孤独は嫌いだってよ
それにしてもあの二人はいくら何でも決着が早すぎるんじゃない。特に隣からの圧が凄すぎて少しだけ怖かったわ。ノイル君の出身はあとで調べる必要があるかもね。
「さてッ、私もさっさと決着をつけさせておうかしら。」
兎獣人は腰のサブマシンガンを取り出し、アリアの方に向ける。そして一瞬の容赦もなく、銃を乱射する。対してアリアも同じように銃を取り出す。そしてそれを壁に向けて発射する。先ほどとの着地時と同じように、発射した弾丸は壁に刺さりその方向へアリアも引っ張れるように飛んでいく。その動きによって弾丸を次々回避していく。
「正直私たちエージェントは戦闘には不向きなのに、なんで正面戦闘してるんだかッ!!!」
話し終わると同時にアリアは何本か針のようなものを兎獣人に投擲する。兎獣人の耳がぴくぴくと動くと、目に見えるかどうかぎりぎりのその針を綺麗に避けて見せる。
「はははっ、兎獣人は耳が随分いいみたいだね。」
ノイルはすっかり観戦モードで、エルミラと一緒に並んで、壁によっかかるように座っている。
アリアは今度は普通のハンドガンを取り出した。だがその瞬間まるでその動きを読んだように、兎獣人がっ脱兎のごとく飛び掛かってくる。取り出したハンドガンをすさまじい蹴り足で、はじき落した。
「ッ!?銃がッ!」
そしてその間にまた兎獣人は蹴りを放ってくる。アリアもそれを何とか転がるよにしてかわす。転がりながらまた、アンカーガンを放ち、兎獣人から距離を取る。だがそれをも読んでいたかのように兎獣人はそれに並走する。
「動きが・・・読まれているの?」
アリアが戦う中、ノイルは冷静に兎獣人のやっていることを分析する。
「耳が良すぎるんだ兎獣人は、アリアが音以下の速度でしか動けない限りは読まれ続けるだろうね。」
「じゃぁ音以上の速度で動けばいいじゃないですか。」
「エルミラちゃん、それは普通の人には酷だよ。」
エルミラの無神経な発言にノイルがあきれたように返す。
そして今度はアリアが魅せる。
「読めても躱せないくらいの物量ならどう?」
アリアは転がりながら、腰に着いたハンドガンの引き金を、取り出さずに引く。そのトリガーに反応したのは先ほど兎獣人が蹴り落した銃だ。それがいつの間にか宙に浮き、兎獣人の方を向いていた。だがこれも兎獣人は首を曲げるようにしてかわす。
「銃を宙に浮かしてるのは、無属性魔法の【マリオネット】だと思うんだけど、引き金を引いた技術はよくわからないな。」
「これは魔法化学を応用した銃よ、そんなに難しい仕組みじゃないんだけど、ただ単に二つの銃はリンクしていて、トリガーを引いたら、リンクした方の銃を発砲するようにできてるの。ちなみにどっちも魔法具でマリオネットがかかってるわ。」
戦いながらも少し大き目な声でアリアは解説してくれる。
「人間は本当、細かいことを思いつくよね。トリッキーな戦術に使えるわけか・・・でもあれ出オチじゃない?」
「私はわかりませんが、見てればわかるんじゃないですか?あれが使える戦術なのか、それともただの宴会の出し物なのか。」
アリアが手を広げると、そこに吸い寄せられるように銃が返ってくる。おそらくはマリオネットの効果だろう。そして両方とも兎獣人に向ける。兎獣人も同じようにサブマシンガンを向けお互いに乱射する。どちらも驚くほど直撃しない。だが、それでもアリアには無数のかすり傷が付き始める。
「ありゃりゃ押されてるよ。助けてあげる?」
「もう少し見手てもいいんじゃないですか。」
そしてお互いのカートリッジが空になり、リロードをしようとする。兎獣人はマガジンを捨てるようにして、リロードしているが、なぜかアリアは空のカートリッジをパスするように、兎獣人へ投げる。
「さてさて、ここで問題です。私の銃には確かにマリオネットがかかっていましたがそれはどこに掛かっていたでしょうか?」
兎獣人が投げられたマガジンを蹴ろうとした瞬間それは起きた。兎獣人が先ほどかわしたはずの弾丸がマガジンに尋常じゃない勢いで集合する。そしてそれらを何とかかわそうとしたが、それはあまりの弾丸の量に失敗に終わる。兎獣人はマガジンに集まる弾丸によってその体を貫かれ、血しぶきを上げる。
「エージェントはこういう道具をたくさん持ってるものよ。気を付けてね。」
アリアはまるで何事もなかったかのように振り返る。
「時間を取らせてしまって悪かったわ。ようやく終わったわ。」
「そうみたいだね、ほかにもそういう道具結構持ってるの?」
「秘密よ。」
アリアはサングラスの下でウインクをする。
「さいですかい・・・。」
「それじゃ進みましょうか。」
エルミラ一同は無事、歩を進める。
「ここは・・・・?」
「おっ?目を覚ましたか?」
ハクが先ほど治療したおそらくはアリアの同僚と思われる人物が目を覚ましたようだ。
ハクが男に声をかけると、一瞬でバックステップを踏み男はハクと距離をとる。
「お前・・・何者だ?」
ハクはゆっくりと両手を挙げ降参のポーズをとる。
「少なくとも敵じゃないよ、とりあえずこちらからも一つだけ聞きたいことがあって、アリアってわかるか?」
「アリアを知っているのかっ!?」
「知っているも何も今回協力して。お前がおそらくもともと依頼されていた任務を完遂しようとしているんだ。」
男はやや怪訝な顔をする。
「・・・、話を聞こう。なるべく詳しく現状を説明してくれ。」
どうも、かなりの判断力のある仕事ができるタイプの男のようだ。ハクはここまでの事情を事細かく説明する。それこそ自分たちの目的から何からまで説明した。
「なるほど・・・、君は随分正直に説明してくれたみたいだが、私を疑ったりしないのか?」
「・・・?しないな、無駄だし。敵だったらそれはそれでねじ伏せればいいだけだろ。」
「はっはっは!面白い奴だな君は。私の名前はシンだ、姓はない。」
「そうか、いい意味であることを祈るよ。俺の名前はハクだ。」
二人は固く握手をする。こんなところで出会ったが、それなりにシンは信用できそうだ。ハクはシンからも事情をある程度聞いた。やはりハクの予想通りで、アリアと同じ組織の者だそうだ。ここまで侵入できたのはよかったが、道中で魔法使いに遭遇して、魔法をかけられたそうだ。
「それにしても魔法使いか・・・、俺は純粋な魔法使いは戦ったことがないからな。闇属性の魔法使いだよな・・・たぶん。」
「おそらくそうだろうな。私が精神支配に合うなんて、相当な実力者だと思うぞ。」
「確かにあんなにも強いシンを精神支配できるなんて、絶対強いよな・・・面倒くさい。」
ハクは口ではそう言っていても、少し笑っていることを見逃さなかった。
現在ハクとシンは通路をそのまま進んでいる。今がどこなのかもわからない中、とりあえずエルミラ達のところへと合流しようとしている。
「それにしてもシンの技術は相当なものだよな。それは組織で習ったのか?」
「いいや、これは別口だ。別に隠しているわけではないから説明するが、もともと俺らの所属するインベスティガは寄せ集め集団でな、今の会長が集めてくれたんだが・・・。それぞれにできることを必死にやってたらいつの間にか世界最大の組織になっていてな。これもひとえに会長のおかげだと思うが。」
「よかったよ、シンみたいのがゴロゴロいる組織だったらめちゃくちゃ面倒くさいだろうからな。」
「そう言ってくれると助かるよ。君も相当に強いみたいだからうちに来るか?口くらい聞いてやるぞ。」
「遠慮しておくよ。さっき説明した通り、俺も結構忙しいんでね。」
「そうだ、これをやる。」
ハクはシンから小さな紙切れを受け取る。そこには携帯電話のアドレスが書いてあった。
「困ったことがあったらここに連絡してくれ、必ず力になろう。特に情報面ではかなり活躍できると思うぞ。」
「そいつはありがたい。結構頼っちゃうかもしれないが、助けてくれよ。」
どうもシンはいわゆるお人好しでいい奴のようだ。
そして話しているうちにまた目の前から人らしき影が歩いてくる。人数は一人だ。
「あれは敵かな?」
「だろうな、この施設に味方なんていた覚えがない。ちなみに私があった、魔法使いではないぞ。」
「そうか、普通にめんどくさそうだけど戦おうかな。」
目の前まで来るとその男が獣人であることはすぐに理解できた。そして獅子の獣人であることは間違いなさそうだ。体にぴったりとはりつくタイプの白いスーツを着ている。先ほどノイルが戦ったクローンだ。
「結構強そうだな。」
「ふむ、私がやろうか?」
「いや、シンに怪我させたらアリアが怒りそうだから俺がやるよ。」
ハクが一歩前に出る。
『ダストの排除を開始します。』
通路内にどこからかアナウンスが響き渡る。
「あれ?俺今ゴミって言われなかった?さすがに怒るよ俺。」
「俺も今のは少しイラっとしたぞ。」
トレットがしゃべる。そうするとシンがギョッとしたようにハクのほうを見た。
「そのガントレットしゃべるのか!?」
「そうか・・・説明忘れてた。トレットは普通に生き物なんだけど後で説明するよ。」
ハクは頭を抱える。
「それじゃぁ行ってくるよ。」
ハクはシンの横から一瞬で消える。まるで急に世界から抜け落ちたようだった。そして次の瞬間には獅子獣人の懐まで到達、勢いをそのままに拳を腹に入れる。その瞬間獅子の獣人はお腹を抑え、うずくまろうとする。そしてハクはそれを許さず、獅子の獣人の顎を蹴り上げ、獣人の顔を持ち上げる。今度はその顔面にまるで野球選手が投球するような形で殴りつける。その一撃は綺麗に獣人の顎に入り、膝を落とし、うつ伏せに倒れた。獣人は立ち上がることはない。ここまででおよそ3秒立たないくらいの時間がたっただろうか。
「なんだ今のは・・・何が起きたんだ?」
あまりの一瞬の出来事で、シンですら目で追うことができなかった。
「よしっ先に進もうか。」
「ん?とどめは刺さなくていいのか?」
シンは腰のナイフに手をかける。
「なんで?別に意味ないし、いいんじゃない。ちゃんと代表を止めれたら問題ないでしょ。自意識はほとんどないみたいだし。」
「・・・。甘いな、いつしか身を滅ぼすぞ。」
シンは真剣な眼差しで、ハクに忠告をする。だがその瞳にはしっかりと優しが映っていることもハクは見逃さなかった。
「だからさっきも言っただろ?それ含めて全部ねじ伏せるから大丈夫だって。それになるべく命を奪いたくないんだ。何度も言うけど命を奪うことに意味なんてないだろ。それがどうしても必要にならない状況を作るために俺は戦ってる。」
・・・、なるべくならこれ以上俺の下にある屍を積み上げたくないしな・・・。必要最低限で、何とか済まないもんかね、今後も。
別にハクは甘いわけではない。必要だと思えば容赦なく命を奪うだろう。ただ、しなくてもいいならやりたくはない。ハクは人の命を奪うことを一時期日常レベルまで仕込まれていたが、それも今は昔のことだ。誰かの命を奪うのではなく、できるのであれば救いたい。一人でも多くの命を救うのが今のハクのついでの暇つぶしだ。誰かの命を奪ってきたハクだからこそ、命の本当の意味を知っているのかもしれない。




