交渉なーの
ハクはある程度不機嫌だが、それでも席に着いた。そしてエルミラとノイルもそれに続く。
一応両サイドの部屋に意識を集中するが、大量の兵士たちが動き出す様子はない。
エティエンヌは黙々と食事を続けている。
「あわよくば君を殺せれば何事も簡単に進んだんだが。どうも今の私には君は殺せないらしい。」
まるで他人に関して興味も感情も持たない非常に危険な男だとハクには思えた。
「まぁ過ぎたことは仕方がない。」
ホークでミニトマトを簡単に刺した。それを口に放り込む。
「ここで話は最初に戻るわけだが、残念ながら我々にはイズラを管理する魅力はそこまで感じられない。二人をこちらに渡せないのであれば、そこに戻るわけだがそれは理解しているか?」
実際エティエンヌの言うことは事実だろう。そもそもがエティエンヌ基インベスティガはリアムを暗殺するために動いていた。もちろん危険分子として。
今回ハクが持ってきた話はリアムの保護と、イズラの運営をしてくれということだった。
他国からの圧力に関してはインベスティガならばそこまで問題ないとハクは考えている。
いままで水面下で世界規模の任務をこなしてきた恩がある。その恩を踏みにじってまで小さな島一つの権利を他国は欲しがらないだろう。
おそらく他国はまだインベスティガがただの国だと思っている。
ここにハクは交渉の材料があると感じた。
「これを見てくれ。」
ハクはむなポケットに手を入れると、小さな装置を大きな机の真ん中にスライドさせる。
エティエンヌはそれを注意深く観察しているようだ。
「これは?」
ハクはエティエンヌの問いかけを無視してその装置とスマホを連動させ起動する。
装置から光が漏れる。
そしてZEROの姿が空中投影された。
エティエンヌは眼を見開く。
「・・・なるほど。技術提供をうまみとするわけか・・・。」
一瞬エティエンヌは顎に手を当てて考えるそぶりをする。へんに意固地になるわけではなく、交渉材料さえそろえばしっかりと考える。ここら辺は経営者独特の切り替えの良さを感じさせる。
「それはそれで確かに我々にとってメリットになるだろう。だが我々は任務を遂行するためにある組織だ。そういった、生活を発展させる技術には興味がない。それに技術を金にするにはそれなりに時間がかかる。」
頭の回転も早いようで手早く回答が返ってくる。分析も的確でここまではハクの予想通りだった。
「それもそうだろうな。そうだな、だったらこういうのはどうだろうか。ZEROインベスティガがここ最近で完遂した任務を教えてくれ。」
空中投影されたZEROがハクの方を向く。
『クルージ王国大臣の暗殺です。』
エティエンヌが目を大きく見開いた。無表情なタイプだと思ったが思ったよりも表情が豊かなようだ。
ZEROが話した瞬間アレクシスが立ち上がり講義してきた。
「なぜそれを知っているんだっ!?それは極秘で行った任務のはず。まさかこの情報を使って脅す気なのか!?我々は脅しには屈しないぞ決して!」
まるで叫ぶような抗議にハクは一瞬耳がキーンとなった。
だがそれをエティエンヌが止めた。アレクシスはいまだ興奮状態のようだがそれでも席に着いた。
「なるほど。アレクシス、彼は我々を脅しているわけではない。そしてこの交渉は我々にとって非常に利益が大きいようだ・・・。」
アレクシスがエティエンヌの方をぎょっとしてみる。
「こんなのどう考えても脅しだ。空中投影された映像に喋らせる演出付きのたちの悪い脅しです。」
途中で敬語に戻すあたり、徐々に冷静になってきたようだ。
「それは違う、おそらくは情報そのものが彼らの交渉材料だ。つまりはそういうことだろう?」
エティエンヌはハクに説明を促すように目配せをした。
「その通りだ。シンからリアムのことは聞いているな?あいつはクローンを利用して世界中の情報を持っている。インベスティガがどれほどの情報規模を持っているかは知らないが、それに加えてリアムは情報を一瞬で共有するすべを持っている。それがZEROだ。」
アレクシスは腕を組んで黙った。どうもハクの話に聞き入っているようだ。
エティエンヌは再び顎に手を当てて考え始めた。
ハクはそこに畳みかけるように、エティエンヌに一台の携帯を投げた。エティエンヌはそれに反応して軽々と片手で受け取る。
「これは?」
エティエンヌは携帯を見ると、端末の画面にZEROというアプリが存在していることに気づく。
「そうか・・・そういうことか。だがこれでは他者に情報が洩れる可能性があるのではないか?」
「リアムが個人で衛星を持っているとしたら?」
「衛星技術・・・だと、それは確かドラゴンのせいで研究段階で諦めた技術のはずだ・・・だがもし可能だったとすれば・・・。」
額に手をつき頭が痛そうにしている。
「わかった。イズラの管理は我々に任せてくれ。交渉を飲もう。」
エティエンヌがとうとう折れた。
だがイズラを視察すればこれ以上のうまみがどんどん見えてくるはずだ。
エティエンヌはリアムの持っている技術を視察してさらに頭痛の種を抱えることになるのだがそれでもその手腕をもって、うまく管理していくことになる。
ハクとそれなりに情報交換してこの会食は終了した。
ハクたちは退室してホテルに戻っていった。
そしてそのまま部屋に残ったエティエンヌは両サイドの二人に質問する。
「あの集団をもし武力行使で制圧するとしたら我々は実行可能か?」
「間違いなく不可能でしょう。仮に今回我々が伏せておいたインベスティガの最高戦力を行使したとしても、無駄に終わります。」
ディクシーが冷静に答えた。
「わしも同意です。あの集団のそこはわしと言えども見えませんでした。おそらくは災害規模の魔物と戦い勝利する程度の実力でもまだ足りんでしょう。」
アレクシスもそれに同意した。
「なるほど、とすれば味方につけたほうがよさそうだな。今後は敵対ではなく協力をしていこう。水面下に迫る世界の終わり、我々では対応しきれないからな。」
エティエンヌ達も世界の終わりに関してある程度はつかんでいたようだ。
彼らは汚い仕事をこなすこともあるが、それでも世界を救うために常に動いている。
決して悪人ではない、もちろん善人でもないが。




