サンドイッチ屋編 後編
「さぁーて、この店も潰してやるか」
西村は電話で伝えた作戦通り、早々に店を締めようとする
締め作業は順調に進みゆく、ただ一つのイレギュラーを除いて
「注文、いいですか?」
二人、客がやってきてしまった
男女が肩を並べ、カウンターに並ぶ
一方、男の方は肌を焼いているか、小麦色であり
また、服装は気にかけておらず、胸元が開いている
要するに、頭が悪そうに見える
一方、女の方は化粧が厚く施されていて
また、際どい服装をしており、周りの視線を集めている
要するに、頭が悪そうに見える
(おえぇ、馬鹿が二匹たかってきやがったよ、今すぐ消え失せろよ)
男は堂々とカウンターに腕を置き、注文をする
「俺ぇ、ホットコーヒーで」
女もそれに続いて、注文をする
「じゃ私、クリムゾンカウで!」
「…ッチ、以上ですね?」
西村は、いつもより目つきが悪くなっている
いまや西村の目は、蛇と同等と言ってよいだろう
「え?じゃなかったら言ってますけどー?w」
「それなーww」
西村は、客どものうざったるい会話に思わず拳を振り上げそうになった
わずかに右肩が動いただけで、西村はすぐ思いとどまった
「…かしこまりました」
西村は、ホットコーヒーを淹れるとき、温度を数度上げた
そして、エナジードリンクを淹れるとき、先に缶を思い切り振った
「番号4NKSGの客ー?」
「こいつなんか態度悪w」
客は各々の飲み物を持ち、カウンターを離れていく
西村は、レジの電源を落とし、休止中のパネルを乱雑に置く
そして締め作業を再開し、最終的にすべての機具の電源は落とした
西村は着替えをして、店を出ようとしたその時…
突然、強く金属を叩きつけるような音が鳴り響く
西村はまさかと思い、カウンターに向かう
「どういうことだよ!!」
先ほど対応した男が、カウンターを思い切り蹴っている
足がカウンターを押し出す度、音は鳴り、足跡が付き大きくへこむ
男は西村に気が付くと、拳を握りしめカウンターを思い切り叩く
「ホットコーヒーで火傷したぞ、賠償しろ賠償!!」
「はぁ?ホットの意味知ってます?」
「ホットコーヒーが熱すぎてこぼしたら火傷したんだよ!
いくらなんでも熱すぎだろうが!!」
西村は、相手のレベルがあまりにも悪い意味で桁違いで頭を痛める
だが、悪夢はまだ終わりではなかった
「ていうか、金返しなさいよ!
あのエナドリ飲んでも翼もらえなかったんだけど!!」
「エナドリにアルコールは含まれてないが?」
「広告とかで翼を与える~とか言ってたじゃない!
詐欺よ詐欺!!金を返しなさい!!」
「お前比喩って知ってるか?」
「まだこっちの話が終わってねぇだろ!!
火傷どうすんだよ!!」
「金は返すの!?返さないの!?
返さないなら訴えるから!!」
「賠償!賠償!賠償!賠償!」
「訴訟!訴訟!訴訟!訴訟!」
西村は、限界を迎える
「黙れ!!さもなくば殺すぞ!!」
西村は思い切りカウンターに拳を叩きつける
それは大きな音が鳴り、西村を除き全員を黙らせた
「俺は末端の店員だ!
八つ当たりして楽しいのか!?
ホットコーヒーは熱いものだし
エナドリは飲んでも翼はもらえねぇよ!
お前は車に轢かれて歩行者が悪いと言われてぇのか!!
お前は漫画やアニメに大嘘つきと言いてぇのか!!
世界はお前らを中心に回ってねぇんだぞ!!
全部お前らの思い通りにいくと思うな!!
分かったら回れ右!!二度と現れるな!!」
西村は怒りの感情を一つも残さず全部吐き出した
数秒、沈黙が続いた
「…う、うわ、なんか怖…」
「…うん」
客二人は、そそくさと帰っていった
西村は、ひどく疲れた様子で、店を閉めた
「慣れないことしちまったな…
…明日の朝、起きれるかな」
シフト時間を破り、早く店を閉めたが時刻は深夜
計画は明日の朝、シフトの一番早い時間に実行される
「まぁ、最悪遅刻してもいいか、そうなってもいいようにしてるし」
西村は、自らの腐った労働環境に終止符を打つ
また無職になるが、仕事ならまた探せばいい
「おはようござーす」
西村はシフトの一番早い時間の朝6時に現れる
ほかのアルバイターも多く居て、スタッフルームは手狭だ
「西村、話がある」
店長が現れる
店長は険しい顔をしており、西村を呼び出す
西村はのこのこと現れ、店長についていく
店長は、客側のレジカウンター前に立った
「西村、お前がいながらどうしてこうなった?」
店長は足先でへこみを軽く蹴る
そこにはいくつかの足跡と大きなへこみがあった
「ここの修理代は給料から天引きするから」
「は?俺が壊したわけでもないのに?」
「何を言っている、お前はなぜこれを防がなかった?」
「いや、俺がどうこうというより、壊したの客なんで」
店長の顔の皺は、より深くなり怒りが込みあがるのが見て取れる
西村の顔はいつものように不機嫌そうだ
「だから言っているはずだ
お前がなぜへこみの発生を止められなかったかを聞いている」
「だから、俺はなにもしていない、客が勝手に…」
「それが問題だろう!!」
店長は声を荒げる
「給料は与えてやっているのに、なぜ店を守ろうとしない!?」
「知ってます?労働の対価は給料って
だったら金をもっと寄越せや」
「知ってるが?労働の対価は給料って
だったらもっと働けや」
「言いましたよね?金をよこせと
店を守りたいなら別で金が必要
タダで働けないから対価が必要
この店に思い入れとかないので」
「だから言ったろ、もっと働けと
なんのための給料だと思っている
思い入れとか関係ないから
それじゃあ修理費50万」
「そんなのたかがバイト一人に背負わせると?
逆になんのための給料だと思っている
店に支払う罰金のためじゃないから
それってつまり無賃労働同然」
「責任は他の誰かにあるとでも?
実際問題カウンターはへこんだ
だからお前は金を払うべき
それってつまり自業自得当然」
「そんなの無理、払えない
だから責任は俺にないって
お前の鼓膜は生ハムか?
いっぺん耳でも脳でも買い替えろ」
「そんなの無理、認めない
だから責任はお前にあるって
お前の鼓膜は輪ゴムか?
そんな金あるなら支払えや」
「それなら俺、辞めるんで
この仕事からおさらばで
金はもちろん、お前負担で
それではさようなら」
「それは別に、いいけれど
責任からは逃げられない
金はもちろん、お前負担で
それではさようなら」
「おっと、仕事辞めるのは俺だけじゃないぞ」
その一言で、キッチンからアルバイターがぞろぞろと出てくる
その手には、退職届を持っている
「は?一気に全員辞めるのは卑怯だろ!!
そんなの認めないぞ!!」
「認める認めないの問題じゃないので、それではさようなら」
西村達は、退職届と制服を店長の足元に投げ、その場を去っていく
その後、店長は本日3人目の客と喧嘩し捕まったそうな
「あーあ、結局辞めちまった」
そんなことを言うがそこまで後悔はない
なんだかんだ西村には、新たな就職先を見つける謎の自信があるからだ
サンドイッチ屋で働いていた他のやつらとはもう交流はしていない
次に西村はどこで暴れるのだろうか




