誰だって考えてるってよ
ハクの目は相変わらず憂鬱そうにリアムを眺めている。その体の周囲には光の粒が漂い続けている。
「そうか、君は魔素に愛されているんだね。」
リアムはそういうとハクに近づく。その距離は触れようと思えばいつで届きそうな、そんな距離だった。ここまで戦えば、リアムはハクが魔法をほとんど使えないことは理解できていた。
リアムはハクに上段蹴りを見舞う。ハクはそれを避けようともしなかった。リアムの本気の蹴りを、ハクはそのまま受ける。
「本当は俺が人類を代表するには適切でないことはわかってたんだ。」
「・・・確かに君は異常だ・・・・。」
リアムは再度ハクに全力で蹴りを当てる。だがそれもハクが避けることはない。それでもリアムはあきらめずに、今度は目にも止まらない速さで、突きや蹴りを連続で放つ。
ここまで来るとリアムはハクが動かないのではなく、リアムのあまりの力で動けないのではないかと錯覚すし始める。
「どうした?この程度か?」
ハクはリアムの連続攻撃の中から、一つの突きを選び、それをつかむ。
「グッ!?放せ!!!」
ハクは素直にその手を放す。そうすると、急に離された手に対応することができずに、リアムはバランスを崩す。
ハクはそこに拳を見舞う。リアムは対応することができずにそのまま吹き飛んでいく。ハクはそれを追うことはせずに、静観する。
「これ以上は無駄だと思うが?」
「私はそうは思わない。私が本当にこの程度だと思うかね。現状私が出せる全力は確かにここまでなのだが。ここからは私は言葉を発することはない。君と会話できて楽しかったよ。さようなら。」
唐突なリアムの言葉にハクは疑問気な表情をする。
リアムは煙の中から出てきて、急に表情を失う。また管内アナウンスが鳴り響く。
『テストケース・リアム・・・リミッター解除。リミッター解除完了。』
「そうか、リアムの意識をインストールした理由は・・・本当に対話を求めていたんだな。それはそうか・・・俺の想像通りならリアムはこの場に現れるはずはない。本当に知りたかったんだ、あいつですら迷っていたんだな。その大きな選択に。だったら俺が示すだけだ、あいつのためにも人類の可能性を示さなけらばならない。」
リアムの首がうなだれるようにうつむく。
『最終フェーズ、ZEROを起動します。』
リアムの首が持ち上がる。眼球からは紫の光が放たれる。全身が紫色にうっすらと発行するような、あふれる魔力が可視化するようなそんな領域にリアムは至る。
「初めまして、というのは果たして適切なのでしょうか。」
ZEROがハクに語り掛ける。
「それは俺が君の意識に何度もアクセスしているからか?」
「その通りです。私の足跡を追いましたね。」
「手がかりがそれぐらいしかなくてね。この島を統合して管理しているのはやはり君だったのか。」
「その通りです。私はリアムにそういう風に作られました。今も昔もこれからもずっと・・・。」
「それは君が望んでやっているのか?」
「・・・・わかりません。」
ZEROの目は相変わらず紫色に光、戦闘の始まりを告げるかのように口を結ぶ。
ZEROは一瞬でハクの眼前に到達、ハクの胸に手を当てるとそこから魔力を放出する。
リアムの攻撃ではピクリと動かなかったハクの体が、そのままの姿勢で後ろにずれる。
「【アトラクシオン】」
ZEROの方へ引き寄せられる・・・はずだったが、それは起きなかった。ハクの周りに漂う魔素がZEROの魔法を妨害し、直接ハクに干渉する魔法を防いでいる。
「効果はないようですね。」
ZEROがハクに高速で接近すると今度は拳を放つ。ハクはそれを真正面からくらう。
ZEROの一撃でハクはそのままこの大広間の壁まで吹き飛んでいく。
「へぇ・・・確かにリアムよりも強力な一撃だな。同じ体なのに、こうも違うのか。」
ハクは無傷で壁から出てくる。
「なるほど、先ほどからあなたにダメージが通らない理由を探っていましたが、ようやく理解できました。あなたは体を硬くて薄い膜のようなもので囲っていますね。」
ZEROはハクを少しだけ警戒するように観察している。
「そうだぞ、これはトレットの万能防御の応用編だ。普段はうまく魔力をコンロトールすることができなくて、使えないが、今なら余裕で使える。体の動きに合わせて、何度も操作しないといけないから、めちゃくちゃ難しいんだ。」
「まずはそれを排除しますか。」
またもやZEROがハクに接近すると今度も手を当てる。だが今度は魔力を放出したりするわけではなく、手に魔力をまとわせている。
「そんな長時間触っていることを俺が許すと思うか?」
ハクはZEROの手を素早くつかむと、そのままハクのすぐ背後にある壁に投げ、たたきつける。
ただし今度はZEROのほうからハクの手をつかんでいる。壁にたたきつけても離さなかったようだ。
「今から私があなたに触れている間はそのシールドは作動しません。」
「なんだと?」
片手でハクの手をつかんだまま、先ほどのリアムのようにハクに上段蹴りを放つ。
ハクはそれをあえてよけようとはせずに顔面で受ける。先ほどZEROが言ったようにシールドは作動していないようで、ハクの口元から血がにじむ。
ハクは血のにじむ口元をつかまれていない方の手でぬぐう。
「今のを受けて、その程度ですか。」
ZEROはハクのその様子を見て驚愕している。
「いや、普通に結構きいたよ。でもこの距離に君がとどまると俺の攻撃範囲なわけだが、それもちゃんと計算に入れているのかな?」
今度はハクがゼロの片手を掴み返して持ち上げる。そのまま地面にたたきつける。だがZEROは何とかもう片方の手を地面について、頭部にダメージが入るのを防いだ。
「その片手はもう使えないんじゃないか?」
「強引に動かせばいいだけです。」
それでもZEROはハクの片手を離すことはない。
「ですがあなたもシールドが使えないはずです。ですからこういうのはどうですか?」
ZEROの手に魔力がともる。そしてハクにつきを放つ。ハクはこれを自由な方の手で受け止める。ZEROはハクの手がはじけることを想像したが、そうはならずに普通にハクは受け止めてみせた。
「君が魔力を拡散しているのは見てすぐに分かった。だが俺も少しは魔力のコントロールに自信があってね。片手だけなら、シールドで覆うことができたみたいだ。」
ZEROはそれでも一瞬でもあきらめずに、連撃をハクに放つ。片手しかシールドで覆うことができないのであれば、連撃でそれ以外の場所を攻撃すればいいという考え方だ。
ここではハクには実は二種類の手段がある。それは自分にかかっているシールドの部位をずらしながら戦う戦法と、このまま片手だけで攻撃を受けきるか。
ハクは片手で受けきることを選択した。それもそのはずだろう、ハクはこの戦いで敵を積極的に倒したいわけではな。ただ単に力量差をわからせて引いてもらいたいだけだ。
「馬鹿な、この距離で放つ私の攻撃をすべて片手で防ぐなんて不可能なはずです。」
ハクはその会話の間にも片手でZEROの攻撃をすべて防ぎ続けている。
「それができているから俺はいまこの場に立っているんだな。」
ハクはすべての攻撃を防いでいる。そしてZEROが上段蹴りを放った直後、それをつかんだ。
「あきらめろ、ここまでだ。君に勝機はない。」
ハクはZEROの目を見に語り掛けるような視線を送る。
「勝利への道筋を演算。勝利確率・・・・半分を下回りました。テストを終了します。」
ZEROの目から光が失われ、その場でうつむき、動かなくなる。
ハクはその場で叫ぶ。
「見ていたんだろう?リアム。俺は示せたと思うが、人類の可能性を。」
『ふむ、確かに見ていたよ。素晴らしかった。』
リアムの声でアナウンスが響く。
「そもそもこの戦いは不毛すぎる。倒すべき相手が、この世界にいないんだからな。それも命の書の力なのか?」
『そうか、どこまでも見透かされているようだな。その通り、人類という種がいらないと考えているのならば、いの一番に消去すべきは自分自身だ。私は私を消去して命の書を使用して魂と、体を引き離した。あとは私の魂をデータ化するすべを開発しておいたので、PCに入ってしまうだけだった。」
「ふむ、表向きにお前の家だとされるあの家、あそこにあったPCにまだ残っていた気配はやはりお前だったわけだ。」
それにしても魂のデータ化か、地球の科学者が聞いたら発狂しそうだな・・・。リアムはやはり天才だ、それ故に孤独で、ただ世界をよくしようとしただけなのかもしれない。
ハクの体から発していた光の粒が徐々に収まっていく。
『私は物心ついた時から、世界を変えなければならないという使命感があった。私があらゆる物事を理解するころには同世代の人間に私とまともに会話できるものはいなくなり、誰と話していてもその知識のなさを感じていた。ただ考えなければならないと感じたんだ。この世界の行き先を。』
「そんなに気負うことはないんじゃないか?一回ゆっくり過ごしてみろ。別に世界を今すぐよくする必要なんてないだろ。」
ハクは地面に座ってしまう。
ちょうどエルミラも無事に目を覚まし、ことの経過を見守っているようだ。そばにいるシンとアリアが現状を説明でもしたのだろう。
ハクはこの大広間の天井を見上げる。
「俺も最近気づいたんだが、この世界も案外悪くないよ。」




