暴食
「グルルルル……」
俺の中から、理性が消えていく。
視界が真っ赤に染まる。
お腹が空いた。
猛烈にお腹が空いた。
目の前にあるもの全てを、食らい尽くしたい。
《『暴食の魔獣』状態発動》
《全ステータスが100倍に上昇しました》
「な、なんだこの圧は……!?」
『鋼鉄の処刑人』が思わず後退る。
全身を覆う黒鉄の装甲が、俺の発するプレッシャーだけでギシギシと悲鳴を上げていた。
「レ、レモネ……!」
クロワが震える声で叫ぶ。
「ブレッド様が……暴食の魔獣になっちゃいました……!」
「嘘でしょ……雰囲気が違いすぎる……!」
レモネも剣を構えたまま動けない。
ふっくらとして香ばしかったはずの俺の表面は、溶けたバターの塗りに光り輝き、禍々しいオーラを纏っている。
今の俺の頭の中にあるのは、ただ一つ。
【喰らう】。
「グオオオオオオッ!」
俺は咆哮した(パンだけど)。
そして――消えた。
「なっ――!?」
魔物が目を見開く。
超高速。
『飛翔』を超えた超絶的な速度で、俺は魔物の背後へと回り込んでいた。
「どこへ行った――」
魔物が振り向くより早い。
俺はそのまま、魔物の首元へ飛びついた。
ガブッ!
「グギャアアアアアッ!?」
魔物が絶叫した。
俺には口がない。
だが関係ない。
『暴食の魔獣』と化した俺は、接した部分の物質を【食らい尽くす】のだ。
バリバリバリッ!
硬度ダイヤモンドを誇るはずの魔物の鋼鉄装甲が、まるで煎餅のように砕け、俺の体の中に吸い込まれていく。
「な、なんだこれは!? 俺の鎧が……喰われていく!?」
魔物は必死に俺を振り払おうと腕を振るう。
だが、無駄だ。
今の俺は、あらゆる攻撃を透過し、触れたものを食い荒らす災厄そのもの。
バクバクバクッ!
「助け――グギャアアアアアッ!」
わずか数秒。
三メートルを超える巨大な鋼鉄の魔物が、跡形もなく消え去った。
俺の体の中に、全て「捕食」されたのだ。
「ひ……」
クロワが腰を抜かす。
「一瞬で……あの魔物が……」
レモネも言葉を失っていた。
魔物を平らげた俺は、ゆっくりと空中を旋回する。
まだ足りない。
全然足りない。
もっと食わせろ。
俺の赤く光る眼光が、ゆっくりとレモネとクロワに向いた。




