ZEROのいたずらなーの
ハクは今悶えていた。非常にピンチだった。
「クソがっ!!!!!!!!!!!」
自分のあまりのピンチに思わず悪態を漏らす。
「なんで昨日食った飯が腹に当たるんだ!!!!!」
ハクが昨日食った飯はみんなとは少しだけ違う。
例の会食の後、ハクはこの住みやすい国ディアスゴルトの河川敷で釣りをしていた。
そしてその時釣った魚をうまそうだと思いそのまま食したのだった。
それは間違いなく失敗だったのだが。いまだノイルにリベンジすることはかなわず、時間を見つけては魚釣りの練習をしている。今回ハクは一人で釣りに来ていて、異世界の魚の知識もろくにないのに、そのまま魚を食べてしまったのだ。
余談だが今日は休暇ということになっている。
みんな好きなように動き、休暇を楽しんでいる。ちなみに今日ハクは誰あえて一人にしてもらった。普通にお腹の調子が悪く、一緒に行動すると迷惑をかけてしまうからだ。
ハクは何とかトイレから脱出することに成功した。
そして電話を手に取る。
「もしもし、シンか?俺なんだが、腹の調子が悪くてだなディアスゴルトでおすすめの病院とかはあるか?」
電話の先は無言だった。
そして。
「私はシンではないが、かかりつけの医師に、君を紹介しておいた。行くといい。」
冷静にその声を聞けばそれは間違いなく、エティエンヌの声だった気がするが今のハクはそこまで冷静ではない。
いちなみにシンの携帯は何かリアムに細工されていないか調べるために、エティエンヌが預かっていた。
「ありがとう、助かったよ。」
ハクは深くは考えずに、電話を切った。
その後メールを受信し、そこに住所が書いてあった。
「この病院に行けばいいのか。」
ハクは早速住所をZEROに読み込ませた。
『かしこまりました。ご案内を開始いたします。』
ハクはホテルを出て動き出した。今回は画面を見て動くほどの余裕はなかったので、音声案内の形をとった。
『このルートを右です。』
ハクは音声案内に従って歩き続けた。
「ここが病院か・・・・。」
ハクはたどり着いた建物を見上げる。ハクが知っている病院よりも多少デザイナブルな病院だった。
建物に入り、受付のもとへと向かう。
「すみません、予約しているハクというものですが・・・。」
「ご予約のハク様ですね。お待ちしておりました。」
受付に奥に通されるハク。
「それでは本日はどのコースをお求めですか?」
「コース・・?」
ハクは病院に来たはずだった。それなのにコースとはどういうことだろうか。異世界の病院では治療にコースなんてものが存在するのだろうか。
ハクが受付の顔を見て疑問気にしていると、一冊の冊子を渡された。
「ご新規の方でしたか。そちらをご参考にお選びください。」
ハクは早速冊子に目を通した。
「これは・・・30分ナース付きお医者さんプレイ・・・だと。」
明らか病院とは思えないこの謎の文字列にハクは自分の中に眠る疑心感をさらに大きくさせる。
「ここは・・・病院ですか?」
「いいえ、もちろん違いますよ。こちらは夢の国、ワンダードリームです。」
よく見ればこの受付もそれなりに化粧が濃く、派手な見た目をしている。ハクが知っている夢の国とは違い、もう少し男向けでエキサイティングな施設みたいだ。
「間違いました。まだ料金は発生してませんよね。すみませんが、お腹を壊していて、病院に向かっているんです。」
「いや~そういう趣味のお客様ももちろんご案内できますからご安心ください!」
ハクは受付嬢に腕をつかまれる前に不可視の速度で店をでた。
「あれ・・・お客様!?」
受付嬢は辺りを見渡すがハクの姿がいつの間にかない。
ハクは店を出て携帯に移るZEROを見る。
「まさかZEROよ、適当に案内しただけじゃなく、予約までして俺にいたずらしたなんていわないだろうな。リアムが開発したただの人口知能だろお前は・・・。」
『申し訳ありません。次こそちゃんとご案内いたしますので。』
またハクはZEROの音声案内に従って、移動を開始する。
「おい待て、ZERO。これが病院じゃないのはさすがに建物の外からわかるぞ。これは明らかに病院じゃない。それはおろか下手すればさっきよりもいかがわしい店じゃないのか?」
ハクは次のお店にたどり着いたが明らかに様子がおかしい。
それについてすぐさまZEROを尋問する。
『入ってもいないのに、文句を付けられては困ります。ここは間違いなく病院です。』
画面の中のZEROはいまだに無表情だった。
ハクはじっとZEROを睨みつけた後に、仕方がなくその建物に入った。
「いらっしゃいませ。」
受付嬢はメイクが濃い。
ハクの第一声はもうすでに決まっていた。
「ここは病院ですか?」
受付嬢は眼を見開いた。
「・・・正気ですか?」
ハクはそっと店を出た。
そしてまた自分の携帯に目を移し、ZEROを睨みつける。
「なぁ見たか今の受付嬢の顔。俺さすがにトラウマになりそうなんだけど。」
ZEROは画面のなかで口笛を吹く真似をしている。だが実際には口笛は吹けておらず、携帯からすぴーすぴーと風の抜ける音が聞こえる。
こんなところまで再現度が高いのには感動するが今ハクはまさに怒りに震えていた。
「おいZEROさすがにそろそろ病院に案内してくれなきゃお腹限界なんだけど。」
ハクはZEROを相変わらず睨んでいる。
『承知いたしました。それではご案内を開始いたします。』
それでもハクはZEROを信じて案内の方向へと進んでいく。
そしてついに病院へとたどり着いた。
「ZERO・・・信じていたぞ。」
ハクは思わずZEROに感謝してしまう。普段悪いことをするものがある日突然いいことをする、そのギャップが高い評価を生む。いつも普段いいことをしている人はこういう時に若干損をするものだ。
ハクは早速建物に入ると、受付を済ませる。
「本日予約しているハクというものですが。」
「ハク様ですね、エティエンヌ様から伺っています。そのまま0番診療室に入ってください。」
なんと待ち時間もなく、ハクは診療してもらえるらしい。
早速診療室へと向かい、中に入った。
「すみません、お願いします。」
先生は非常に美人な女性だった。黒髪を腰あたりまで伸ばし、黒縁の眼鏡をかけている。白衣の中はセーターを着ていて、胸が非常に強調されていた。
「エティエンヌさんから話は聞いている。座ってくれたまえ。」
ハクは女性の正面の席に座った。
「私の名前はロージー・バレンテリアだ。」
「ハクです、よろしく。」
ハクは腹の調子が非常に悪いので、最低限の受け答えで話を進める。
「今体にはどういった症状があらわれているんだ?」
女性は眼鏡を手で直しながら話しかけてくる。
「おなかが痛くて、昨日食べた魚が原因かもしれません。」
ハクは事実のみをロージーに話していく。
「なるほど、大体わかった。とりあえず、本当に魚が原因か調べるからレントゲンと血液検査それに胃カメラだけしておこうか。」
ロージーに案内されつつそれぞれの検査を済ませる。
「ふむ・・・、血液、骨、胃腸、それぞれに異常はなさそうだな。君の言った通り、魚が原因だろう。とりあえず何の魚かわからないからな。」
ロージーは一度席を外すと数分で戻ってきた。
「あなたみたいな患者はごくまれにいるからね。一応この国に生息している魚のリストを作ってある。」
ハクはリストに目を通す。
「・・・・これだ。この魚を食べた。」
ハクは一匹の魚の画像を指さした。
その瞬間ロージーは眼を見開いた。
「その魚を食べたの・・・!?本当に!?」
ロージーは眉間を抑えるようにして、頭を痛そうにしている。まるで今世紀最大の馬鹿を目の前にして、頭痛が起きたようだった。
ロージーはパソコンをパチパチとはじいて一枚の紙を印刷した。
「これがその魚の情報よ、読んでみれば今自分がどういう状況かわかるはず。」
ハクは紙に目を通す。
「・・・これは。」
魚の名前はテミオリ。
この世界でもかなり希少な魚で、釣られるのはごくまれ。
もちろんこの魚を食べたものなどいない。
名前以外特に得られる情報はなかった。
「あなたは未知の毒に感染している可能性がある。私でも治療できるかどうか・・・・。」
「それがわかっただけでも前進だ。とりあえず今日は帰ってゆっくり休んでみるよ。」
ハクは病院を後にしてホテルへと戻った。




