インベスティガなーの
翌日ハクは眼を覚ますと、早速渡された住所に全員で向かった。
「ここが【インベスティガ】の本拠地か・・・。」
ハクが建物を見上げると、なんというか窓ガラスがやけに多いただのビルだった。といってもこういった秘密組織的意味合いが強い組織は、ギルドのように建物を目立たせるのは確かに危険だが。
なんというか巨大組織の建物がこれでは期待外れだった。
「さっさと入るか。」
ハクに、一人と二匹が続く。
入り口を通ると、そこにはシンの姿があった。
「ふむ、よく来たな。」
「そりゃくるだろうな。」
ハクはシンを見る。
特に言葉はかわす話ではなく、シンは身振りで自分について来いということを指し示す。
ハクたちはそれに従った。
建物の奥に入るにはまずは金属探知機をクリアしなくてはならないらしい。だが金属は大体トレットが管理しているエア・シェルターに入っているので、金属探知機は意味をなさない。
正直ハクたち以外にも空間収納を持っているものはそれなりにいるはずなので、この金属探知機の異世界の有用性は低そうだった。
もしかすると、表面上警戒しているという体面をとっているだけなのかもしれない。
後は実力行使で止めますよ、的な強引な意味合いを含んで。
ハクたちはエレベーターに乗った。
最近はエレベーターに乗るたびに最上階に連れていかれている気がするが今回もそうみたいだ。
最上階には扉が三つだけあった。
ハクたちは真ん中の扉に通される。
エルミラの方を見ると、静かにうなずいた。
これはハクが事前にエルミラに示し合わせておいた確認事項で、自分たちが入る部屋の周囲に100人以上の人間がいる場合は眼を合わせたらうなずくという確認だ。
正直こんなにも警戒している理由はノイルのせいだったりする。
身近にいる最強クラスの魔物がやけに警戒されることは覚悟の上だが。
部屋に入ると、真ん中には特に飾り気のない大きな机があり、食事が乗っていた。会食という形をとるといっていたがそれなりに豪華な食事だった。
ちなみに建物に窓ガラスがめちゃくちゃ多かったはずなのに、この部屋には全くない。
遠距離攻撃でも気にしているのだろうか。
この机の誕生日席に三人が座っている。
一人はシンがたまに話していた会長だと思うがもう二人は右大臣左大臣といったところだろうか。
「よく来てくれた座ってくれ。」
おそらく会長であろう男が席を指し示す。
ハク達はそれぞれ席に着いた。
そして三人を観察する。
真ん中の会長とされる男は黒髪をオールバックにしたやせこけた男という印象だ。やけに目つきが鋭く、只者ではない雰囲気を放っている。目つきについては眉毛がないせいもあるだろう。
会長から見て右手には、白髪の老人が座っていた。白髪はオールバックにまとめられている。この男は恰幅がいいが、それが死亡ではないことは簡単に見て取れる。顎や口元に髭を残し、短く整えているようだ。
左手にも白髪の女性が座っている。白髪はサイドでまとめられている。非常にグラマラスだが、知的な印象がいやらしさを完全に消している。
会長が黒、それ以外の二人は白色のスーツを着ている。会長の胸元にある金色のカフスが眩しいが。他二人は白銀色のカフスを付けている。
余談だが今日シンはスーツを着ていて、赤色のカフスを付けている。
黒いスーツの男が口を開いた。
「私の名前はエティエンヌ・ファリオ・エルロッサだ。」
次に白のスーツの老人が。
「わしはアレクシス・ベルガモだ。」
次に女性が。
「私はディクシー・ファルマよ。」
それぞれに自己紹介をしてきた。
ハクたちも自己紹介をするか迷ったが(シンが事前に伝えているだろうから)一応礼儀として自己紹介をしておいた。
「俺はハク、順にエルミラ、トレット、ノイルだ。」
一応名前を言うときはハクが手で示し、それぞれ示されれば会釈くらいはしてみせた。
「ふむ、よろしく。」
どうも代表して黒いスーツの男が話すようだ。
「まずはシンにエルミラ、うちの者を二人も助けてもらい感謝する。後ほど謝礼を渡すから受け取ってほしい。」
これには巨大組織のメンツが含まれていると見えて、お金は必要なかったがハクはうなずいた。
「それでは本題に入るが・・・。」
急に話が止まったがどうもエティエンヌは一瞬料理をハチャメチャな勢いでかき込むエルミラを見た。
なんとなく見ただけだったのか、本題に戻る。
「イズラの話は聞いている。」
エティエンヌはお茶を口に含んだ。
「正直我が組織の規模をもってしてもリスクが大きい。そこで条件をいくつか挙げたい。」
エティエンヌはハクの目を見ながら話し始める。
「勇者と、シェノセィーディオの身柄を私たちに預けてはくれないか?それでその件は飲もう。」
正直なかなかな話だったが、ハクはなんとなくそう言ってくるのではないかと思った。
ハクが口を開けようとした瞬間、エティエンヌはまだ話は終わっていないと、示すように話を続行する。
「今回君は私たちの組織を結局は頼ろうとしているだろう?それは君自身がリスクマネジメントできていない証拠だと私たちは考えていてね。まぁ、はっきり言えば君にはもったいないんだよ。勇者も、ましては最強の魔物もね。私たちのほうが上手く使える。」
ハクは肩眉をピクリとひくつかせた。
「なるほど・・・使える・・・か。」
正直この時点でこの組織を頼るのは億劫になったが、それでも冷静を保つ。
「本人達が望むならそうしてもいいが、こいつらは俺の道具じゃない、その意思を無視して命令はしないし、たぶん言うことも聞かないな。」
エティエンヌはそれでも引き下がらなかった。
「例えば君は近くに爆弾のスイッチを持った赤子がいるとする。その赤子はそのスイッチの意味をもちろん理解できない。それをのままにするかね。」
一気に脅しのような意味合いが強くなったエティエンヌの言葉にハクの我慢がほころび始める。
「そのたとえをするならば、お前は今赤子の手と一緒に爆弾のスイッチを握って、限りなくスイッチを押すに等しい行為をしているぞ・・・。」
ハクと旅するうちに、それなりにハクが平和主義者の人間だということはエルミラは感づいていたが、それが時と場合によるのはこの時身を染みて理解した。
エルミラですらハクの動きを目で追うことはできなかった。
ハクの姿はいつの間にか席にはなく、エティエンヌの背後にあった。
そしてハクはまるで自分の優位性を示すかのようにエティエンヌの頭の上に手を置いた。
一瞬で両サイドの白スーツが圧倒的な殺気を放ち、ハクを睨みつけている。だがそれ以上は動くことはない。
いや、動けなかったという表現が正しいだろう。
ハクからその二人を合わせても足りないほどの殺気が放たれていたのだから。
「例えば爆弾よりも赤ちゃんが危険だとは思わなかったのか?お前こそリスクマネジメントができていないんじゃないのか?」
エティエンヌの表情は特には変わらない。
そのままお茶を一口飲んだ。
そして次の瞬間エティエンヌはいつの間にか、刀を抜刀していた。
この瞬間あまりの速度に周囲の空間がゆがむ。
神速の居合切り、それがエティエンヌの得意技だった。
だが次の瞬間その無表情は崩れ去った。
振り切った刀の先には刃がない。
刃はハクの手につままれていた。
それを確認した瞬間、白スーツがとうとう動き出そうとした。
もちろんこの場にいるのがハクだけであれば三対一の戦闘が開始されたことだろう。
だがいつの間にか白スーツの背後にはそれぞれノイルとエルミラがいた。
エルミラはライメイを老人の首に当て、ノイルはその手を女性の首に当てている。
「どうだ?お前にはこの爆弾を管理できのかな?」
ハクの殺気のこもった声がそれなりに広さのある部屋に響く。
「・・・そうか、降参だ。」
エティエンヌはそういうと席についてまた一口お茶を飲んだ。




