携帯はマナーモードにするんです
「なぜあなたほどの戦士がこんな田舎にいるんですか?」
エルミラはみんながうすうす気になっていたことをとうとうリュカに聞いてみた。
オークから魔石などを回収しながらリュカは答える。
「あぁ、そんなことか。簡単だよ、そもそも俺はこういった田舎町、村を救うために強くなったんだ。俺も田舎出身の田舎剣士でね。そう言った村が冒険者たちからはほとんど無視され、困り果ててるのを見てきたんだ。だから自分がなることにしたんだよ、そんな冒険者にね。」
エルミラの中でリュカの評価が少し上がった。エルミラも平民出身の兵士で、育った孤児院もそこまで都会にはなかった。リュカが言っていることはいやでもわかる。
例えば田舎で魔物が出たとしても、それを倒すには国に依頼するくらいしか方法がない。もし村でクエストを張るのであれば、村にはお金がないので一度国に依頼を通してお金を出してもらわなければならない。その間に、村は壊滅的なダメージを受けるだろう。そうして村からは人がドン減っていく。
「なるほど、そうですか・・・。先ほどまでひどい態度をとってすみませんでした。今後とも頑張ってくださいね。」
エルミラは自分が尊敬できると思った人には素直だった。
「あぁ、ありがとう。エルミラ殿が俺より強いのは事実だからな、気にしてないよ。」
二人がお互いに認め合ったころ、ノイルとトレットはさっさと進んでいた。
「二人とも、早く進もうよ!この先で結構面白そうな気配があるよ。」
エルミラはノイルのこの話を聞いて若干嫌な予感に見舞われる。それはそうだろう、イズラしかりだった。
「先行くと、危ないぞ!」
リュカはダッシュで二匹を追う。
エルミラは早歩き程度で二人を追う。
ここら辺にノイルの強さを知っているかどうかが出ているだろう。
「おいノイル、魔物の匂いがするぞ。」
トレットがノイルに報告する。
「鼻はトレットのほうがいいみたいだね。それはそうか、犬にはかなわないよね。」
若干リュカが間に合いそうもなかった。
ノイルは前方に右手を突き出してデコピンの構えをとる。そしてまだ敵も現れていないのに、空にデコピンを放った。
リュカが二匹に追いつく。
「こらこら、ダンジョンは遊びではないんだからあまり先に行くと危ないぞ。」
「ごめんごめん、先が気になっちゃてね。」
ノイルは素直に謝る。確かにリュカはノイルをかなり侮っているが、それでもそれが善意から出てきているものだということはよくわかる。ノイルはそういう人間が嫌いではないので、別に咎める気はない。それに何よりノイル自身強い敵との戦いは好きだが、弱い敵と戦うのは嫌いなので、こうやってリュカが戦ってくれるのは万歳なのだ。
「なるべく俺の後ろにいろよ。」
リュカが二匹を先導して、歩き出す。いつの間にかエルミラも追いついていた。
しばらく歩いていくと、通路に異変がある。
「これは・・・どういうことだ!?こんなことをやってのける魔物が・・・この先にいるというのか!?」
リュカが目にした光景はというと、通路全体に血のようなものが飛び散って広がっている光景だった。
まるで大型の魔物が一匹急に爆散したような異様な光景だった。今となってはその魔物が何だったのかすらわかることはない。
余談だが、リュカの言う恐ろしい魔物は、リュカの後ろで頭の後ろに手を組んで退屈そうに歩いているが。
「これは問題ないですよ。先へ進みましょう。」
エルミラはノイルをジト目で見ていたが先に進むことを選択した。
「そうなのか?」
リュカは首をかしげながら、相変わらず戦闘を進んでいく。
「そういえばエルミラ殿はなぜこんな田舎のダンジョンを攻略しようと思ったんだ?」
エルミラは答えるか迷ったが、別に個人的な事情で答えると何か不利になるわけでもない。
ここは素直に答えることにした。
「私はあなたのような誇れる理由はありません。ただ単に、少しでも早く追い抜きたい男がいるんですよ、身近に。最近になって気づいたんですけど、私の最終目標はその男に勝った時に初めて達成できることなんじゃないかと思いましてね。」
エルミラが誰のことを言っているのか、ノイルとトレットは理解できた。
「エルミラ殿より強い男か・・・そんな男がいるなんてな。」
エルミラの目標よりも、この強い少女よりも強い男というところに、むしろ驚愕を覚えたリュカ。
「結構いますよ、世界は広いんでね。」
エルミラ自身もこの旅の間にかなりの実力を持つようになったが、それでもいまだ世界にはエルミラが勝てないものは多くはないがそれなりにいる。エルミラ自身それを理解していて、慢心せずに日々鍛錬を続けている。このまえのフォルテもエルミラが自分で倒したとは思ってはいない。よくわからない力が突然自分の中で目覚め、いつの間にか倒していたというのがあの時の出来事だった。
「だが強くなりたいという気持ちは痛いほどわかる。私も本来このダンジョンを一人でクリアしたいところだった。そうしないと村々を守ることなどできないからな。」
「かもしれませんね。」
エルミラがそれに同意すると、リュカもエルミラも笑いだした。
エルミラが努力を胸に、前へ進もうとした瞬間。携帯電話が鳴リ響く。
「おいおい、ダンジョンで携帯はマナーモード、これ基本だぞ!」
エルミラは電車で怒られた気分になった。それでも一旦電話に出る。
「もしもし?」
「俺だよ俺、ハク!聞いてくれ今宿屋にいるんだけど、すっげぇでっけぇムカデいるんだけど!!!田舎すっげぇな!!!!」
エルミラは突然無表情になり、電話を切った。
本当に運転ばかりさせすぎたようだ。ハクには長時間の休憩が必要だろう。




