戦うんです
エルミラは超光速でオークディオスに接近する。その速度はまさしく雷そのもの。
オークディオスですら反応した様子もなく、その一撃が直撃する・・・かに思えたが、光の速度に達したライメイを軽々と片手で止めている
「面白い、なかなかの速さだ。だがこの速度であれば通常片手で受け止めることはできない。お前の剣には力が足りないのだ。」
そのままライメイを振り回し、エルミラを遠くに投げてみせる。
「失せろ。」
吹き飛んでいく、エルミラ。だが魔力を総動員して、空中で止まる。
「なかなかやりますね。【エルダーズマジック・ライトニング・フルバースト】」
エルミラから雷が大放出する。その雷すべてが、オークディオスを焼き尽くさんとする。
「いい魔法だな。」
オークディオスは雷に対し手をかざした。
「【アイス・シールド】」
大きな氷の塊がオークディオスの前に出現し、エルミラの魔法をはじいた。
「氷属性魔法ですか・・・。」
オークディオスは氷の属性魔法を使うらしい。そして間髪入れずに次の魔法を使用した。
「【レーコンストロシオン】」
自分の下の大地を棘上に成形して、一斉にエルミラの方へと向かわせる。この魔法は通常壊れた家具などを修理するときに使用するのだが、ここまで繊細な扱いができるのはオークディオスの魔力操作が優れていることを表している。
エルミラは棘を超高速でかわしていく。そして隙間を縫うように動いてまたオークディオスに接近する。
大上段から、ライメイを振り下ろした。
オークディオスがそれを避けた。
「さすがに今のは痛そうだ。」
オークディオスの右側にライメイが振り下ろされると、そこから広がるようにクレーターができた。
オークディオスが右手を宙にかざすと、そこに黒い次元の裂け目ができる。オークディオスはそこに手を突っ込むと、一本の剣を取り出す。
その剣はどこにでもある片手直剣だった。もちろん普通の人間が何も考えずに見ればだが。
ノイルには見える、あのただの剣が膨大な魔力を放つ魔法具だと。
通常魔法具は魔力を通して、魔法が発動する。だが、こと剣に関しては事情が異なる。
いわゆる魔剣は魔力を通す以前に、魔力をまとっている。つまり魔蓄具ともいえる。これはその剣の格を表すために、使用者の魔力を吸って、ある程度剣にためることができる仕組みだ。その剣を見ただけで、敵に自身の強さをしめす。剣が使用者とともに育っていく。それこそが鍛冶師の喜びだった。
「この剣の名は【リヒト】・・・今だ私のもとに召喚可能とはな・・・。」
「どういうことですか・・・?まさか一度だけこの世界に召喚された時の記憶があるんですか?」
「我が命は尽きん。もちろんつながっている・・・我はもともと魂だけの存在。ゆえに死せず、ゆえに幾度も生まれる。それに一度ではない・・・人類と遭遇したのは一度だがな。」
エルミラは眼を見開く。
「面白いですね。次に会うのがいつになるのかはわかりませんが、今ここであなたを倒してしまってもまた戦えるだなんて。」
エルミラは笑った。
「さっさとかかってこい、二度とそのような口が聞けないようにしてやろう。」
エルミラはその言葉を聞くとほぼ同時に動き出す。
またライメイを大上段から振り下ろした。
その瞬間オークディオスはリヒトを天に突きさすように掲げる。エルミラは剣を振り切ることができずに反対方向に吹き飛ばされてしまった。
だがそのエルミラは雷になって消える。
「魔剣ですか・・・面白いですね。」
エルミラはオークディオスの後ろにいた。【エルダーズマジック・ライトニング・トークン】を使用して、分身を攻撃させた。
そしてライメイをまた大上段から振り下ろす。
「【エルダーズマジック・ライトニング・ブラスト】」
ライメイに魔法がこめられ、振り切るその音はまるで雷そのものだった。
オークディオスは振り返り、咄嗟にリヒトでライメイを向かい打つ。
「グっ!?・・・なるほど・・・。」
リヒトから電気が流れ、オークディオスは一瞬体をしびれさせた。エルミラはそのままライメイを振り切って、オークディオスを切り裂いた。
オークディオスから血しぶきが上がる。
「あなたの名前は?」
まるでルゴールの回復を待つようにエルミラは質問を投げかける。
「我が名はルゴール・・・オークを統べる神なり。・・・お前の名は?」
そしてそれを察したのか、ルゴールも素直にそれに答える。
「エルミラ・・・自称人類最強の勇者です。」
「ククク・・・面白い。」
ルゴールはその傷ついた体のまま、リヒトをエルミラに振り切った。エルミラは電気を利用した超速反応によりこれを軽々とかわす。
先ほどまで血がついていたところをルゴールがぬぐうと、そこにはすでに傷跡もない。
「【レーコンストロシオン】」
鎧も魔法により修復され元通りになる。
「最近の敵は回復力が高すぎて、困りますね。いくら切り裂いても、なかなか倒せません。」
エルミラは再度ルゴールに接近すると、ライメイを横なぎに振るう。
ルゴールは先ほどと違い、今度はライメイをリヒトの先で受けてしまう。まさしく完璧な見切りがなくては実行不可能だろう。
ライメイは見事にはじかれてしまった。
今度はルゴールがリヒトを横なぎにふるった。エルミラはそれをバックステップでぎりぎりかわす。
「やるな。【レーコンストロシオン】」
エルミラの足元に地面がつるのようになり絡む。一瞬だけ動きが止まる。
「【アイス・フリージング】」
そのまま地面を侵食してエルミラの足元まで凍らせる。
「これは・・・まずい・・・。」
畳みかけるような魔法の連続で、エルミラの動きはとうとう完全に止まってしまう。さらに、氷は足元だけではなく、体全体を凍らせていく。
「【フレイム・ティフォン】」
火属性上位、炎属性魔法が発動。エルミラの周囲を炎の渦が包み込む。
「あ~あ・・・あれはエルミラ死んじゃうかもね・・・。まさか二属性も魔法を使えるとはな。」
他人事のように遠くからノイルが眺めている。だがその口もとは笑顔で、とても楽しそうに戦闘の様子を眺めている。
「【エルダーズマジック・ライトニング・ブラスト】」
エルミラから周囲へと、雷の大本流が放出される。それぞれの魔法を次々にはじいていく。
「はぁ・・・はぁ・・・・。」
エルミラが炎の渦から脱出するころには息も上がり、かなりのダメージを受けている。
「お前には驚かされる、たった一人でその実力は以前私を葬った勇者パーティーに届くほどだった。だがそれだけに今回私が召喚された儀式が血の儀式であったことが悔やまれる。これではどんな存在とも実力が開きすぎてしまうからな。」
ライメイをまた大上段に構える。
体はところどころ火傷をおい、足は凍傷、実に満身創痍な様子だったが、一瞬もあきらめる様子がない。ましたは後ろに下がる姿すら見せない。
「笑わせてくれますね。調子に乗らないでください。ここからが本番ですから。」
大上段の構えを解かずに再度ルゴールに接近する。勢いを殺さずにそのまま振り下ろした。
ルゴールはまたそれをリヒトではじく。
それから何度もルゴールと剣を交差せ、なんとか命をつないでいく。
いつの間にかエルミラは勇者にふさわしい背中を周囲に見せるようになっていた。
リュカは扉の隙間からその様子を見ていた。
どんどんエルミラの体には傷が増えていく。
それでもエルミラはルゴールから一歩も引かずに戦っている。
「なぜ戦えるんだ・・・確かに今戦わないと、村にはもっと危険が増えるだろう。それでも今はゆっくりと作戦を練って、戦う準備を調えるべきだ。」
リュカはエルミラの戦う姿をずっと見ている。
ここまで踏み出すことはできたが、あと一歩が踏み出せない。
もちろんこの部屋に入っても、リュカが戦うことはできないだろう。もしも戦おうとしても、エルミラの足をさんざん引っ張った挙句の果て、ルゴールにとどめを刺されて殺されてしまうのが関の山だ。
「だがようやくわかったんだ・・・俺に足りないものが・・・。どんなにその目標が高くとも、一歩も引かない覚悟と度胸!俺は力のない人々を一人でも多く救いたい!その思いにだけは一瞬たりとも嘘をつきたくない。嘘をつくくらいなら死んだほうがましだ。」
先ほどまでその瞳には恐怖だけが映っていたが、今のリュカの瞳にはただ力強さだけが映っていた。
リュカは扉の奥へと一歩踏み出した。
そしてその瞬間はリュカに舞い降りる。
リュカが踏み出すとほぼ同時にエルミラはもう一度氷と炎の魔法コンボを食らい、そこにくぎ付けにされてしまった。
ルゴールがゆっくりと近づきエルミラにとどめを刺そうとする。今までは何とかその超反応で、致命傷を避けてきたがそれでも今度のは間違いなく避けられるコースではなかった。
リュカは間に合うとは思えなかったが、それでも自分の半ばから折れた大剣を投擲した。
そしてそれは間に合った。
エルミラはルゴールの方へ飛んでいくその大剣をライメイではじいた。
そしてルゴールの斬撃がエルミラに直撃する。
エルミラの体から鮮血が吹き上げた。
リュカは言葉を失い、その様子をただただ見つめていた。
あふれるほどの光の中から舞い上がる血しぶきはどこか幻想的で、だがそれは同時にこの戦いの終わりを意味するようだった。
だがエルミラは血を止めようともせずに、リュカの方へ向いた。
リュカはエルミラに責められるのかと思った・・・。
「リュカさん・・・たったこれだけの時間で随分強くなりましたね。」
エルミラはむしろリュカをほめた。それも女神のような笑顔で。
それでもリュカの大剣をはじいた理由はおそらくはこの戦いを自分だけで戦いたかったのだろう。エルミラは非常に戦いに対して紳士だった。たとえ相手が人間ではなくとも、それはかわならない。
「私も負けてはいられませんね。」
エルミラの体の輝きがます。
エルミラもまた強くなろうとしていた。




