第二話 始まりはなんとなく②
あたりを光が覆う。
そして、少しの間をおいて、だんだんと落ち着いてきた。
それと同時に、あたりに緑が立ち込める。
「植物だ」
そこに生えていたのは、というよりは、そこら中に生えていたのは、木だった。
あたりを見渡す。
「ジャングルか」
「それにしても、いきなり拍子抜けだな。なぜ俺がこんなジャングルにいるのだろうか」
ーーーそれにしても、さっきのは何だったんだ? 『神』、だと?ーーー
少しの間考えるが、答えは出なかった。
「情報が少なすぎる」
よし。
今は忘れよう。
改めてあたりを見渡す。
そこには、森林が広がっていた。
うむ、情報が足りないな。
その時だった。
グルルルル。
最悪だ。
そりゃそうだよな。ジャングルだもん。猛獣の1匹や2匹、いてもおかしくない。
だが、そこにいたのは、猛獣などではない。
「なんだこれは・・・」
ーーー魔獣だった。
獣は、大きな牙を持ち、それでいて、ライオンやトラよりも一回り小型だった。
だがそれは危険度が低いということを表すのではない、
「にげられない」
そう暗示しているようだった。
そして、普通の、この場合の普通とは地球のという意味だが、普通の獣と決定的に違う部分があった。
それは、魔力。
この世界に来たばかりの者は魔力を認知することができない。
だが、魔力とは単に脅すためにあるのではない、魔法を行使するためにあるのだ。
魔獣のあたりを火の玉が舞う。
それは、列記とした魔法だった。
正確には低級炎魔法、ファイアボール。
別名、牽制魔法。だが、それは、人が、それも生身のがあたって死なないということの根拠になるには希薄過ぎた。
「う、わああああああ」
やってられない。
俺は逃げ始める。
こんなのやっていけるわけがない。
そして確信した。
ここは日本ではない。
森を走り抜けていく。左に、右に。
すでに足は5度限界を迎え、着てきた服は、原型を止めていない。
それもこれも、森という慣れない環境のせいだ。
木々を抜けるには余分に体力を削られ、枝枝はときに暴風のように牙をむく。
「生きたい」
俺は走る。
「生きたい」
俺は止まらない。
「いきたい」
少しでも遠く。
後ろから炎が迫るのを感じる。
嘘だ。だって俺はもう感覚がない。
俺は生きたいと願っている。
嘘だ。願う余裕すら俺にはない。
ならなぜ走る?
わからない。ただそうしろと感じたからだ。
そしてこれは彼に極大の変化をもたらす。まさに火事場の馬鹿力。ヒトの生存願望が生み出した兵器であった。
感じる。
後ろから何かを感じる。
こんな感覚は初めてだった。
俺はそっとそれを避ける。
ゴウゥ。
先程まで俺がいた位置を炎が通り過ぎていった。
この星では今の現象のことをこう呼ぶ。
臨死の覚醒。あるいは、雲の糸。
生物が極限まで追い込まれたときに発生する、急激な成長のことだ。
これにより、以前とは違う世界が、ワンランク上の世界が訪れる。
わかる。
わかるぞ。
俺はそうつぶやいた。
炎の位置。獣の位置。俺の位置。
木の位置、大地の位置。そして、謎の力の位置。
すべてが手に取るようにわかる。
ゾーン。
現代日本でもたびたび見られる現象。圧倒的過集中に入った者は、逆に冷たい世界に入るという。
いわば、凪。
俺は後ろを振り向いた。
眼前には獣が1匹。
獣が炎魔球をいくつも発生させる。
ひとふり。
そのかすかな動作で、ファイアボールは消え去った。
あとにはぽつんと残された魔獣が1体。
だが、そこまでだった。
いくら覚醒したところで、ゾーンに入ったところで、地球人のできることは限られている。
今だってそうだ。
地の力が弱すぎる。
「終わったな、俺」
ゆっくりと近づいてくる魔獣。
誰もが男の死を思っただろう。
だが、天は見放していなかった。
「そこまでだ、魔獣」
女の声がする。
俺の視界はもう霞んでよく見えない。
だから聞くしかない。
女は視線を男に移した。
「ここで何をしていたか、なぜ1人でいるのか、聞きたいことはたくさんある」
「だがな、これだけは言えよう。よく私がくるまで待っていた。あとは任せろ」
そういうと、女は構える。
シャキン。
剣を抜く音がした。
「魔獣よ、運がなかったな。お前は完璧だった。魔法も、狙いも、行動も。だがな、私が来てしまった」
「それが、お前の敗因だよ」
グルルルル。
魔獣が低く唸る。
そして、女に飛びかかろうとした。
「あ、危ない」
俺はとっさにそう叫んでいた。
「魔獣よ、私は動かないほうがいいと思うぞ。
だってーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーもう死んでいるのだから」
ゴト。
あまりにもあっさりと、魔獣は命をたった。
女は男を確認する。
「気絶したか。無理もない」
そして、彼のボロボロの衣服、さらには魔法を打ち消したことから考察する。
「こいつは、白だな・・・」




