親玉と戦うってよ
リアムはハクに歩み寄ると羽織っていた布を空へ投げた。その動作の間に、布が一瞬リアムの前を通った。それに布が舞うと、いつの間にかリアムは服を着ていた。
リアムが着た服は今までのクローンたちと一緒で、白い体にぴったりと張り付くタイプのスーツだった。ただし武装はしていない。
「ハク君、覚悟しておいてくれたまえ。君が一瞬でも気を抜いた瞬間勝負がついてしまうからね。種の人口進化の頂点が君と遊んであげるんだ。決して勇者なんて下位互換の力を参考にしないことだ。その勘違いだけで勝負は終わってしまう。」
リアムは自信満々に両手を広げながらハクに迫る。ハクは油断をしているわけではない。そして油断できるわけがないのだ。そもそもリアムからあふれ出る魔力量は異常で、立ち昇る魔力だけで天井に接触するのかと思うほどだった。
敵が圧倒的な力を持っていることを自覚してなお、ハクはリアムのほうへ前進する。その表情は別に死地に向かう、悲観的なものでもなく、これからの戦いを楽しみにする表情でもない。いまいち感情が読み取れないが、ふとあくる日に本棚で目に付いた小説を急遽読み返しているような、そんな何かに熱中しているような表情だった。
「それじゃぁリアム、俺から行くぞ。」
いつもの通り、なんの変哲もなく、ハクはただその場から消えた。
「っ!?」
リアムは眼を見開く。それもそのはずだろう。リアムは完全にハクに対してノーマークだった。地下の廃棄クローンどもの元へハクを送った瞬間から、ハクのことをただの勇者の付き人か何かかかと考えていた。おそらくはエルミラや、ノイルといった面々からただ守られるだけの日々を過ごしているのだと。
ハクはノイルを使い、次元膜をつかみ、いつも通り引き絞り、ただ体の力を解放しただけだった。それだけでハクの速度はエルミラの移動速度のマックスへ迫る。
瞬きの間にリアムに接近すると、ハクはそのまま万能防御を使用しながらリアムを容赦なく蹴り飛ばす。リアムはハクのこの動きに対応することができずに、この都市フィールドの壁にめり込む。
「おいおい、まさかとっても優秀な機体にぼんくらパイロットが乗っているパターンかよ?」
ハクは吹っ飛んで行ったリアムを見てそんな感想を言う。
「安心してくれたまえ、優秀な機体に、最上級のパイロットが乗っていると思ってくれて構わない。ただ君があまりに格下だから少し手加減してあげただけさ。」
いつの間にか壁からハクの背後まで戻ってきていたリアム。その移動速度はハクですら目で追うことができないほどだった。
「っ!?」
今度は背後からの攻撃にハクが吹き飛ぶ番だった。リアムが放った攻撃はおそらくはただの蹴りだろう。だが、攻撃はそれだけで終わりではなく、リアムは瞬く間に地面と平行に飛ぶハクに追いつく。そしてそのまま両手を祈るように合わせ、ハクに振り下ろす。ハクが吹き飛ぶ方向は下へ代わり、そのまま地面にめり込む。先ほどエルミラが作ったクレーターよりもはるかに大きなクレーターができる。
「ふむ、ウォーミングアップにしては少しだけ物足りなかったが、死んでしまっては続きができない。ノイル君、続きは君が相手をしてくれるね?」
ノイルに話しかけながらクレーターからゆっくりとリアムが昇ってくる。
「僕としても君とは戦いたいところなんだけど、横取りしたらハクが怒りそうなんでね。やめておくよ。」
「そのハク君はたった今死んだんだ。見てただろ?」
リアムは片手を腰に当て、やれやれといった表情をする。だがその背後から声がする。
「くぅ~いった~死ぬかと思ったよマジで。お前容赦ないな~。」
ハクはクレーターから体についた砂を払いながら出てくる。
「・・・・。どうも君をなめすぎていたみたいだね。」
リアムは特に魔法を使うわけでもなく、ただの魔力の塊を振り向くとこもせずに、背後にいるハクに投げつける。おそらくはS級冒険者でもこれでいとも簡単に死ぬだろう威力がある。
それに対して、右手を背後に引き絞ると力を解放。ハクは次元膜と自身の力の織りなすただのパンチをリアムの魔力球にぶつける。一瞬釣り合ったかと思うと、すぐにハクの拳が勝ち、リアムの魔力球は消し飛んだ。
ハクは首に手をまわしコキコキと鳴らしながら、またリアムに接近する。
「確かに俺のことなめすぎかもな。」
ハクはリアムには到底手の届かない位置に止まると、また次元膜を引き絞りそれを今度はただ話す。そうすることによって解放された次元膜はもとに戻ろうとする勢いで、リアムにぶつかる。
リアムその全く見ることのできない攻撃をかわすことができず、のけぞる。だがそれでも倒れることなく、その衝撃で数歩分体をずらすと、状態を起こす。
リアムは自身の親指で、鼻血をぬぐう。
「実に面倒な相手だということはわかったよ。今まで集めた戦闘データのすべてが適応することができない。まさに今の私の天敵といえるだろう。だがそれでこそデータが集まるというものだ。」
ただただ軽く見える動作でリアム足で地面を軽くつく。
その結果地面は揺れ、ハクも揺れる。
「それではこんな攻め方はどうかね。」
リアムの拳に魔力が集まり、発光する。ハクは地面の揺れで一瞬バランスを崩したが、リアムはまるで地に根でも張っているかの如く揺れることはない。ハクに一瞬で接近すると、そのまま殴りつけた。
だがリアムがハクに接近する一瞬の間に交差するように次元膜を引き絞り、その交差点でリアムの拳を受けた。通常次元膜はトレットのように次元干渉を持っていないと干渉することはできないが、ハクはトレットのこの能力が、ある程度なら干渉できる範囲を広げることができるのを理解していた。それは先ほどリアムの顔に次元膜をぶつけた時しかり、まさしく今もそうだ。交差することにより、張力が大幅に上がった箇所をリアムが殴ることによって、威力がそのまま反射され、リアムは反対方向に吹き飛んで行った。
「馬鹿なっ!?」
リアムの想定では今の攻撃でハクは死んでいたはずだった。だが想定する結果とは真逆、実際には反撃を受けてリアムが吹き飛んでいる状況だった。今度は技の威力が威力だったので吹き飛ぶ速度はすさまじく、一瞬で壁まで到達してめり込み、煙を立てる。
壁からゆっくりと落ち、口に手を当てむせる。手には血がついていた。
血の付いた手のひらを見ながらリアムは熟考する。
馬鹿な、あの男は多少戦闘ができる雑魚ではなかったのか!?なぜ今私がこうしてダメージを受けているんだ。異世界人とか言っていたな・・・まさか、輸入勇者なのか?だが奴の放つ魔力は間違いなく勇者のものではない。だが確認する価値はあるかもしれないな。
「君は・・・まさか異世界から招集された勇者なのか?」
ハクに疑問を投げかけようと顔を上げた瞬間、ハクの拳が目の前まで迫っていた。そもそもハクの移動方方ではほとんど音がしない。ハクは万能防御で自身に流線型のバリアを張ることによってさらに速度を加速させていた。
「俺は勇者じゃないよ、しいて言うなら観光客だ。」
ハクはそういうとリアムの顔を殴る。いまだこの部屋の壁面前にいたリアムは今度はのけぞるようにして壁に顔面をめり込ました。
ありえない!?なぜこうも私が押される?ダメだ、冷静になれ・・・怒りが私の脳細胞を劣化させる。
「残念だ、もう油断しない。君には完全に死んでもらうことにしたよ。」
壁にめり込みながら言葉を発するリアム。
それは一瞬で起きた。ハクの眼前で突然リアムの周囲の壁面が爆発する。
ハクは咄嗟に万能防御を張って、攻撃を防ぐ。そしてその勢いを利用してリアムから距離をとる。だがリアムはいつの間にか壁面を地面のように足をつけて、そのままジャンプする。そうすることによってハクとの距離が一瞬で埋まる。
「ふむ、50%くらいで君は死ぬだろうか。」
リアムは全力でハクを殴りつける。ハクはこれに対してまた万能防御をはった。だがリアムはハクの万能防御を拳で貫いた。ハクは首の動きのみでその攻撃を回避する。ハクの耳元にリアムの拳の威力を想像させる嫌な風切り音が鳴る。そのままリアムはハクに連撃を繰り出すが、ハクはそれを特にそらし、時に体の動きだけで回避し続ける。それもそのはずだろう、先ほどのリアムの発言通りハクは攻撃を食らえばただでは済まない、その威力があることは理解できた。
ノイルはその様子を遠巻きに観察する。
あの時こっそりと見た動きそのままだ。本当にハクは舞うように戦うね。あそこまで攻撃を完璧に読むのははっきり言って僕にもできない。あれはきっと天性のものだろうね。
リアムもノイルと同じようなことを考えていた。
なぜだ・・・ここまで力量差がありながら、なぜ私の拳は当たらないんだ!?今までの戦闘データにはなかったぞ。魔人ですらそんなことはできなかったはずだ。
リアムはハクから距離をとった。そして顎に手を当てて考えるポーズをとる。
「そうか、どうも私は本当に君を過小評価してしまっていたようだな。もちろん油断は先ほど払拭していたんだが、手加減してしまったようだ。それすら君には必要なかったというのに。」
リアムは手を下ろし、ハクに歩み寄る。
「この体で本気を出す相手が、あそこのノイル君じゃないかと思っていたのに、まさか君とはね。こればかりは予想外だったよ。ここからは全力、100%だ。」
リアムの体から立ち上る魔力の量が大幅に大きくなる。立ち上る魔力は天井に届き、広がっていく。
「あらら、これはテクニックだけじゃどうにもならない領域かもしれないね。」
ノイルは手の平を空に向け、肩まで上げる。
リアムは手のひらをハクのほうへ向ける。
「私は魔法の研究もしていてね、無属性魔法にはその先が確かにある。ただし分岐は非常に多いんだ。無数にあるといっても過言ではない。もちろんそれらがほかの属性に比べて優れているだとか、そんなことはないんだがね。ただし、面白いことができるんだな。例えばこの魔法みたいにね。【アトラクシオン】」
ハクはリアムに引き寄せられる。ハクがちょうど眼前に迫ったタイミングで拳をふるった。だがハクは引き寄せられる勢いに任せて、体を回転させてその拳を何とか回避した。リアムの拳の速度と威力は明らかに先ほどより上昇している。
「それは引力を操っているのか?」
「そうだよ、ここまで来たら先ほどの使い方以外にもう一つあることは想像できるよね。【アトラクシオン】」
もう一度リアムはハクのほうへ手を向ける。今度はハクが後ろに吹き飛ぶ。
「そう来るよねそりゃ。」
ハクは一瞬で壁まで到達してめり込む。魔法はそこで終わったわけではなく、ハクは壁にめり込みそこから動くことができない。
「魔法を発動し続けるかぎり、壁から動くことはできないだろう?」
リアムはハクにゆっくりと歩いて近づく。
「さて、残念ながらここですべてが終わるわけだが、最後に何か言い残すことはないか?」
「・・・・もゴムがもごむ。」
ハクは壁にずっと押し付けられているせいで上手くしゃべることができない。ハクの言っていることをわかりやすくするとこうだ。
「・・・・この魔法凄くね?」




