挫折するんです
「ちなみに当時のオークディオスの討伐は勇者一人で行ったのか?」
リュカがせめてもの希望を見出そうと、ノイルに質問をする。
「いや、当時いた勇者のすべて、合計で5人だ。魔法とか、色々使えるバランスのいいパーティーだったけどね。オークディオスとの戦いで一人が死んだよ。僕は現場を見ていないからどれくらいの強さがあるかはわからないけど、それでも当時の勇者五人でやっとって話だったから相当だろうね。」
この時のリュカの絶望した顔は、言葉で表せないほどの様子だった。なんというか、砂漠の中で、一粒の砂金を見つけるまで帰ってくるなと言われたような顔をしている。
「俺は・・・。」
リュカは迷うそぶりをしている。
「帰ってもいいですよ。私がいれば勝てますし、勝ちます。貴方がいようといまいと、それは関係ありませんから。それに残念ながらあなたは足手まといです。」
エルミラはその強い言葉を放つとともに、そのまま先へと進んでいってしまう。
そのエルミラの背中を見たリュカがエルミラの方を向く。
「・・・怖くはないのか?」
リュカはまるで言葉そのものに重さがあるかのように話した。
「怖くはないか・・・ですか。残念ながらその質問には答えることはできません。ただ私には守りたい人がいるんですよ。貴方みたいに、村々の救い手になるような大きい目標はありません。ただ大切な人を守りたいだけ、私は世界一大事なそれだけのためにいくらでも前に進めます。」
エルミラの足が止まることはない。そのまま正面へと進んでいく。リュカはその背を見送ることしかできない。オークもすでにほとんどでなくなり、それがこのダンジョンの終わりが近いことをリュカに告げていた。
エルミラの進んでいくただ一本しかないその道が、尋常じゃなく長く感じ踏み出すのはとても億劫で、リュカは進むことができない。このエルミラとの距離が、何をもとに開いていくのか、今のリュカには理解することができなかった。
「正直今の僕には関係ないが、君は進まないのか?」
ノイルはいまだリュカの後ろにいた。そしていつもの軽いおちゃらけた口調ではなく、何か威厳のある口調だった。
「彼女の言ったとおりだ、私が行っても足手まといだろ。」
リュカはもうすでに何かをあきらめたような口調だった。
「その通り、確かに今の君では足手まといだ。」
たったそれだけの言葉が、リュカにとどめを刺した。両手両膝を地面につき、その場でうつむくのみになってしまった。
そのままノイルも進んでいってしまう。
そして最後に来たトレットがリュカの肩にお手をすると、そのまま歩いて行ってしまった。
余談だがノイルは何の興味もない人間にはこんなタイミングで声をかけたりしない。それにノイルは今のという言葉を使っていた。答えは与えない、常に道に扉を一つだけ用意する。その扉に手をかけて開くかどうかは自分次第だからだ。
ダンジョンを進んでいくと、大きな扉が出てきた。エルミラはその前で止まっている。
扉の奥から聞こえる物音が、そこにいるものの大きさと数を伝える。
「なかなかいますね。ノイルにはどう見えてますか?」
ノイルはにんまりと笑う。
「秘密だよ。どうせ開けるんならわかるんじゃない?」
エルミラはノイルの方をため息をつきながら見た。
「はぁ・・・確かに・・・そうですねッ!!!!!」
それを言い終わると同時に、ハチャメチャな勢いで扉をけ破った。
扉からはやや離れた位置にいたが、それでも何匹かのオークは扉にぶつかりそのまま息絶えた。
「・・・思ってたより数はいないみたいですね。とりあえず、殲滅しますか。」
エルミラは一瞬で、オークに接近するとそのまま何匹か魔法で焼き払った。
あたりを見渡せばそこには圧倒的な空間が広がる。とても広い空間の真ん中が山のように盛り上がり、その頂上に大きなオークがいるのが見える。
「あれがオークディオス・・・ですか?」
エルミラはさりげなくノイルに聞いてみる。
「いや、あれは違うね。ただのオークキングだよ。オークディオスの姿は・・・ないね。でもこの空間そのものが包まれるようなとても大きな魔力を感じる。確実にオークキングよりも上位の存在がこの空間のどこかにいるはずだよ。」
ノイルは辺りを見渡すも、その結果は芳しくなさそうだ。
「とりあえず厄介な、オークキングから倒しましょうか。トレットさん、ここからは剣を使いたいと思います。ライメイをください。」
トレットはエア・シェルターからライメイを取り出す。
「わかったぞ。」
エルミラはライメイを受け取った。
「少しだけ本気で行きますよ、オークたち!」
エルミラの正面に数百はあろうかというオークの群れが広がる。だが逆にこれさえ始末してしまえば、それ以上はなさそうだった。
今更オークが何匹増えようともエルミラにとってそれは一匹いるのと同じだった。それに時間がかかるだけだ。
エルミラがライメイに魔力を通すと、帯電し始め、可視化できるほどの電気がそこから放出する。
エルミラはライメイで空間をなでた。
それだけで周囲にいたオークたちはいっせいに吹き飛んでいく。
おそらくオークの群れは悪夢でも見ている気分だろう。
山の上から声がする。
「沈まれ我が同胞たちよ!!!!【エスピリトゥー・ケア】」
山の上から下のオークたちに、無属性の精神安定強化魔法がかかる。
「どうもリュカさんの言っていた通り、オークメイジがいるようですね。」
エルミラは山の上を一瞬見つめる。
「でもあなた方が援助する前にみんな倒させてもらいますよ。」
エルミラの移動速度がさらに上がり、次々にオークたちが倒されていく。そのあまりの速度に、上から見ているオークキングたちはドミノでも見ている気分だろう。
30分もしないうちに戦意があるオークはいなくなってしまった。
エルミラは周囲を見渡し最終確認する。
「問題ないようですね。それじゃ私は上にいる二匹を倒してきます。ノイルはトレットを守っていてください。」
ノイルはこんな時でもふざけているのか御辞儀をしてみせる。
「了解したよ、存分に戦ってくるといい。」
「ありがとうございます。」
エルミラは再びあの大きな山の方へと向き直る。
「今だオークディオスが出てくる気配はありませんね・・・。まぁいいです、先に周囲を殲滅できたのは間違いなく、いい方向に働くはずですから。ここらは全力で行かせてもらいます。【エルダーズマジック・ライトニング・カムイ】」
エルミラの姿がお黄金に変化していく。その様はまるで神の権化、黄金の化身だった。
姿勢を低くして、高く跳躍する力をためる。踏みしめられて地面は少しだけえぐれ、小さな砂煙を巻き上げた。
エルミラは飛び立った。引き連れる雷がエルミラを流星のごとく見立てる。
「うん、エルミラも最初に見た時よりも随分強くなったね。」
ノイルが飛び立つ光の線を見上げながらつぶやいた。
一筋の雷と、オークキングが衝突しようとする。
おそらくはシールドを張ろうとしたのだろう。エルミラとオークキングの間にオークメイジが入って、何らかの呪文を唱えようとする。
つむごうとした魔法は発動することなく、オークキングをオークメイジごと雷が貫いた。
見えない波動のようなものが空間に広がる。
その瞬間山の上に立つものはエルミラ一人だった。




