実験が進んでいくってよ
「それにしてもその銃はすごいね。」
「そうね。この銃はそれぞれの部位ごとに魔法具になっているの。買おうとしたら結構高いんだから。」
アリアが腰から銃を取り出す。
「ん?その銃さっきまで発砲していたはずなのに、火薬の匂いがしないね?」
ノイルが鼻をスンスンさせながら疑問を言う。
「よく気付いたわね。これは正確にはエアガンなのよ。銃身はインパクトの魔法がついた魔法具、これによって弾丸を発射しているの。あんまり弾丸を持っていると、体が重くなってしまうからさっきみたいに一度射出した弾丸をマガジンに戻す仕組みを採用しているの。凄いでしょ?」
「なるほど、理にかなってるね。」
アリアとノイルが話していると、エルミラが会話に割り込む。
「向こうの作戦が少し実読めてきた気がしますよ。テストとか言って何度も私たちを戦わせて、疲労させる作戦ですよ。」
「テストはテストで本当にやっていると思うけど。その作戦に関してはその通りかもね。」
そうして通路を歩いていると今度は行き止まりにたどり着き、そこには大きな扉がある。
「ここに入れってことですかね?」
「たぶんそうだね。」
「私もそう思うわ。」
エルミラたちは疑いつつも部屋に入る。その部屋の様子はただ真っ白く、そして真ん中にどこの会食で使用されるのか謎なくらい大きな机があった。壁に映像が投影される。
『ご無沙汰しております。こちらではお食事をしていただき休憩をとっていただきます。非検体が万全でなければ実験をしても意味はありませんから。』
「ZERO、いったいこの実験はいつまで続くの?それにハクは無事なの?」
『あの男ですか?あの男は非検体としてはあまりに弱すぎるので排除しました。今頃地下に閉じ込めた廃棄クローンとでも遊んでいるのではないでしょうか。あの出口のない迷宮で。』
「ハクが弱い・・・?何を言っているんですか?」
「たぶんハクは普段魔力を必要以上に消してるからね。僕ですら一緒にいて彼の底を知ったことはないよ。そしてそのせいで、今回は弱者として処理されたんじゃないか?」
「なるほど、そうだったんですね。私気付いていませんでした。」
「仕方ないよ、エルミラちゃんは感覚で戦うタイプだもんね。」
警戒してその場から動かないアリアと違って、会話をしながらエルミラとノイルは席についている。
「ちょっとっ!?相変わらず無警戒過ぎない?」
「とりあえず席につきましたが、もてなしてもらえるんですよね?」
『お食事をご用意いたします。』
ZEROがそういうと机の中心が開き、そこから食事が出てくる。いろいろな食事がそこに用意されていた。
「う~ん、毒は入っていないみたいだね。食べて大丈夫そうだよ。」
「本当ですか?それなら私も食べます。」
ノイルとエルミラはさっそく食事を始める。ノイルは肉ばかり食べているようだ。
「本当にあなたたちは。」
アリアはエルミラたちの様子に呆れたようだが、それでも一応席に着く。ただし食事に関しては自身の懐に忍ばせていた、クラッカーのようなものを食べているようだ。
「ハクのことが心配じゃないの少しは?」
「ハクが!?ハクのことを心配する時間ほど無駄なことはありませんよ。」
「僕はそこまでは言わないけど、先ほどの話で出た廃棄クローンとかいうのが僕らの戦っているクローンよりも弱いんだとしたら、心配する必要はないだろうね。」
三人は黙々と食事を続ける。
「アリアはそういう信頼できる人はいないのかい?」
「まさしくこの任務の前任者が私にとってそういう人だったわね。そもそも私が組織を頼ったときに一番最初に取り計らってくれたのは彼だったの。でもね、彼不愛想だから、いつの間にか私の代わりにこの任務についていて勝手に死んでいったのよ。本当に馬鹿なんだから。」
どこか哀愁と愛情のはざまみたいな、とても難しい表情をしている。
「好きだったんですか?」
エルミラが容赦なくぶっこむ。
「・・・そうかもね。本当に・・・今となっては何の意味もないけど。」
「そう・・・ですね。でもきっと、あなたの思いは最後まで伝わっていましたよ。じゃなきゃ勝手に一人で危険な任務なんて行かないはずですから。」
エルミラはとてもいい笑顔でアリアを見る。
「そうね・・・。そうだといいのだけど。」
アリアは少しうつむくように机の上をじっと眺めている。
『お食事が終わった用ですね。それではケースモデル、マジッククローンを開始します。』
部屋の扉があき、紫色のローブを着た男がそこから出てくる。髪の色は黒色でフードを羽織っているのであまり表情は読み取れない。特に武装などはしていない。
「ここはわたひが戦ひまふよ。敵は一人みたいでふひね。」
エルミラはチキンの骨を咥えながら話しているので、若干口調がおかしい。
「大丈夫かい?」
ノイルは敵の実力を分析して若干エルミラを心配している。
「大丈夫でふ。私はこう見えて、勇者でふから。誰かのささやかな希望になることがわたひのひごとでふから。」
チキンを欲張って咥えたのか依然口をもごもごしているようだ。だがエルミラの中では決まっているらしく、後ろに控える面々にグッドサインを出している。
「【スピアド、パワアド、マジアド】」
ローブの男は自身に強化魔法をかける。
「正直もううんざりしてるんですよね。当たり前ですけど私たちからしたらこんな実験を繰り返しても何の意味もないですから。私としても、こんなのと何度も戦うのはうんざりですよ。本気で戦います。」
エルミラの髪の毛が静電気の影響か少しだけ浮いている。
「【エルダーズマジック・ライトニング・カムイ】」
エルミラはいきなり全力を出す。エルミラの神と瞳は黄金に代わり、そして目や口元から小さな雷が発生している。
「な・・・何なのあの姿はまるで雷そのもののような・・・!?魔力量も異常・・・としか言えないわ。」
「あれは僕でも驚くなぁ~、エルミラは僕の想像よりも随分強かったみたいだね。さすが勇者、やっぱり戦ってみたいな。」
エルミラはそれこそ雷のような速度で魔法使いに接近するとその頭を掴んだ。そして魔法使いはしばらくもがいていたが、体に流れる電気に耐えられず、その場に倒れこむ。
「見てるんですよね、ZEROさん、それに代表さん。私たちにこの程度をあてがっていても無意味です。あなたが持っている定規じゃぁ私たちを図ることはできないんですよ。いい加減姿を現しなさい。」
エルミラはその神々しい姿をそのままに部屋の中に叫ぶ。ただしその声に答えは返って来ることはなかった。
ハクとシンはあれからしばらくこの空間を探索し、幾度か戦闘を繰り返していた。それらはおそらくZEROの言っていた廃棄クローンで、ハクを手こずらせるようなものは一人もいなかった。
「それにしてもハク君は本当に強いね。」
シンは歩きながらハクに素直な感想を言う。
「敵が弱すぎるだけじゃないか・・・。」
「それもそうだな・・・。」
そしてそのまま10数歩ほど歩いただろうか。ハクはシンのほうを向き、はっきりと告げる。
「ていうかさっきから気になってはいたんだけど。ここ出口なくないか!?」
「そうだな、私は実は先ほどから印をつけながら歩いていたんだが、ちょうど一周したところだ。」
「・・・。やっぱりか・・・もっと早く魔法を使えばよかったよ。」
「む?現状を打破できる魔法があるのかい?」
「魔法は結構最近使えるようになったんだけど、結構便利だよな。【ディオス・ヴァキオ】」
魔法がかけられたことを認識すると、シンは自分の体をすぐに確認する。
「特に何かが変わった様子はないが?」
「とりあえず、あの壁の方へ歩いてみようか。」
シンとハクは壁に向かって歩いていく。するとその壁をすり抜け、今まで行ったことのない空間に出る。壁の向こうが土の中なんてことにはならなかったようだ。
「これはすごい、こんな魔法が使えればさぞ便利なんだろう。特に私のような仕事には最適じゃないか。」
「その気持ちはわかるが、たぶん無理だと思う。これは真属性魔法の派生系だからな。」
「あの失われた属性のか?そいつは確かに難しいな。だがまだ君が我々の仲間になるという手があるぞ。」
「今はちょっと忙しいから、ことが終わって金に困ったらよろしくお願いするよ。」
「ほう・・・期待して待っておくよ。」
ハクとシンはその後も容赦なく、ずかずか壁を通過して進んでいく。何個か通過したころ、モニターが100個ほど壁面に張り付いたとても広い部屋にたどり着く。
そこにはアリアのクローンが10人ほどいて何かをしきりに操作し、管理しているようだった。そしてハクたちが侵入しいることに気づき、全員一斉にハクたちのほうへ振り向く。手には銃が握られているようだ。
だがハクはこれに対応、全員が発砲をする前に接近すると一瞬で全員無力化した。あまりの速度にハクがまるで分身したようだった。クローンとの連戦がハクを確実に強くさせているようだ。
「これはまさか、監視室なのではないか?」
「・・・のようだな。おい、これを見ろっ!」
ハクがとっさにモニターのうち一つを指さす。
「これは・・・アリアじゃないか、君の仲間は戦っているようだな。」
そこにはアリアやエルミラ、それにノイルが映っていた。現在3人は交戦しているようで、たった一人のクローンと戦闘している。エルミラが戦っているようだった。エルミラはかなり苦戦しているようで体中傷まみれだった。
「今まであったクローンよりも結構強そうだな。」
「君の仲間も随分と強いんだな。」
「そりゃまぁ。最強の魔物と、勇者だからな。」
先ほどシンには説明をしてあるので、素直に納得していたが、やはり実際に見ると衝撃を受けるようで、生唾を飲み込むようなそぶりが見える。
ハクはPCを見つけると、それにトレースで接続する。そこには地図や、この施設の情報、現在進行しているテストケースなどの情報が記されていた。
「おいおい、これは・・・。シン、いい報告と、悪い報告があるがどっちが先に聞きたい?」
ハクの深刻な顔に、シンも真剣な表情になる。
「まずはいい報告から聞かせてくれないか?」
「そうだな、ある程度この施設の仕組みが分かったことだ。」
「そいつはありがたい、さっそくアリアたちと合流しよう。それで悪い報告は?」
「さっきの監視カメラの映像を参考にするとどうやらエルミラたちは代表のテストに付き合わされていてな。それが今最終フェーズに寸前だと思うんだが、最終フェーズに到達すると結構まずいかもしれないんだ。まぁ説明するから聞いてくれ・・・。」
シンは黙ってハクの説明を聞く、そして次第に大きく目を見開く。
「さっさと合流したほうがよさそうだな。」
シンを見捨てればハクは高速移動できたかもしれないが、エルミラと違ってシンはハクの移動に耐えられそうもなかった。
ハクとシンは急ぎ足で移動を開始した。




