話は以上だ。それじゃあ、さようなら」
そういって白衣の男は出ていった。
「名前すら聞けなかったな」
俺の言葉は空に消えていった。




