厄介なーの
ハクはリアムの基地のトイレにこもっていた。
「早く薬が完成してほしいもんだ。リアム曰く、明日の朝には完成するらしいが。」
無事眠りについたものの、腹痛のせいでハクは途中で目を覚ましてしまった。
「トイレがしっかりしていてよかった。このまま寝れそうだ。」
もちろん眠るつもりはないが、ハクはそれくらい追い詰められていた。
そして深夜部屋のノックが鳴る。
同室のティナが出ることを期待したが、どうも彼女は爆睡しているようで、出てはくれなそうだ。
ハクは何とかトイレから脱出して、扉の方へ向かう。
「誰だ?」
「エティエンヌだ。」
ハクは部屋を出た。
「ふむ、少し歩こうか。」
エティエンヌは特に下心もなくハクを連れ出したが、それでもハクはこいつきもいなと感じた。
「この部屋だ。」
エティエンヌの案内通りに進んでいくと、普通にどこかの部屋にたどり着いた。
「そ、そうか。」
エティエンヌが扉を開けて中へと入ると、そこにはリアムもいた。
「なんだ俺の解毒薬を作ってくれていたんじゃなかったのか?」
リアムはハクに小瓶を投げた。
「雑に作ったけどそれで問題ないはずだよ。一気飲みしてね。」
小瓶を開けるとそこからはこの世の者とは思えないような、悪臭が放たれた。ハクは思わず鼻をつまんだ。
少しの間戸惑うと、それを鼻をつまみながら一気に飲んだ。
「うえ~~~~まずい。」
ハクは小瓶を机の上に置いて席に着いた。
ちなみにこの部屋は狭い。大体、ハクとエティエンヌと、リアムで部屋はほとんど埋まってしまっている。それぞれが椅子に座った。
「それで、急にこのメンツを集めた理由は何なの?」
リアムが早速エティエンヌに聞いてしまう。
「ふむ、わざわざ深夜に時間を設けてもらって済まない。早速本題に入る。」
机の上にはお茶が三杯置いてある。
エティエンヌはそれを一つ手に取って飲んだ。
「率直に言おう、お前たちは今この世界が風前の灯火であることに気付いているか?」
エティエンヌは特にハクの方を見ている。
「それはどういう意味で言っているんだ?」
ハクはとりあえずもう少し、エティエンヌから情報を引き出そうとする。
「【救世の大魔女王】とノア・バームスバルムの二人がこの世界から消息を絶った。これは彼らがこの世界の危機に対応しているからだろう。だがこの事態の根本が我々インベスティガにはわからない。私たちに対応可能かすら不明だ。」
エティエンヌは茶を一口含む。
「そこで迷走していたところ、我々の組織にティナが来た。はっきり告げておこう、彼女は竜人の勇者だ。」
ハクもリアムも特に大きな反応はない。だがリアムは彼女がこの施設に入った時点で気付いていたし、ハクに関しては今知ったがどうでもいいと考えていた。
「勇者の出現・・・人界の歴史から考えれば数百年ぶりの緊急事態を予知している。」
エティエンヌはかなり深刻そうに告げている。まだ出会って間もないこの二人にこれを告げるということは相当切羽詰まっているのだろう。
「・・・邪神が天界を落とす・・・。」
ハクが知っている情報を話し始めた。正直インベスティガ規模の組織の助けは得たいところだった。もちろん出会いは最悪だったかもしれないが、今はこの世界を優先する。
ハクの説明をすべて聞き終わることには、エティエンヌはその机の方へとうつむいていた。
「なるほど・・・、そういうことだったか。」
エティエンヌは腕を組んで顎に手を当て考えている。
「我々も魔導書集めに協力しよう。だがそれには確固たる情報網が必要になるわけだ。どうだ?リアム殿、頼めるかね?」
エティエンヌはリアムの方に視線を送る。監視対象に殿という敬称を使うことには少し驚いたが、これがエティエンヌのデフォルトなのかもしれない。
「・・・ZEROを共有するのが一番の近道だろうね。あとでアプリの入ったメモリを渡すよ。それをインベスティガ内で共有したほうがいい。そうすれば簡単に情報網の完成さ。」
リアムが簡単に説明する。
「リアム殿には悪いが、君には今後我々に協力してもらい、ここに情報基地を気付こうと考えている。その後インベスティガの本部をイズラに移す。そうすることによって、より情報共有が簡単になるはずだ。もちろんリアム殿が所持している技術力にも期待しているがね。」
意外にもリアムはこれにすでに納得しているらしく、すぐにうなずいてみせる。
意外そうな顔をリアムに向けていると気付かれてしまったようだ。
「私は常に世界の未来を考えているんだよ。壊されちゃったら未来もなくなるからね、協力するのに何の抵抗もないさ。」
確かにリアムの言っていることはもっともだった。そしてここにインベスティガ規模の組織力とリアムレベルの技術力を持った最強の組織が誕生したことになる。
ハクはこの心強い後ろ盾に思わずにやけてしまう。
それでも一応警告はしておく。
「邪神の手下である魔人は恐ろしく強いから気を付けろ。特に今命の書の原書が奴らにわたっている。今後はさらに魔人が力を上げてくるだろうな。」
「それは痛いな。我々もできる限り、魔人には対処しよう。そうだな・・・魔導書集めはそちらに任してもいいか?我々は勇者を集める。魔王を討伐するために。」
エティエンヌがハクの方を見た。
「わかった。情報提供をお願いすると思うが、俺的にはそれで構わない。」
「世界を守る・・・か、私も随分丸くなったな。」
リアムが天井を眺める。
「それしかないだろうな。なんとしても邪神を抑えなければならない。そのためには人類規模で協力しなくては困難だろう。」
エティエンヌはまたお茶を飲んだ。
ハクも手元にあるお茶を飲もうとした瞬間、空から膨大な魔力の気配を察知した。
そしてそれはエティエンヌとリアムも同じだったようですぐさま空を見上げる。
「この重苦しい魔力は間違いなく魔人だろうな。だが奴らは命の書を手に入れているはず、なぜ今ここへ来たんだ?」
「これが・・・魔人の魔力か・・・確かにすさまじいな。」
エティエンヌは天井をじっと見つめ、驚愕している。
「この魔力は・・・・フォルテと一緒にこの施設に来た魔人かもしれない。」
「とすれば、目的はフォルテか・・・。」
ハクは腕を組んだ。
「だがあの時よりもはるかに力が上がっているね。命の書を使ったんだろう。まさか魔人同士がここまで仲間意識が強いとは思わなかった。」
「仮に・・・違うとしたら?」
ハクはリアムの方を見た。
「例えば奴らはフォルテの救出がしたいのではなく、命の書の説明書が欲しいんだとしたら?」
ハクはリアムに語り掛ける。
「そうか・・・魔人たちは命の書の有用性を理解した。だがまだ使いこなすに至っていない。そこでこの施設で命の書が使用されたクローンを奪う気なのか・・・。」
このリアムの説明にエティエンヌがうなずく。
「魔人はもともと個体数が少ない。この施設にはクローンがいるだろう?喉から手が出るほど欲しいはずだ。だが魔人が人間規模の勢力を持つことを想像したくはないな。なんとしても阻止しなくては。」
「それにしても勇者の行き先には魔人が現れやすいもんだな。」
「引かれあうんだろう、異なる神の、偉大なる力が互いを亡ぼせと。」
真顔でエティエンヌが怖いことを言ってくる。
ハクは席を立ちあがった。
「とりあえず、魔人は俺が相手するよ。ティナは眠っているしな。」
そのまま部屋の外へと出ていこうとする。
「一人で可能なのか?」
エティエンヌはハクの方を見る。
「戦ってみないとわからないが、とりあえず命の書を利用した魔人の力を味わってみたい。」
そこでリアムは口を開いた。
「私ですら使わなかった命の書の使い方がる。私が主に使ったのは命の分散・・・・もう一つは命の凝縮だ。」
ハクはリアムが何を言いたいのか理解できた。
「・・・そうか。」
命を一か所に集めることで力を上げることもできる。つまりは、魔人達は人間、または同胞を吸収することができるってわけか・・・。それでどれくらい力が上がるかわからないが、厄介そうだな。
ていうかそんな事態になっているならもっと早くいってくれよ、結構犠牲者出てるかもしれないじゃんか。
「はぁ・・・面倒くさい。」
ハクは天井を見上げため息をついた。
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