人間だって進化の途中だってよ
空から真っ白な布が地面と平行に広がり、ひらひらと舞い落ちる。その様は春の桜が散るかのようで、こんな時でも思わず見つめてしまう。
「布・・・・?」
ノイルは見たままを思わず口に出してしまう。
そして布はひらひらと舞い落ち、やがて地面に落ちる。
「・・・・!?」
「・・・・・?」
ハクとノイルは空から落ちてきたその謎の布の魔力を観察する。果たして見るからにただの布なそれになぜそんな観察眼を使ったのか、ハクもノイルも説明することはできない。ただ何か予感的なものがあった。それがただの布ではないという、正体不明の予感が。そしてその予感は正しかった、ハクとノイルが観察したその布は魔力をまとっている。布のまとう魔力ははっきり言って異常だった。まるで一面の緑を彷彿させる新鮮さと、その尋常じゃない量。ハクとノイルは怯えたわけではないが、思わず黙ってしまう。
地面に落ちた白い布の真ん中が急に膨らむ。布が少しずつずれていくと、白い髪の少女がそこから出てくる。見た目だけで言えば、14、5歳といったところだろうか。肌も白く、銀色の瞳をしている。
白い髪の少女は先ほどの白い布をまとうようにしている、その布の隙間から少女の白い肌がのぞき、服を着ていないことはわかる。まるでつい先ほど生まれたかのようだが、そのあどけなさが美しさを際立たせ、確かに元はアリアなのだが全く別の人間に見えた。ただし今は瞬きもせず、感情があるようには思えない。
だが数秒後突然瞳に感情がやどり、最初に抱いた印象は全く変わったしまった。先ほどのあどけない印象はすべて消え、非常に知的な表情に変わる。
「やぁ、初めまして。私がこの国の代表にして、この施設を作ったものだ。リアム・エイブラムスだ、よろしく。」
リアムは気さくに挨拶をしてくる。だがその目を見れば、こちらには特に興味はないことは明らかだった。まるですべてを見透かしているようだ。
「どうだい?フォルテは結構面白かったんじゃないか?あれは科学と魔法が完全に融合した姿だからね。」
リアムは特に何を聞いたわけではないのに突然説明し始める。
「そもそもフォルテはここに命の書をとりに来た魔人が始まりだったんだよ。かなり手こずったけど、僕の発明した、戦闘クローンたちで何とか仕留めることができたんだ。ちなみにフォルテという名前はそのまま魔人の名前を使用している。なんか魔人の偉い人だったっぽいけど、僕はよくわからない、興味がなくてね。」
「いや、そんなことは聞いていないんだけど。」
ハクは冷静に講義をする。
だがリアムはそれにまるでお構いなしに、腰を低くする。そうするとまるでそこに座れる椅子があるかのような姿勢になる。おそらくリアムはなんだかの力をもってそこに座っているのだろう。
「ふむ、確かに聞かれてない。けど君らはここまでたどり着いたんだから、僕の計画を聞く権利くらいはあると考えていてね。まぁ聞いておくといい、君らほどの力を持った人間であれば、上位者の存在は少ないだろうから。考え方を聞くだけでためになると思うよ。」
ノイルの眉毛は不快感を表すようにぴくぴくとしていたが、並ぶハクはまるでそれについては異論がないと考えているのか、特に発言をすることもなく、リアムの話を聞いている。
「ある程度アリアから聞いているかもしれないが、僕はこの世に今の人類は必要がないと考えているんだ。特に獣人、魔人という種に比べて、人間という種は本当に必要がないと考えている。先ほど私が例に挙げた、魔人や、獣人という種族はルーツをたどれば人間でね。獣人は一見人間という種族と、動物が配合した結果できる種族だと思われているが、私の研究の結果それは違うことが判明した。獣人という種は人類が進化している工程の一つで、世界に適合するために人間が選んだ進化形態の一つなんだ。それは魔人も同じでね、この世界に流れる魔素に適合して進化し、より人間がより強化された姿が魔人なんだ。もちろんほかの人類の変化体もそれに該当する。この時点で人間が、それぞれの種族かれ一段階進化が遅れた劣化個体だということがわかるだろ?」
見えない椅子の上で、リアムは右手をこちらに向け身振り手振りで説明する。
「だから人間は必要がないのか?」
ハクのこの発言に、理解の早い生徒を見る教師のような目でにっこりと笑いながら、返事をする。
「その通りだ。ただし、ただ殺してしまうのでは私の計画規模でコストを考えるともったいないだろう?そこで私が考えたのは、人類を私の手によって進化させるという考え方だ。」
「つまり人間は滅ぼさないのか?」
「いや、滅ぼす。残念ながら人間は結局この星のコストを食いつぶしてしまうからね。優先順位で考えれば、人間から滅ぼすのが順当だろう。それに何より、人類の調査は今日で完了したんだ。君らがむざむざとここに来てくれたおかげでね。」
「どういうことだ?」
「簡単な話だ。そこで倒れている彼女は人類の到達点、勇者だろう?私は事前に勇者の魔力の波長を研究し終わっていてね。この施設に入ってもらえればそれはすぐに判明する。つまり人間の可能性は先ほど調査が完了したんだよ、フォルテのおかげでね。あとは無駄にコストを食いつぶす人間種には死んでもらうだけだ。もちろんゆくゆくはほかの種族も滅ぼすさ、僕がつくった全く新しい人類種族がこの星の唯一の人類種として君臨するのが、私の計画の最終目的だからね。神がろくに道を示さない人類の道は、人類で唯一優れている僕が神の代わりに、道を示すんだ。どうだ?優しいだろう。」
「なるほど、言いたいことはわかった。」
ハクは顎に手を当て、肘を腕で支える。
「例えば俺は異世界から来た人類なんだが、お前の作った新しい人類と戦ってテストしてやるよ。面白いとは思わないか?ところでその新人類ってどこにいるんだ?」
ハクは自身満々な笑顔でリアムを見る。
「そうか、君は異世界人だったのか、確かに面白いね。ちなみに新人類ならここにいるよ。君の目の前にね。たったついさっき完成したんだ。君ぐらいでもウォーミングアップくらいにはなるだろう。本当は君の後ろにいるライオン君にテストしてもらおうと考えているんだ。だから君はウォーミングアップってわけさ。」
ノイルが若干目を見開く。
「気づいていないとでも思っていたのか?君は有名な魔物だからね。僕からしたら、本当に大歓迎だったのさ。この国に来た時点で目をつけていたよ、君と先ほどのエルミラとかいう女性にはね。」
「あらら、僕の正体はとっくにばれちゃってたのか。うまく隠せてると思ってたんだけどね。しょうがないか。」
ノイルは残念そうに下を向く。だが下を向いた後の表情が満面の笑みであることはいうまでもないだろう。
「さぁハク君、僕と戦おうか。」
リアムは立ち上がると、ハクのその目を見る。そしてにんまりと笑った。




