絆なーの
トレットはある日自分について疑問に思うことがあった。
トレットは実はハクが【ディオス・ヴァキオ】使用するとハクの匂いをたどることができなかった。
だがあの日トレットはあることに気づいた。
そう、あれはエルミラがルゴールと戦っていた日、あの日確かにトレットはあの大きなダンジョンでハクのにおいを感じ取った。
ハクは間違いなく、自分に魔法をかけていたはずなのに、トレットはそれでも匂いに気づくことができた。
そこで自分の体に少しずつ変化があることに気が付いた。
だがそれを自分で形容することができない。
それにいつの間にか変化が起きていたので何がそれをもたらしたのかもわからない。
だがハクと一緒に戦ってきた中で経験値などが自身にたまり、トレットの持つ能力は次の段階へと進もうとしていた。
それと同時にハクとの間にトレットは確かに絆を感じていた。
非常になんとなくだが、これまで誰からも使われてこず、ただひたすらにハクと一緒に戦ってきた結果、トレットは確かにハクとの間に何らかの絆が芽生えていることに気づいていた。
「それにしてもなぜハクは出かけるなら俺を連れて行かなかったんだ。あとからそっちに行く方法なんて俺は知らないぞ。」
トレットは自分の後頭部をかきながら考えていた。
「でもなんとなくここからでもハクのにおいをかぎ分けることができる気がするぞ。」
トレットは空をスンスンして匂いを嗅いでいる。
「やっぱりハクのにおいがするぞ。後はここからどうやって移動するかなんだが・・・。」
トレットはまた頭を後ろ足でかいている。
「仕方ない・・・全力で走っていってみるぞ。」
トレットはこれからありないほどの距離を走破しようとしている。
だがそれしかない、それ以外に方法が思いつかないのだから。
トレットはただ走り出した。己の持てる全力で、かけがえのない友のもとへ。
一方そのころハクはいまだバルドに押されていた。
ハクはいまだダークボールを両手両足を駆使してそらし続けていた。
だがそんな中でもハクの頭の中に何か糸のようなものがイメージされ、それが先ほどから微弱だが揺れている。
「あぁ、なるほど・・・トレット・・・俺たちいつの間にかここまで絆を深めていたんだな。今ならわかるよ、お前が俺のもとへ駆けつけようとしていることが。」
とりあえず、この状況を変えたいな・・・一瞬でいい、この魔法を一つでいいから奴の方へと跳ね返して隙を作りたい。
ハクは集中する。するとハクの体の周りを光の粒が漂う。
「俺は魔素に愛されているんだったな。だったらたまにはうまく使わなくちゃな。」
ハクの手が滑らかに動く。そしてそれを光の粒が追いかける。
マシンガンのように放たれるダークボールの中から一つを選び取り、それを光の粒で誘導する。
ハクの体は器用にそれ以外のダークボールをかわしながら一回転する。
だがあまりの連射にかわし切ることはできずに、体に擦り傷を増やす。
それでも一級だけバルドに返すことに成功した。
「むっ?面白い。【ダーク・シールド】」
一瞬だけダークボールのマシンガンが途切れ、隙が生まれる。
ハクは立ち上る砂煙の中で両手を広げた。
「今ならここに来れるだろう?トレット。」
ハクはイメージした。いつも通りトレットがその両手にはまっていることを。
そして遠く離れた場所でただひたすら走っているトレットもそれを感じた。
「うん、今ならいける気がするぞ!」
トレットは声が聞こえた気がしてハクの言葉に返事をした。そして走っている勢いを殺さず、そのまま大きくジャンプする。
その場からトレットの姿が消えた。
ハクの周りに立ち上る煙が晴れると、そこにはトレットを装備したハクの姿がある。
そして以前は肘までのガントレットだったはずが、いつの間にかガントレットは肩にまで到達していた。
ハクの右腕に漆黒、左腕に純白のガントレットがはまる。だが以前のように無造作なラインが入ったデザインではなく、今度は規則性が生まれていた。
右手の甲には純白の円が出来上がり、指先一本一本に向かって綺麗にラインが円から延びる。そして方に向けて、ラインが伸び、また方にある純白の円にぶつかる。だが肩の円の中心は黒くなっている。それが左右対称になっているデザインになっていた。
「おいおいトレット君、これはパワーアップしたんじゃないの?」
「おいおいハク君、これはパワーアップしたみたいだぞ。」
ハクの脳内で犬なのにトレットがにんまりと笑って見せる。
「俺の能力はすべてが一段階ずつレベルアップしたぞ。【万能治癒】は【再生】へ。【万能防御】は【鉄壁】へ。【次元干渉】は【次元掌握】へと。」
「伝わってくる、以前よりはっきりとトレットの力が。」
ハクは漆黒の右手を握りしめて確認する。
「なるほど、これはわざわざイズラまで薬を貰いに来た価値はあったな。」
ハクがトレットの新しい力を確認していると、バルドが口を開く。
「面白いものを見た・・・。生命体を武器化できるとは、随分ユニークな使い魔だな。」
バルドがトレットの方を見る。
「決めた。お前を殺してそれは俺がもらおう。」
自分が負けるとは微塵も思っていないバルドはハクの方を見る。
そして黒い残滓を残し、またバルドはその場から消える。
いつの間にかハクの背後へと移動していた・・・はずだった。
「・・・馬鹿な。」
「こいつはすごいなトレット、【次元掌握】まで来るとリアル瞬間移動ができるわけか・・・。」
ハクの後ろをとったはずのバルドの後ろにハクがいる。
「これが新しい【鉄壁】威力だ、存分に味わうといい。」
ハクはそういうと、後ろから思いっきりバルドを殴りつけた。
バルドはそのまま吹っ飛び、市街地フィールドのビルを何棟も貫通する。
「俺の基礎の力も上がっているとは思うが、【鉄壁】は手先に重みをプラスすることもできるのか・・・。」
砂煙の立ち上るビル壁から、バルドの細長い腕と指が伸びる。
「今のは・・・痛かったぞ【ダーク・ゲート】」
バルドの黒く禍々しいオーラを放った大きな扉のような門が出てくる。その門の両サイドには小さな悪魔のようなものが造形されていて、片方は笑い、もう片方は泣いているようだった。
「深き眠りから目覚めよ、我が同胞の亡者たちよ。」
門があくとそこから角を生やした黒い人型のオーラが5体出てくる。
おそらくは魔人の亡者だろう。
「随分悪趣味な魔法を使うんだな。死人すらこき使うとは。」
バルドはビルの壁面からうつむきながら出てくる。
「魔人とは生まれながらに戦闘を義務付けられた種族。死してなお戦えることを喜ばないものはいない。」
そういって顔を上げたバルドの顔は満面の笑みだった。




