誰かを守りたいという意思はやっぱり強いってよ
エルミラは黄金の髪を振り乱しながら、一瞬でフォルテに接近する。フォルテはそれに対応することはでききない。相変らずフォルテの暗黒の瞳は、何を目で追っているのか察することはできない。エルミラは正面から、剣を大上段にふるう。そうすることによって、ライメイがゴォォォォという音を鳴らす。エルミラの剣が先ほどよりもはるかに軽くなったことが原因なのか、速度が大幅に上昇しているようだった。
「もらいました。」
一瞬の容赦もなく、ライメイはフォルテを一刀両断にした。
誰の目から見てもそれは明らかだったが、エルミラだけが真実を知る。
「斬った感覚がない!?」
「実験フェーズを移行、魔法の使用を開始。」
フォルテを一刀両断にするはずだった県はフォルテを通り過ぎて、そのまま地面を斬り込む。そして目の前のフォルテはそのままエルミラに向かって蹴りを放つ。そしてその蹴りもエルミラをすり抜ける、後ろの空間に衝撃のみを伝える。
「普通に失敗したんですか!?」
エルミラはフォルテの正面からの蹴りが自身の攻撃と同じようにすり抜けたことに動揺している。
すぐさまエルミラがフォルテと距離をとろうとした瞬間、エルミラの背後の電気に何かが触れる。とっさの判断でエルミラは前に転がるようにして、その何らかの攻撃をかわす。だがそのせいで自らまたフォルテに近づいてしまう。今度はフォルテが横なぎに紫の片手直剣をふるう。その一撃を体の横にライメイを立てることによって防ぐ。だが今度は普通に攻撃でエルミラはその突然さに対応することができす、ビル群のほうへと吹き飛んでいく。
エルミラは吹き飛んで、自身が貫いたビルの中でうめく。
「これはとんだ第二ラウンドの開始になりましたね。まさかとは思いますが、真属性魔法・・・?」
エルミラは一度冷静になろうと、その場で立ち上がり自身の体についた砂やビルの破片をはたく。
いや、真属性魔法でない気がする。ただの勘だけど、なんとなくあっている気がする。とりあえず、光魔法で相殺できるか試してみるしかない。これで相殺できれば、闇属性魔法でまりがいないはず、消去法で冷静に戦おう。
エルミラはビルから一瞬で飛び出す。
「【ホリー・トゥルー・イルミネイト】」
この魔法は光属性魔法で、闇属性魔法による幻影や毒効果を打ち消す作用がある。
魔法の光が、フォルテの周囲を照らす。フォルテの体から一瞬黒いオーラのようなものが立ち上がり、それが照らされるようにして消えていった。
「ビンゴっ!」
エルミラは一瞬でまたフォルテに接近すると、今度こそフォルテを切り伏せようとする。
まさにエルミラがフォルテに接近する中、突如このホールにアナウンスが流れる。
『テスト完了、これより最終フェーズに移行します。プログラム・フォルテ、リミッター解除。全能力の使用を許可します。残敵を排除しなさい。』
今までフォルテの目はまるでどこを見ているのかすらわからないほどに、黒一色だったがそれが変わる。一瞬フォルテの瞳に、何列か文字が流れたかと思うとその瞬間瞳が白一色に変貌する。その後、フォルテの瞳の中にいくつも黒い筋が走る。それらの黒い筋がフォルテの瞳の中心に集まり、黒い十字架を描くとそこにとどまった。さらに驚くほど白く、人間味のなかったフォルテの肌は、後頭部からか前に徐々に染まるように、全身黒色に変わっていく。いつの間にかフォルテの額から二本ねじれた角が後頭部に向かうように生える。
「リミッター解除完了、殲滅を開始。」
「っ!?魔人だったというの?」
エルミラがそうつぶやいた瞬間、フォルテはいつの間にかエルミラの前にいる。先ほどまでの速度とはくらべものにならないほど早くなっていた。すでにエルミラの前で横なぎに剣をふるう直前になっている。そしてこれをエルミラは剣を正面に構え、盾にするようにして防ぐ。
「っ!!!!!!!!????????」
エルミラは声にならない叫びとともにまたビルを何棟も貫き、民家をすべて貫通、この大部屋の壁にめり込むと、ようやくその勢いは止まる。
そして黄金に輝いていたエルミラの髪の毛はいつもの銀色に戻る。
壁にめり込んだエルミラはそのままゆっくりと壁から剥がれると、壁に刺さった剣を置いて地面に落ちていった。エルミラの周りに深紅の血だまりが広がる。
「エルミラ・・・。」
アリアは口元を抑えながら、小さな声で驚愕ている。
ノイルはエルミラのほうを確認すると、前に出る。
「今度こそ、選手交代だね。ナイスファイトだった。僕も少しだけ燃えてきたよ。アリア、悪いけどエルミラの応急処置を早急にしてもらってもいいかな?結構ぎりぎりだけど、まだちゃんと生きているから。」
「っ!?わかったわ!」
アリアは全速力でエルミラに駆け寄る。
「・・・なに・・・これ?」
エルミラの血がスローモーションでゆっくりと空へ昇っていた。
エルミラは今、意識がない。だが人が意識と定義するさらに奥の奥、それはきっと心を海と例えるのであれば、人がたどり着く限界のさらに先の深海にて走馬燈がエルミラの中に流れていた。
走馬燈は最初、軍が辛くて一人部屋で泣いているエルミラから始まる。そして映像は徐々にいつもエルミラのそばで笑っていて、いつの間にかエルミラのすべてを変えていた、シルエラの映像に変わっていく。だが走馬燈の最後は夜暗い部屋で、静かに窓を見ながら、目じりから涙が流れるシルエラの映像で終わっていた。
無意識の深海にてエルミラは自分の目的を静かにもう一度思い出す。
私の知る誰よりも美しく、そして誰よりも強く優しい、慈愛に満ちたシルエラがあの日泣いていたから・・・。どんなに強い人間でも、結局人間は人間だから、辛ければ涙を流すし、苦しむ。だから私はあなたの支えになりたくて・・・。でも私が弱いことはこの旅でもう嫌というほど何度も思い知らされてきた、例えば今だって・・・。それでも私はせめて、あなたをどんな危険からも守れる、そんな力が欲しい。どんなに自分が辛くて苦しくても、きっとあなたは私に笑顔で『大丈夫』と一言だけ告げる。私はそんなあなたを抱きしめるられるだけの力が欲しい。でも今の私じゃまだ、本当の意味であなたの横に立つ資格すらないから・・・。だから・・・守れる私になりたい。
一瞬だけまた走馬燈が流れる・・・、その映像はエルミラがハクと決闘をしたあの日の映像だった。決闘の最後、エルミラの拳がハクにぶつかる瞬間のハクの笑った顔を。
ハクは気付いていなかったみたいだけど、あの日の夜、私はあなたの部屋の前にいた。もちろんあの日トレットの口から出た真実には衝撃を受けたけど、それよりも衝撃を受けたのはあなたの優しさだったりしたの。私の私しか知らない思いだけれど、いつしかきっと、あなたのことも守って見せるよ。もちろんシルエラのついでにね。
アリアの目の前で、急にエルミラは逆再生のように立ち上がる。そして周囲を浮いていた血はその瞬間に地面に落ちた。
「エル・・・ミラ?大丈夫なの?」
アリアは急に立ち上がったエルミラにゆっくりと聞く。だがエルミラから返事はなかった。エルミラの耳や、口元からはまだ血が少しずつ流れるように出ている。また、エルミラの目は意識を宿していない様子だった。
エルミラがゆっくりと右手を空に掲げると、壁に刺さったままのライメイが、手元に飛んでくる。ライメイの勢いを殺さずに、そのまま地面すれすれを剣で振るう。そうすると、地面で砂煙が立ち上る。
アリアはエルミラの様子を見ると、何か危険を感じ取ったのかすぐにエルミラから距離をとった。
ノイルとフォルテはそのエルミラの様子をただ静観している。
エルミラは喉も潰れてしまっているのか、声にならない声を発する。
-【サント・ルーナ・ヴェスティード】-
エルミラの背後から後光が発生する。銀色の髪が完全に白くなり全身から優しく発光。頭上にはまるで天使の輪のような虹が発生する。そして変化はライメイにも起きる、もともとエルミラの改造により。鍔が無かった剣は、鍔の代わりに十字架を描くように横に光を発生させる。剣の鍔部分は剣と鍔と柄を結ぶように、円状に虹を発生させる。
エルミラはその場からは動かずに、大上段からライメイを振り下ろす。思わず目をつぶりたくなるような、まぶしい光がフォルテまで到達する。フォルテはその攻撃をかわすことができずに綺麗に食らってしまう。ただし、光の線に沿って真っ二つになるわけでも、血しぶきを上げるわけでもなく、そのままその場に倒れ伏す。
「これは・・・?僕ですらまるで見たことがない、光属性になんとなく似ている感じがするが、それも違う気がする・・・。なんなんだ?」
おそらくこの魔法に関してはオスカーに聞いてすらその属性はわからないだろう。神は勇者に道を示し、力を与える。だがそれしかしないのだ。そして今までの勇者で神の力を完全に体に溶け込ませ、自身の新しい属性へと昇華させたものはいなかった。そしてこれはエルミラにしか永遠に使うことができないであろう魔法属性であり、魔法である。
エルミラはフォルテが動かなくなったことを確認すると、光を失い静かにその場に倒れた。
今度こそアリアは即座に判断して、エルミラに応急処置を施そうとする。エルミラに手を伸ばそうとするが誰かがその手をつかんだ。
「えっ!?なにっ!?ハクっ!?」
掴まれたほうを見るといつの間にかそこにはハクがいる。ハクはトレットの万能治癒を全力でエルミラに発動する。エルミラの呼吸が徐々に整っていく。
「これで一山超えたな。」
エルミラが落ち着いたのを見てハクは安心する。だがエルミラはその場で倒れ、いまだに意識を戻すことはない。おそらくは少しすれば意識を取り戻すだろう。
「何とか間に合ったな。」
「俺のおかげだぞ!」
ハクがつぶやくとトレットがすぐさま、宣言する。
「そうだな、ありがとう。」
アリアは突然現れたハクを観察すると、その背後を見て目を見開く。
「シンっ!?無事だったの?」
「アリア、君こそ・・・よかった。」
二人はお互いに見つめあうと、涙をにじませ力強く抱き合った。
だがお互いの無事を喜ぶ時間をこの研究施設は与えてくれなかった。
『最終フェーズ、第一段階完了を確認。次段階へ移行。全戦闘データを解析完了、オールクリーン。インストールを開始・・・・・インストールを完了、第二段階終了。次段階へ移行、ZEROへ、リアム・エイブラムスの意識をインストール開始・・・インストールを完了、第三段階完了。次段階へ移行、ZEROを都市戦闘フィールドに投入します。』
「リアム・エイブラムス?」
ノイルが疑問気につぶやく。そうすると何かにようやく感づいたように、アリアがつぶやく。
「代表の・・・名前よ。」




