オーマイガットなーの
「とりあえずはイズラは小さいから、外で戦ったら簡単に火の海になりそうだな。」
「それなら私が上手くクローンたちを使って魔人をこの前の仮想市街地に誘導するよ。」
リアムが早速どこかに連絡しているようだ。耳に何らかの端末を装着して通話している。
「ふむ、魔人は現状この施設を上から見下ろしたまま動いてないらしい。お行儀よく入り口から入ってくれるといいけど。」
「それはどうだろうな、魔人が俺たち思い通りに動いてくれるといいんだが。」
「とりあえずタレットを動かすよ。」
リアムはポケットから携帯を取り出すと、簡単に操作する。
「これでタレットが起動した。今頃魔人はバシバシ銃で撃たれてるはず。」
一同は空を見上げた。
「これってろくにダメージを与えられず挑発しただけじゃないか?」
「うん、それもそうだね。とりあえず市街地フィールドにフォルテを設置してみようか。彼が説明書代わりだと思ってくれてるなら、向かってくれるだろうし。ハクはすぐに向かって。」
「了解した。」
ハクはさっさと部屋を出ていく。この施設の地図はなんとなく頭に入り始めている。といっても広すぎて自分が使う通路を覚えているだけだが。
リアムに聞いたところによると、この施設は別にハクたちが以前戦ったところが最深部というわけではなく、地下にどんどん広がっていっているらしい。どうも相当な規模らしいが、そこまで興味がないので掘り下げなかった。
ハクはすぐに市街地フィールドに向かった。
ハクが部屋を出ていってすぐエティエンヌはティナのもとへと向かった。ハクが勝てない最悪の場合を想定して、ティナを共闘させるために起こそうというだけだ。
そしてリアムの作戦が成功したのか、市街地フィールドの方でフォルテの魔力が膨れると、上から感じていた魔力が無事に動き始めた。
「さすがリアムだ、作戦通りに進んでくれているみたい・・・だな?」
突如施設全体が揺れる。そして轟音が鳴り響くと、魔力は一気に一直線でフォルテのもとへ向かった。
「おいおい、まさかこの施設を貫きながらフォルテに向かってるのか。こりゃリアムは災難だったな。」
ハクは異常事態を感じ取りさっさと魔力の方へと向かう。
市街地フィールドまではすぐにたどり着くことができた。
市街地の中心に、ちょうど漆黒の羽を広げて降り立った魔人がいる。
黒いぼろきれのような布を羽織り、それをマント替わりにしているようだ。黒くて長い闘牛のような角を生やし、やけに白い肌と、白目のない黒い瞳をしている。常に眉間にはしわを寄せ、体はやや細長い印象を受ける。背は二メートルに届くほどありそうだった。
だが武装している様子はない。
「う~ん、これはなかなか困るね。」
近くにしてみるとわかるが、敵の魔力はその体の中に凝縮されているのか、あまり規模がわからない。だがすさまじい凝縮・濃縮された魔力をその体の内から感じる。おそらくは相当な魔力を内包しているだろう。
「ここにフォルテはいない・・・残念ながらお前に逃げ道はない。」
ハクは早速魔人に話しかけた。
「逃げ道・・・か、それは私には必要はない。このように作ればいいからな。」
魔人は天井を見上げ、自分の開けた大穴を指さす。
「俺の名前はバルド・デリース。魔王軍が幹部の一人だ。」
魔人はようやく天井を指さしていた、細長い手を下げ、ハクの方を見る。
「お前からはさほど脅威を感じないな。どちらにせよ殺すが、その前にフォルテの居場所を吐け。それでお前が楽に死ねるかどうか決まる。」
魔人はそういうと、ハクの方へと歩いてくる。
「なるほど、とりあえず死にたくはないからお前は俺が倒そうかな。」
「それは無理だろうな。」
魔人は黒い残滓を残すと、その場から消えハクの目の前に一瞬で現れた。腰を少し曲げあえてハクに視線を合わせてきた。顔面同士の距離は30cmほどしか開いていない。
「我々は命の書を使用し、各々の力をさらに発展させた。その結果我々はここに能力を手に入れた。ちなみに私のはこれだ。」
ハクは一瞬でバックステップで魔人から距離をとろうとする。
だが次の瞬間バルドはまた姿を消す。すると下がったはずのハクの背後に魔力の気配が動き、後頭部に指が当てられた。
「今お前には選択肢が二つある。フォルテの居場所をはいてから死ぬか、このままじっくり殺されるかだ。」
ハクは前を向きながら呪文を唱える。
「【ディオス・ヴァキオ】」
ハクの体は次元からずれる。
「なんの魔法だ?まぁいい死ね【ダーク・ボール】」
闇属性の初級魔法がバルドの指から放たれる。その黒い球は一瞬でハクの頭を貫通すると、市街地フィールドの建物を何棟も貫通した。
ハクはそれを確認した瞬間振り返り、バルドを殴りつけようとする。
だがその瞬間バルドはまた黒い残滓を残しその場から消えた。
「なるほど、能力か・・・厄介だな。」
「お前の魔法・・・実に面白い。少しは遊べそうだな。」
バルドはにんまりと笑う。
ハクは今あることを悔やんでいた。ここまでの戦闘になることを想定しておらず、トレットを連れてこなかったことを。
「さすがにこいつは武器なしじゃ辛そうだ。」
そのタイミングでちょうど、市街地フィールドにリアム、エティエンヌ、ティナがたどり着いた。
「ふむ、ゴミがわらわらと増えるな。まぁいいゆっくりと全員殺すか・・・。」
バルドはハクの方を見た。
「とりあえず、お前の周りの次元がずれているのが気に食わないな。これでどうだ?【ダーク・マター】」
はっきりとハクは自分の【ディオス・ヴァキオ】が解けるのを感じた。
だがそれはただ解けたのではない、通常この魔法を解くには同系統の魔法でハクをこの世界にいることを認証させなくてはならないはずだった。だが強引に世界に引き寄せられるイメージがあった。闇属性にそんな特性があるとはハク自身知らなかった。
「以前リアムが使っていた引力魔法とは違い、次元だとか物理現象外のものを引き寄せる魔法があるのか!?」
バルドはまたハクの方へと指を伸ばした。
「【ダーク・インフィナイト・ボール】」
今度はマシンガンのごとくバルドの指から黒い球が連射される。
ハクはそれを次々に横っ飛びに避ける。
だがかわしきれずに頬にかする。やはり魔法は解けてしまっているようで頬から血が一滴たれる。
「ダァッ!?死ぬッ!?これきついわ!!トレットがいてくれないとマジきつい!!!」
ハクの移動速度はトレット無しでいつもほどでない。はっきり言って遅いくらいだ。何よりもほとんど魔法も使うことができないので簡単なシールドすら張ることができない。
だがバルドの連射は止まらない。ハクが横に動けばそれを追うようにバルドの指も動く。
「畜生!!!こうなったら逃げててもだめだ!!!」
ハクの両手両足に光がともり、その場で立ち止まった。
バルドの指がハクに追いつき【ダーク・インフィナイト・ボール】がハクに迫る。
「ぶっつけ本番上等。」
ハクは深呼吸して迎え撃った。
次々に両手両足を駆使して、連射されるダーク・ボールをはじいていく。
「ほぉ、面白い。魔力の膜だけで俺の魔法を防ぐか。」
監視しつつもその手から放たれる魔法が止まることはない。
手足の魔力幕では完全には防ぎきれていないようで、ハクの手足は出血し始めている。
「万事休すか!?」
エティエンヌと、ティナ、それにリアムがハクの様子を見て動き出そうとする。
「・・・大丈夫っす・・・。助ける必要はないっす。」
ティナはハクの方を見て二人に宣言する。
「気配がするんすよ、何かがここに引き寄せられるような・・・。」
「何がここに・・・?」
エティエンヌはティナの方を見る。
「それは私もわかんないっす。でも…人じゃないような・・・。」
ハクがそらしたダークボールが次々に地面に着弾し、煙を立てていく。
そのころ一匹の犬が深夜に眠りから覚め、天井を眺めていた。
「・・・う~ん、ハクがピンチだな。血の契約がうずくぞ。」
犬はいつも通り後ろ足で自分の頭をかいた。




