渓流で休憩するんです
ディアスゴルトに向かう道中、ハクはなんとなく見かけた渓流で駐車した。
この渓流はどうもキャンプ地になっていて、駐車場が完備されていた。
「今日はここで休もうか。」
「そうしましょう!」
連続で10時間ほど移動しただろうか、もちろん道中で一度体を動かしたりしたが、さすがにもう凝り固まった体をほぐしたいようだった。
道中があまりに暇だったのか、トレットとノイルそれにシンは寝てしまったようだ。
ハクが周囲を確認すると、ほかに客の姿はなく、どうも今日はハクたちしかいないようだった。ちゃんとした受付があり、そこに行くとコテージに泊まることができるをことを確認できた。エルミラのような女性もいるので今日はコテージを借りてそこで泊まることにした。
「俺はちょっと探検してくるよ、エルミラは皆が起きたらコテージに向かってくれ。」
ハクは車から降りて、渓流に向かう。
「携帯で連絡を残しておくから、私もつれていってよ。」
「うん?別に見に行くだけだけど?」
珍しくエルミラはハクについてきたがるので、ハクはなんとなく違和感を感じた。
「いいじゃん、それでも行きたいの。」
「・・・それじゃぁ一緒に行こうか。」
ハクとエルミラは受付の枠から降りていくことによって、渓流へと下る。
ハクはトレットが眠っていたので、釣り道具は持っていくことができない。
渓流までたどり着くと、特に変わった様子はない。絵にかいたような渓流で、ほとんどの場所が浅い。ところどころに、大きめの石がのぞく。
「本当に何もないね。」
エルミラが渓流をみながらつぶやく。
「それがいいんだよ。」
「そうなんだ・・・。」
エルミラはそういうと、渓流まで近づきなんとなく触る。
「冷たい・・・。」
近場の水辺をバシャバシャと揺らしている。
ただハクは渓流の向こう側を見つめている。向こう岸までは約3メートルほどある。
ハクはその場から軽くジャンプすると向こう岸まで渡る。この世界に来てそれなりに立つが、ハクの身体能力も随分上がっているようだった。
渓流の向こう岸は森になっていて、ハクが気になる要素は特に見当たらない。
ハクはそのまま森の向こう側へと、歩いて行ってしまう。
「ちょっと待ってよ!」
エルミラも渓流を簡単に飛び越えるとハクを追いかける。
森を観察すると、どれも高い木で杉のような木がたくさん生えている。下のほうに葉は全くなく、上のほうに沢山ある。それなりに動物がいるようで、シカのようなものや、タヌキのようなものなど、異世界の動物なので正式な名前はわからない。
「森の中に何があるの?」
エルミラはハクの不自然な行動に違和感を持ち、聞いてみる。
「う~ん、何かが見えたわけではないんだけど・・・なんとなく魔力の流れに違和感があるというか。もう少し奥に行けばたどり着くと思うんだけど。」
「魔力の流れが・・・?」
エルミラは最初こそ疑問を持ったが、ここまでハクが興味を示す何かが気になるようになってきた。
「近いぞ・・・。」
ハクが急に立ち止まる。
ハクの目の前には一本の巨木がある。その太さは直径10メートルほどだろう。
エルミラはハクの様子を見てつぶやく。
「この木が・・・?」
ゆっくりと木に近づき、エルミラが触れる。ほかの木とのさはその太さだけで、触れてみてもなんの違和感もない。
「ハク・・・この木なの?」
エルミラは木に触れつつもハクに確認する。
「この木・・・のはずなんだが、どうもおかしい。森全体の魔素がこの木に向かっているんだ。先ほどまでは逆にこの木から外へ魔素が向かっていたんだが。」
徐々に魔素が濃くなっていっているのか、木の周囲が光りだす。あふれだす光の胞子が、徐々に何かの形を作っていく。
「これは・・・?」
光の胞子がかたどったのは、角が異常なほど立派な純白の牡鹿だった。その厳かな角の持つ力はハクでさへ目を見開く。ただし角というよりは木に近いようなそんな見た目をしていた。
「これは・・・私にもわかる・・・すごい。」
純白の牡鹿はゆっくりと目を開く。その目は綺麗な青色だった。
「人間よ・・・君からは黒の王のにおいがするな。」
牡鹿はハクに話しかける。
「黒の・・・王・・・?」
ハクは頭の中で思い当たる点を探る。そして心当たりがあった。
「ノイルのことか?」
「そうか・・・、確かにそんな名前だった。普通私たちは自分に名をつけない。存在を世界に固定すると、力の一部を失うからだ。黒の王はそれでも名をつけた・・・。」
「我々・・・?どういうことだ?」
牡鹿はハクに視線を合わせる。
「我々は始まりの獣。君たちの言葉に合わせるのであれば、最初に生まれた魔物といったほうがいいだろうか。」
「最初に生まれた魔物?」
「うむ、その様子では残念がら人々にもう伝わってはいないようだな。先ほど言った通り、私たちはこの世界で最初に生まれた魔物なのだ。私たちを始まりに、この世界に魔物がどんどん増えていった。人々は我々とコンタクトをとった。私たちは知能が高く、次第に人々の言葉を理解するようになった。ただ魔物の中には人々の言葉を理解せず、それはおろか人々を襲う者たちが現れ始めた。私たちは知能の高い魔物と協力し、それらを排除した。人々の言葉を理解できたのはごく少数で、たったの4匹だった。私たちは人間に崇拝されることになった。それぞれに【白の王】【黒の王】【金の王】【銀の王】と人々がなずけた。ここまでが大まかな歴史だろうか。」
「そんな歴史があったのか。」
「もうずいぶん昔の話だがな・・・。」
ハクにはここで一つの疑問が残った。
「なぜおれたちの前に姿を現したんだ?」
「ただ単に昔なじみの懐かしい香りに誘われてな。ただここには来ていないようだな・・・。」
「そうだな。ノイルはきていないよ。」
ハクがそういうと、白の王の角から、実のようなものがものが一つ出てくる。その実が角から離れると、地面に落ちることなくハクの手元に来た。
手元の実から、目を離しもう一度白の王へと目を移す。するとそこにはもうその姿はなかった。
ただ声だけがハクの耳に届く。
「それを黒の王へ。」
その声を最後に、不自然だった魔力の流れなどはすべてなくなった。
「白の王・・・本当になんだったの?」
エルミラが小さな声でつぶやく。
「わからない・・・。」
ハクの手元には木の実だけが残った。




