オークの神なんです
エルミラの背後にオークキングとオークメイジの死骸が転がる。
「最初から全力で行きすぎましたかね。こんなにすぐ終わるとは、私も強くなったものです。」
エルミラは背中にライメイをしまって、ライトニング・カムイを解いた。
その瞬間、オークキングからドクンッという脈動のようなものが鳴り響く。もうすでに息絶えているはずのオークキングから生命の気配が広がる。
そしてこの山の下で、エルミラの手によって葬られたオークたちの死体から流れた血液が、どんどんと山の上へ昇っていく。
「これは・・・!?」
「エルミラっ!そこから一度離れたほうがいいよっ!!」
ノイルの警告がエルミラへと飛ぶ。
「わかりました!」
エルミラは軽く山の上からノイルの方へジャンプすると、2,3回それを繰り返して、ノイルの方へ戻る。
「どういう事態ですか?」
「う~ん、それがたぶんだけど、ここそのものが降臨の儀式部屋だったみたいだね。トリガーはオークが全滅することだったみたいだ。オークたちがこれを知っていて、この部屋をそういう仕組みにしたのかは知らないけどね。」
「どういうことですか?」
エルミラはノイルの発言に思わず違和感を感じて、聞いてしまった。
「神様なんて、案外自己中で嘘つきなものだよ。」
脈動がさらに大きく鳴り響く。それはある生命体の誕生を意味している。
オークたちの血液が徐々に人型のような血の塊を成形していく。
「あれは・・・さすがにすごいですね。」
そして形成された人型が、脈動し始めたオークの肉体を食い破り、その中に入ってしまった。
そこからは一瞬だった。
オークキングの亡骸が突然生き返ったかのように立ち上がり、雄たけびのような、悲鳴のような叫びをあげた。
「ガ・・・ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
その瞬間キングオークは爆散した。
肉体が飛び散り破片が周囲に広がる。
高々オーク一匹からはありえない量の血が飛散していく。
そして血しぶきの中に、オークキングより人間に近いような大きさの影が見えている。
「あれが・・・オークディオスなんですか?」
「たぶんそうだね。」
目の覚めるようなきれいな赤色の血しぶきの中から、一匹のオークが出てくる。
その姿はもはやオークというよりは人間に近く、灰色の肌をした非常に筋肉質の人間のようなものといったほうがいいだろう。
その灰色顔の瞳は金色をしていて、下あごからは牙が突き出ている。それ以外はほぼ人間と一緒で、純白の毛髪を持ち、最初から黒い西洋鎧を着ている。眉間によるしわが非常に深く、怒りよりは悲しみによるものだと感じる。
エルミラがその姿を見ていると、オークディオスが口を開く。
「我が同胞たちよ、その身を犠牲にご苦労だった。私の血肉となりて、生きながらえよ・・・。」
オークディオスは足元からオークメイジの持っていた長杖を拾い上げた。そしてそれをそのまま地面に突き立てた。
「我がもとに帰ってくることを許す。」
その瞬間すべてのオークの亡骸がオークディオスの方へと集まり、吸収されてしまった。
「ふむ。」
そして黄金の瞳がエルミラの方を向く。
「お前が我の誕生を手伝ってくれたようだな。・・・これはもう必要ないな。」
オークディオスは杖をまた握ると呪文を唱えた。
これはノイルも知らないことだが、オークディオスは通常誕生前に、オークメイジにメッセージを送る。それを受け取ったオークメイジがオークキングを使って、神台を作らせる。その後儀式によってオークディオスを呼び出すわけだが、今回の場合はそうではなかった。エルミラが完成させたのは血の儀式。
ノイルも気付いてはいないが、おそらくこのオークディオスは間違いなく前回勇者と対峙した個体より強いだろう。大量の命をもって誕生する個体は異常な強さを発揮する。
「【レーコンストロシオン】」
これは無属性魔法で存在する物質を再構築する魔法だ。直接生命体には発動することはできないが、じめんや、岩などには発動することができる。地面から生える木には使用することができないが、伐採された木には使用できる。もちろん死んだ人間にも。だが動物の死体は再構築しても、動くことはないのでわざわざやろうとするものはいない。
今回オークディオスが再構築対象にしたのはこの広い部屋の真ん中にあるそれなりの高さの山だ。
山は中心へ吸い込まれるように集まり、ちょうどエルミラたちと同じ高さに、一つ椅子が再構築された。山の体積を考えると、小さな椅子が一つ成形されたのが謎だ。
オークディオスは宙に浮いた状態だったが、そこからゆっくりと降りてきて自分の作った椅子に座る。
「これからどうするか、人類を滅ぼすもよし、そこの獅子を下し魔物の長を目指すもよし。実に無気力だ。我は今この世に降りてきてもこの世が滅び行く運命だと知っている。」
エルミラが突如口を挟んだ。
「あなたが何を指してこの世を滅ぶといっているのかは知りませんが、この世界は滅びませんよ。」
オークディオスが興味なさげにエルミラの方を見る。
「勇者であるお前が守るからか?」
エルミラはにんまりと笑った。
「私がこの世界を守る・・・???興味はないですね。ついでに守ってもいいですけど。この世界はどこかから来た旅行者にでも守られるんじゃないですか。」
まるで他人事のようにエルミラはそういうが、その言葉には誰かに対する確かな信頼のようなものがあるのが感じ取れる。
「お前が何を言っているのかはわからないが、一つ人類を試したくなった。どれほどお前らが抵抗できるのか試してやろう。」
自分が負けるとは毛ほども思っていないような、オークディオスの言葉に、エルミラはカチンときた。
「たかだか豚の分際で偉そうですね。私が自分が家畜だということを思い出させてあげますよ。」
エルミラの体からバチバチと雷がほとばしる。
「【エルダーズマジック・ライトニング・カムイ】」
雷で黄金のように光り輝く、エルミラがオークキングを睨みつける。
「かかってくるがいい。我がテストしてやろう。」
オークディオスが椅子に座ったままエルミラを見下した。




