マスターなーの
朝、ハクが天井から引き抜かれた後、部屋の外に出るとすでにエティエンヌは国の視察に行ってしまったらしい。
仕事が早いのはいいことだが、どこで寝ているのか少し疑問になるほどよく働く男だ。
だが実はハクに関しても、今日は国に出ることにしていた。
トレットもそれについてきているので散歩しているような形になっている。
もちろんティナは施設でリアムといる。見張りの役割を果たしているようだ。
「トレット、俺の目的がわかるか?」
「わかるぞ・・・例のカフェだろ?」
トレットは横目でハクの方を見てくる。なんともむかつく表情だ。
「その通り、とりあえず適当に散歩してから路地に入ろう。」
ハクは国をせっせか歩き回ると、小道に入ったところにいつもの趣のある見た目のカフェが見つかる。
「やっぱり求めると出てくるんだな・・・このカフェは・・・。」
ハクとトレットはカフェの扉を開けてその中に入った。
そしていつのもの窓際一番奥の席に着席する。
「いらっしゃいませ。」
マスターがそういうと、すでにいつものコーヒーを持っている。
相変わらず他に客はいないようだ。
「マスター相変わらずこの店は不人気だな。」
マスターは仰々しく目を見開く。
「おやおや、そんなことはありませんよ。私としても、信頼のあるお客様の相手をしているので、それなりにお客様の管理をさせていただいているだけです。」
「随分と簡単に言ってくれるが、この店のそういう管理の仕方は異常だと思うぞ。」
トレットはマスターに的確な突っ込みを入れる。
「ふむ、それは残念ですな。」
マスターは席に着き、自分の分のコーヒーを一口飲んだ。
「それじゃ【次の魔導書どうすんの?】会議をこれより開催したいと思う。」
ハクは仰々しく言い切った。
「なんだその名前。」
「同意ですな。」
ハクはマスターとトレットに辛辣な突っ込みを入れられる。
「おい、俺だってそう思うけど、話を仕切りなおしたかったんだよ。」
ハクはそういうとトレットから真理の魔導書シリーズの地図を預かり、机の上に広げた。
「ふむ・・・とりあえず、俺たちはこの後一旦ディアスゴルトに帰らなきゃいけないからな。あそこから一番近い魔導書は・・・【時の書】だな。」
ハクは地図の一点を指さした。その場所には確かに【時の書】と書かれている。
だがマスターが顎に手を置いて考えるそぶりをしている。
「【時の書】は少し特殊ですから、もう少し力を付けてから取りに行ったほうがいいかもしれませんね。」
マスターの目は珍しく真剣だ。
「そうなのか・・・。でもマスターがそういうならとりあえず【時の書】は保留していこう。となると次に近いのは【地の書】か。」
ディアスゴルトからは若干距離があるが、それでもほかの魔導書からしたらかなり近い位置にあるみたいだ。
もちろんそれは地図通りだったらの場合だが。
「でも実際【命の書】みたいに全く別の場所に魔導書がある場合があるからな・・・。ちなみにマスターこの場所はどんな感じだ?」
ハクはマスターの方を見る。
マスターはただ笑顔でコーヒーを飲んでいるだけだ。
「なるほど、ここには確かに魔導書がありそうだな。」
ハクはコーヒーを飲んで一度落ち着いた。
「そうだ!こういう時にZEROに聞けば何か情報を持っているかもしれない。」
ハクは携帯を取り出して、ZEROを起動した。いつもなら携帯画面に大きくZEROが映るのだが今回はそれない。なぜか画面の隅でこちらに背を向けているようだ。
そしてごそごそもぞもぞしている。
「ZERO・・・何してるんだ?」
『え・・・!?なんでいつの間にアプリを開いているのですか!?』
ZEROは背中越しにこちらを見るとあたふた焦りながら、何かを隠した。
「それ何を隠したんだ!?」
『え・・・?何も隠してはいませんよ。それでご用件は?』
明らかに強引に話を変えようとするZERO。
「・・・まぁいいか。とりあえずこの国【マリトルム】について何か情報はないか?」
ZEROはいつものように落ち着いたそぶりに戻った。
『マリトルムは地下に王国を築いています。あの国の・・・というよりもあの地域はありえないほど、気温が高く地表にいては人間が生存することはできません。ですがあの地は暮らしにくい地表とちがい、地下には比較的暮らしやすい空間がすでにできていたのです。その原因は太古の超文明が作り上げた地下の大王国のおかげでした。その文明を築いたのが人類かどうかすら不明ですが。とりあえずは超文明は人類がマリトルムを発見した時にはすでに滅んでいたんです。そこで地下に人が住み着き、また新しい文明社会をきずきました。現在は貿易都市としても有名です。それこそ色々なお店があり、中には非合法的なものを売買する店も数多く出店しているようです。』
ハクは適当に聞いたつもりだったが、さすがはZEROかなりの情報量を持っているようだった。
「ありがとうZEROかなり役に立つ情報だったよ。」
『いえ、当然の働きです、お気になさらずどうぞ。』
ZEROは画面の隅で体育座りしてしまった。
「ふむ、先ほどのZEROの話を聞くにその地下の超文明が【地の書】を活用した可能性は十分にあるな。とりあえず目的地はマリトルムで決定でいいだろう。」
ハクは静かにうなずいた。
ちらっと横目でマスターを見ると、何かを言うか迷っているそぶりがあった。
「この国に行くのであれば、ある一つのお願いをしておきたいのです。」
「なんだ?」
マスターが頼みごとをしてくることはほとんどないのでハクも少し警戒してしまう。だがマスターは何かを言い出すのを戸惑っているようだ。
「気にしないでくれ、マスターにはいつも情報を貰っているからな。ちゃんとやるさ。」
「ありがとうございます。それではこの国には今ある奴隷がいると思います。その人を助けて出してほしいのです。」
「・・・それだけか?財力には多少自信があるから問題なく助けることができる。安心してくれ。」
マスターはまたコーヒーを飲んだ。
「それは助かります。どうぞよろしくお願いします。」
「でもマスター助けた後はどうするんだ?」
「どうぞご自由になさってください。そのまま解放してくださっても結構です。あの状況から助けることが重要なのです。」
・・・?ハクは少しこのマスターの話のニュアンス的な部分で違和感を覚えた。
「・・・わかった。それでは任せてくれ。」
だがハクはそれを気のせいだと思い、マスターのお願いを快く受け入れた。
もちろんそれを後に後悔することになるのは言うまでもないだろう。




