別に自覚はないんです
ルゴール自分の頭に振り下ろされるライメイがスローモーションに見えた。
それは永遠にも思える一瞬だった。だが何事にも終わりは必ず来る、ルゴールの頭の上にライメイが振り下ろされ、体の中を異物が通過する感覚を覚える。
ルゴールは一度確かに死んだ。
「なぜ・・・だ・・・。俺は確かに死んだはず・・・。」
ルゴールはライメイを振り下ろした姿のままのエルミラを見る。
「確かにあなたは死にました、ですがもともとこの魔法の効果は超身体能力強化と、生命力の譲渡です。一度あなたの体からすべての生命力を取り出し、その一部を再びあなたに戻しました。」
エルミラはライメイを一度振り、ついてもいない血を振り落とすようなモーションをとり、背中にしまう。
その言葉を聞いてルゴールは体を動かそうとするが、どこに力を入れても動くことはない。
「なるほど・・・この場の生殺与奪は君にあるわけか。」
エルミラはその場に、体育座りをルゴールと向き合うようにする。
「その通りです。」
エルミラが魔法をとくと、周囲にかすかな風が起きる。
「何が望みだ?」
元気な下げにルゴールがエルミラの方を見る。
こういう時は大概無茶なお願いをされて、最後に無慙に殺されるのが魔物の定番だったりする。
「私の望みですか・・・・・・・・・・・・考えていませんでしたね。」
エルミラはぽかんとした表情をする。
「お前、それでも人界の勇者のつもりか!?」
ルゴールは動かない体を無理に悶えて動かそうとする。
「確かに私はここにいるオークのほとんどを殺しましたがそれは人類に害をなすからです。私はあなたが人類を殺すとは思えません。知能のある生き物同士であれば、共存できるはずですからね・・・。それにあなたには理性がある。戦っていればそれぐらいわかります。」
ルゴールはこの戦いの間、一切ノイルや、トレットに手を出そうとしなかった。もちろん周囲に放つ魔法で被害を広がった場面はあったが、それはわざと狙ったわけではない。それにノイルがあの魔法を防げることを知っていたようだった。
エルミラはいい意味でサイコパスなのかもしれない。
サイコパスとは目的のために手段を選ばない人間のことを言う。
今回のエルミラの目的は自分が強くなること、このダンジョンを攻略することだった。
ルゴールを倒した今それはどちらも確実に成し遂げられた。今更ルゴールを殺すことに何の意味も感じなかった。
「・・・そうか、お前は我を殺さないのか・・・。」
ルゴールは少しだけ動けるようになったのか、右手をぴくぴくと動かしている。
「それに今回ルゴールさんを殺せば、もう復活できないでしょ?」
ルゴールはすべてを看破されたことにより、目を見開く。まさしくエルミラの言う通り、今回殺されてしまえば、今までのように儀式で復活することはできなかっただろう。
ルゴールが戦闘中に使用した、肉体と魂の定着はルゴール本来の力を引き出すことができるが、それと同時に殺されれば本当に死んでしまうリスクを持っていた。
余談だが、ルゴールは剣士ではなく、魔法師だ。オークの身にして、魔法を極めた唯一の個体だった。そしてそれは人界がはぐくむ魔法のレベルをはるかに超える。自身の寿命の最後、肉体と魂の分裂魔法を生み出し、ある意味永遠の命を手に入れている。そしてそれがこの世界に唯一の個体オークディオスの誕生だった。逆に言えばルゴールは最初ただのオークだったのだ。
「とことんお前にはかなわないようだな。」
自身の動かない体を一通り見まわした後、ルゴールはまた口を開いた。
「お前にしたらくだらない話だが我は孤独だった。このような姿に肉体を変え、いつか誰かと渡り合い、対話ができるのではないかとな。だがそれは前回勇者に阻まれた。我が人族と対等になろうとオークの王国を建国しようとしたとき、滅ぼされてしまってな。やはり魔物と人族が対等な対話をするなど無理な話だったのだ。それ以来は無気力でな、たまにこうして人界に現れてはオークどもに知恵を貸し、そのまま朽ち果てるを繰り返している。だがそれももうあきた・・・殺してくれ。」
エルミラはルゴールの顔を見た。
今回容赦なくオークを全滅さしてしまったが、それは失敗だったのかもしれない。前回の勇者と同じことをエルミラも繰り返しただけだった。
もちろんそれを後悔してはいない。オークは滅ぼすべき魔物であることは確かだった。
ここからはエルミラが個人的に試したいギャンブルなのかもしれない。
「なるほど、わかりました。でもルゴールさん先ほど生殺与奪は私にあるといいましたよね。だからお願いがあります、あなたにはオークの国なんてせこいことは言わずに、知恵ある魔物を束ね、国を作ってほしいんです。ルゴールさんのようなものが複数いる国があれば人は対等に口をききますよ。そこまで人は愚かではありません。ですが約束してください、必ずあなたがその国を統治して、人に迷惑をかけないことを。」
ルゴールはエルミラの目を見返す。初めて人類と対等に対話していることを感じた。ましてはこのエルミラがルゴールに勝負で勝利した場面で。
ルゴールの頬から涙がつたる。
「わかった・・・。約束しよう我が親愛なる友よ。必ずや人に害をなさない知性と理性を持った魔物の国を作ってみせる。その時は世界最強の勇者として我が国に招こう。」
ルゴールの瞳に、純粋なる信念が宿ったことをエルミラは見抜いた。
エルミラはルゴールに手を差し出す。
ルゴールは動かない体の力を総動員して、何とかエルミラの手を握り返す。
確かにルゴールの手は人の手のように柔らかくはなく、なんだかごつごつした不思議な感覚だった。
だが、対話すればそこに壁などはなく、握手で交わす感情のやり取りは人と大差なかった。
エルミラその手を握ったまま立ち上がり、ルゴールを引っ張り起こす。
おそらくはこの握手が原因だったのか、ルゴールの体はいつの間にか力が入るようになっていた。
そして力強く立ち上がるその姿に迷いはなく、王のような覇気をいつの間にか放っていた。
今回エルミラは今後の人類にとって重要な人物である二人に影響を及ぼした。
一人はリュカだ、彼は今後一切の迷いもない鍛錬によりようやく眠っていた本来の限界の扉を開けて世界最強に食い込む。そしてそれこそ数えるのも億劫になるような数の人類を救うこととなる。もちろんただの人間の身で。
そして次にルゴール、後に魔王以外が建国する初の魔物の国を作り上げる。そしてその国は魔王の国とは違い、人界に偉大なる加護をいくつももたらすことになる。もちろんそのままの魔物の身ので。
だがそれはまた別の機会に、ハクが鼻歌を歌いながら旅行していれば、またかかわる日が来るのかもしれない。
勇者とは導かれるものではない、導くものである。
エルミラはまた一歩勇者の真髄に近づいたのかもしれない。




