強めの敵がでるってよ
話はハクが魔法を使い、監視室にたどり着く少し前にさかのぼる。
『よくぞここまでいらしてくださいましたね。』
エルミラ達はあれから幾度も戦闘繰り返し、通路を進み続けていた。そして今度もまた、通路の一番奥に大きな扉が現れ、その部屋に入った。その部屋はとても大きな部屋だった、わかりやすく例えると広さだけで、ディズニーランドの面積ほどあるだろうか。ここまでの広大な地下空間を作るのは相当のクローンが必要だったはずだ。今までの部屋とは全く異なる、内容だった。そもそもこの施設に入ってから、ほとんどの部屋の壁が灰色、または白一色の部屋で特にインテリアなどは存在していなかった。
だが扉の向こうにあった部屋は、まるで一つの都市を形にしたようなデザインをしている。例えば、中心に向かうにつれて、ビルが立ち並んでいて、外に広がるにつれて民家のようなものが増えている。まさしく一つの街を作り上げているようだ。
空間にZEROの映像が浮かびこちらにまた語り掛けてくる。今回は真っ白なスーツを着ていて、なんとなく冷たい印象を受ける感じだった。
『それでは最終フェーズテストを開始します。ケースモデル、フォルテ。都市戦闘シミュレーションを開始いたします。』
広大な部屋の天井の一か所だけが開き、そこから一人だけ人らしき影が落ちてくる。服装は今までのクローンと異なり、黒いタイプの体にぴったりスーツを着ている。ところどころ紫色の模様が入っていて、装備としては腰に紫色の片手直剣を装備している。
「・・・あれは結構やばいかもね、僕が今までの人生で見た中でもかなり上位に入るほどの力を感じるよ。武器は片手直剣という感じだね。結構厳しい顔をした男だ。」
「あんなに遠くが見えるんですか?私にはそこまではっきり見えませんよ。」
「私にも見えないわね。」
先ほど男が落ちた位置はこの広大な空間の中心地点、ビル街の中心部に落ちていった。
「私が戦いますよ。勇者ですから逆境には慣れっこです。それにハクがここまで来たら、ノイルには現状を説明してもらいたいです。私はそういう事務的なことは苦手ですからね。」
エルミラは一歩前にでる。
そしてその瞬間それが起きる。エルミラが先ほど入ったばかりの扉にめり込んだ。そして目いつの間にか目の前に先ほど天井から落ちてきたばかりのはずの男がいる。男をよく観察すれば、特に獣人であるとか変わった様子はない。毛髪は一切生えておらず、眉毛やまつ毛も生えてはいない。瞬きをする様子は一切なく、目を見開き黒目も白目もない、ただひたすらに黒い眼をしている。黒目という部分がないためにどこを見ているかは一切わからない。表情がなく、肌などもシミ一つなくはっきり言ってしまえば人間らしさが一切ない。
おそらく男はエルミラを殴り飛ばしたのだろう。そのまま扉にめり込んだエルミラのほうをじっと観察している。壁にめり込んだ衝撃でいまだに煙が立ち込めていて、エルミラの姿は見えない。普通に考えたら今の一撃で死んでいるはずなのだが、男に油断は一切ない。
突如目の間で起きた事象に対応できず、アリアは声を出すことすらできない。ただノイルもその男とやっていることはあまり変わらずに、ただエルミラのほうを観察している。特に焦った様子などはない。
男の対応が正しかったのか煙の中から、声が響く。
「【エルダーズマジック・ライトニング・レイ】」
煙の中から、雷の一閃がほとばしる。
その急な攻撃に男は対応して見せる。両手の手首を合わせるようにして、手のひらを正面に出す。ほとばしる光の本流をその両手で受け止める。雷の本流は終わり、男の手のひらは雷を帯電しているのか、バチバチと音を鳴らしている。どうも傷一つ無いようだ。
男は低い声で話し始める。
「我が名はフォルテ。実験を完遂する。」
「自己紹介ですか、今までのクローンとはどこまでも違うようですね。」
エルミラは煙の中から出てくる。だがエルミラに関しては無傷で済んだわけではなく、体は多少傷ついている。だが黄金の巨剣でぎりぎり受けていたようだ。
「・・・今までは傷一つつかなかったんですけどね。油断できない相手見たいですね。」
黄金の巨剣にはひびが入っている。
「【エルダーズマジック・ライトニング・カムイ】」
エルミラの姿は黄金に変わっていく。
「それじゃ行きますよっ!!!」
エルミラはフォルテに高速で接近、フォルテは片手直剣でそれを受ける。フォルテの片手直剣の中心には光る丸い部分がある。だがフォルテは剣で受けきるが、そのまま衝撃で吹き飛んでいった。何棟も建物を貫通し、煙を追えばビル街まで飛んで行ったのがわかる。
エルミラは容赦なくそのあとを光速で追う。吹き飛ぶフォルテよりも早く、ビル街の中心までたどり着き、フォルテが飛んでくるのを確認すると、そこにかかと落としを決める。フォルテは地面にめりこみ、クレーターが発生し、周囲の建物もその衝撃で揺れる。
「少し本気になりすぎましたかね?」
エルミラがそうつぶやくと、まるでそれにこたえるようにクレーターからフォルテが出てくる。
「対象の行動パターンを解析・・・解析完了。解析結果をインストール、排除を開始。」
フォルテはエルミラに高速で接近、もちろん先ほどのエルミラほどは速度がない。片手直剣をエルミラに振り下ろす。エルミラは周囲の微弱な電気により、それに超速反応、ほぼ振り下ろし始めるのと同時に行動を開始、光速でフォルテの背後に回る。黄金の巨剣を容赦なく横なぎにふるう。
振り向きざまフォルテは手で巨剣をつかんだ。
「想定とのシンクロ率100%。」
エルミラは眼を見開く。
「マジですか!?」
フォルテは巨剣をつかむとそれを引っ張った。力ではかなわず、エルミラは引っ張られる。ただし掴んだ巨剣を放しはしなかった。そのままエルミラはビルにむかって投げつけられた。そのまままたビルを何棟も貫いて、民家の間を転がる。
フォルテはエルミラを追って攻撃をすることはなく、そのままその場所でエルミラが飛んで行った先を観察している。
フォルテがエルミラが飛んで行った先を数秒間観察していると、突如エルミラがまた背後に出現する。エルミラの出せる最高速度が、転移したように錯覚するほどに到達している。エルミラの成長速度もまた勇者だけありすさまじく、この施設内で何度も戦闘こなすことによって徐々に腕をあげている。
「予想速度をオーバー、再解析開始。」
フォルテの背後から今度は大上段から剣を振り切る。今度は先ほどのように、キャッチすることはできずフォルテは剣を両手で持ち、何とかはじく。それでも勢いを殺すことができずにフォルテは下半身を地面にめり込ませる。
「解析完了、反撃を開始。」
フォルテは地面から飛び上がるようにして出てくると、エルミラに突進するように突っ込む、もちろんエルミラは超速反応を用い余裕でその攻撃を横に移動して回避する。がら空きになったフォルテの胴体を横なぎに切ろうと剣をふるう、だがその一撃をまたフォルテが掴む。
「そう来ると思ってましたよ。【エルダーズマジック・ライトニング・バースト】」
エルミラは巨剣に雷を流し、フォルテを感電させる。
「そのまま感電死してもらいます。」
フォルテに流れる電流がさらに大きくなる。
「解析完了、反撃を開始。」
フォルテはそのまま黄金の巨剣をつかみ続ける、だが先ほどとは違うのは最初にひびの入った場所をつかんでいることだ。
「武器破壊実行。」
その瞬間黄金の巨剣は半ばからへし折れた。エルミラはその瞬間に後ろに下がる。
「武器が壊されちゃいましたね・・・、これはどうしましょうか。」
考える時間もほとんど与えずにフォルテはエルミラに接近、片手直剣を両手で持ち大上段から振り下ろした。エルミラは回転するようにその攻撃を回避する。一瞬でまたフォルテの背後に回ると、背中に手を当てようとする。だがそれを待っていたかのように、フォルテはエルミラの手を掴んだ。
「引っ掛かりましたね。【エルダーズマジック・ライトニング・トークン】」
空からエルミラの声がする。フォルテがつかんだのはエルミラの分身体だった。その分身体は雷になりフォルテの体を走り抜ける。
「なるほど、先ほどから何度も電気を体に流していますが、あなたには効果がなさそうですね。」
エルミラは淡々と事実を述べているが内心では衝撃を受けている。魔法でフォルテを倒せないのであれば、剣で切り伏せるしかないわけだが、その剣もフォルテに破壊されてしまった。
いつの間にかそばまで来ていたノイルがエルミラに語り掛ける。
「僕が変わろうか?」
エルミラは笑顔で断る。
「私が限界を超えるチャンスですから、見ていてください。」
「そうか、わかったよ。」
ノイルは下がる。
エルミラは光速で先ほど折れてしまった、巨剣の刃部分を拾う。
「オスカーさんからもらった本にはこんな記述がありました。古の魔法戦士は自身の武器を自作するのが当たり前だったと。ピンチの時は実践あるのみです。」
エルミラは深く集中している。
「この魔法に属性名はありません。【エルダーズマジック・ソーディング】」
エルミラは刃を元ついていた位置までもっていき、両手をうまく使い地面と平行に持つ。エルミラの手の中で徐々に剣の形が変化していく。もともと、人が簡単に乗れるような幅があった巨剣の幅が徐々に狭くなっていく。細く、鋭く、そして長く、いつの間にか巨剣はエルミラの身長を超えるほどの長さになり、もともと主張の強かった十字架のような鍔部分なくなっていく。非常にシンプルだが長く、刃は両方についているが、鍔がなくなりシルエットは棒のようになってしまった。ただし刃は柄の二倍ほどの太さがある。剣の刃部分は細長い穴が先のほうまで空いている。
「こんな感じですかね。私が改造したので名前を付けます。そうですね・・・【ライメイ】でいきましょう。」
エルミラはライメイをふるう。そうすると、刃にあいた穴がゴオォォォォという音を鳴らす。
「さてそれではラウンド2と行きましょうか。」
フォルテはエルミラが剣を改造するのをずっと待っていた。まるでまだ余裕があるかのように。




