実験が進行するってよ
エルミラは地面に落ちると、綺麗に一回転して猫のように着地をした。
「結構高い・・・・。」
エルミラが空を見上げるとそこには、着地の可能性を感じさせない落ち方をしているアリアが降ってきていた。だがこの部屋の床が開く、落下トラップの構造上、穴自体は先ほどの部屋の幅と同じ大きさなのでそこまで大きくは感じない。
アリアは自分の腰から銃を取り出し、それを横に向けてはなった。そうすると銃から小さなアンカーのようなものが飛び出し、それが壁に刺さる。そしてそこからぶら下がるようになり、ゆっくりとアリアは置いてくる。
「ほえー、便利な道具ですね。」
「そうね。こういう道具を結構持っていないと、エージェントは成り立たないわ。」
エルミラは内心かっこいいと思ってしまった。
なんとなく他の装備を見てみたいとエルミラが考え始めたころノイルも降ってくる。ただその落ちて来方は残念ながら落ちるというより降りるに近い。ノイルは腕を組んだまま、直立姿勢で降りてくる。そしてノイルはゆっくりと着地した。
「うん、それじゃ進もうか。」
ノイルはあっけらかんとしている。
「落ちてくる選手権最下位だったに仕切らないでください。私が一位です。」
「そりゃ失礼。」
ノイルは少し困ったような顔をした。
どうもここからはエルミラが先導するようだ。エルミラは遠足感覚で手足を大きく振るって歩いている。なんというか、緊張の抜ける感じだ。
「ここからは私が万々敵を倒していきますよ。」
ノイルはエルミラが先行する中で、しっかりと周りを探りながら散策している。それはもちろんアリアも同じだが、エルミラだけが油断しているように見える。
「この先敵かはわかりませんが、3人いるみたいですね。」
「・・・ッ!?」
ノイルもアリアもエルミラの索敵範囲に驚いた様子だ。
「エルミラは随分索敵範囲が広いんだね?それに正確だ。」
「前回の戦闘時に思いついたんですが、静電気を薄く広く伸ばすことによってそれに触れる者を索敵しているんですよ。見えない雷ってとっても便利ですよね。もちろん魔力を使用しているので、永続的に使用することは不可能ですけどね。」
「ふ~ん、雷を使用した超反応の応用か・・・、そそるね。」
ノイルが不気味な笑顔をする。
「仲間とは戦いませんよ!?」
「模擬戦くらいなら時々やったっていいだろ?きっと君の今後にも役に立つよ。」
「・・・それくらいなら。たまにですよ?」
「約束だよ。」
「物騒な相談はそこまでにするよの。向こうからこちらに出向いてきたみたいだからね。」
アリアがそういうと、確かに向こうから歩いてくる三人組いる。
「あれはまた、久しぶりに見るね。」
ノイルがそういうのも無理はない。人間は人間でもただの人間ではないのだから。いわゆる亜人という種族というもので、獣人という種族だろう。真ん中の獣人はライオンのような雄々しい髭や耳をはやしている、文字通り獅子の獣人だろう。エルミラたちから見て右側のは兎の耳をはやした獣人。左側は猫の獣人だろうか。
獅子の獣人は黄色に近い茶色の毛髪をしていて、顔はしっかりと人間らしい。しいて言うのであれば、頭に獅子のような耳が生えているくらいだろうか。また髭や毛や顔が非常に濃い、瞳は茶色の猫目をしている。服装は白のローブの体にピッタリとつくようなスーツを着ている。服装に関してはほかの獣人も似たようなものだ、しっぽが生えているのも含めて。そしてこの獣人は特に武装している様子はない。
兎の獣人はピンク色の耳をはやした、女性タイプでとてもかわいらしい感じだ。髪色もピンク色で少しだけウェーブのかかったロングヘアをしている。とても女性らしい体系をしていて、いわゆるバンキュッバンだ。腰には銃を二丁ぶら下げていて、どちらもピンク色のサブマシンガンだ。
猫の獣人は黒色のショートヘアをしていて、同じく瞳は猫目をしている。こちらは双剣を腰にぶら下げている。そして同じく頭からは猫耳をはやしている。全体的にすらっとしていて、どちらかというと冷たい印象を受ける綺麗な顔立ちだ。
「さて、真ん中は僕が譲ってもらおうかな。同じ獅子対決としてね。」
「私は猫耳娘を貰います。」
「じゃぁ私は兎ね。」
三人がそれぞれに戦う相手を決めると、タイミングよくアナウンスが流れる。
『実験を開始します。ケースモデル、バトルクローン。それではご検討を。』
「ZERO・・・、どうも私たちは監視されているみたいね。まさか獣人のクローンまで完成してるなんて、代表の計画は案外完遂寸前まで来ているのかも。」
「僕は誰かの手のひらってのは嫌いなんだけどな。でもまぁ今はしょうがないか。」
「私はなんでもいいですけどね。どうせ全部私の目的のついでですから。」
3人が言葉を交わした直後通路が分断される。そして分断の仕方は先ほどそれぞれが戦いたいと宣言した構成だった。ここら辺も実験の意図を感じる。
「あららみんな見えなくなっちゃったな。」
エルミラが一人さみしそうにつぶやく。正面には猫耳獣人がいるだけだ。
「あの~・・・あなたしゃべれたりしますか?」
猫耳獣人からは返事がない。よく観察すると、猫耳獣人の瞳からは感情を感じ取ることができない。
「でもまぁ戦うしかないのであれば。私も手加減はできませんよ・・・すみませんが戦います。」
猫耳獣人はゆっくりと短めの双剣を抜刀する。どちらかというとナイフに近い形状をしている。敵はあえて動こうとせずに、待っているようだ。カウンタータイプの戦士なのだろうか。
「動かないと意味ないですからね。行きますよ。」
エルミラは尋常じゃない勢いで猫耳獣人に突進する。ただしエルダーズマジックの使用はない。ただしそれでも伊達に勇者をしていないようで尋常じゃなく早い。だがそれに対しして非常に正確なタイミングで猫耳獣人がカウンターを取ってくる。その正確性はまるで精密機械のようだった。
「ドワっ!?あぶねぇぃ。私結構強くなっているつもりだったんですけど、自身なくしますね~。」
だがエルミラも黄金の巨剣を容赦なく振るう。そしてそのあまりの剛腕に、巨剣の風圧だけで、若干猫耳獣人はバランスを崩す。エルミラはその隙をもちろん見逃さなかった。頭上から大上段の振り下ろしをする。だがこれを猫耳獣人は横回転しながら、くるりとかわす。ただし地面にめり込んだエルミラの巨剣からの振動で、またもやバランスを崩す。そこにエルミラは蹴りを入れる。猫耳獣人はそれすらくるりとかわす。
「まるで猫みた動きですね。つかみどころがなくて非常に戦いにくいです。」
猫のようにきれいに着地すると、今度は猫耳獣人から飛び掛かってくる。その速度は確かに早いが今のエルミラに対応できないほどではない。エルミラは正確にその動きをとらえて迎え撃つ、そして眼前に壮絶な勢いで巨剣を横ぶりにするが、突然目の前から猫耳獣人が消える。
「ありゃ?」
猫耳獣人は綺麗にエルミラの攻撃を避けて、振り切った巨剣の上に乗っていた。そしてそのまま猫耳獣人はエルミラの方へ走って近づき、双剣を振るう。頭目掛けたその攻撃をこちらも綺麗に首の動きだけでかわす。エルミラはすぐさま、巨剣を回転させて猫耳獣人を振り落とす。そしてバックステップで距離を取った。
「う~ん、今までは力でぶつかればそれなりに何とかなったんですが、これはこれで新鮮ですね。ていうか普通に強いです。」
そしてエルミラはまた急接近する。その巨剣を振るう動きは先ほどよりも加速しているのは明らかだった。そして尋常じゃない勢いで剣を振るいまくる。エルミラがあまりの勢いで巨剣を振るうので、まるで発泡スチロールに思えてくる。何度も攻防をかわすうちに徐々に地の力の差が出てくる。エルミラのその圧倒的速度に猫耳獣人はついていけなくなっていった。エルミラも決して技術レベルが低いわけではない、それにこの速さが加わると、相当な戦士でなくては対応できないだろう。そしてこの猫耳獣人はこの速度に対応することはできない。
決着が付くのがこのすぐ後なのはだれの目から見ても明らかだった。
「・・・・。う~ん君はもしかしてここの施設でつかまって、クローンにされちゃったのかな?本体はもう死んでいるのかな・・。」
少しだけ悲しそうに、まるで同胞の死を悲しむようにノイルは獅子獣人に声をかける。だが同胞の死を悲しんでいるかと思いきや、それは違ったようだ。隔離された壁がミシミシと音を立てる。
「君は所詮屈したんだよ。わかるかい?獅子は常に地上最強でなくてはならない。敗北するならば跡形もなく消えるべきだった。それを敵につかまってこんなことになるなんて・・・。僕が責任を取って君を抹消してあげるよ。同じ獅子のよしみでね・・・・。」
そして圧倒的な威圧感がノイルから放たれる。それはまるでこの世の終わりを告げるようだった。ハクとエルミラはしっかりと認識できてはいないが、これが地上最強の魔物の一角を担う者の力であり、それはつまり地上最強の生命体の力だということだ。
そしてその圧倒的威圧感を放ちながらゆっくりと一歩一歩獅子の獣人に近づく。あまりの威圧感に感情を失ったはずの獅子の獣人ですらその場から動くことができない。
手の届く距離まで近づくと、獅子の獣人の頭にゆっくりと手を当てる。
「安らかに眠れ。【ハイパーインパクト】」
無属性魔法に攻撃魔法がないわけではない。ほとんどが強化魔法というだけだ。そしてこれはただ目の前に衝撃破を出すという魔法だ。
そしてたったそれだけで、獅子の獣人は跡形もなく消し飛んだ。
それでも衝撃破は止まらず、ノイルを隔離していた壁を壊す。ノイルは真ん中にいたので、ちょうど左右の壁が壊れ、ノイルはその場で少しだけ祈るようなそぶりをした後、周りを見る。
「やぁ、みんな。少しの間たけど元気してた?」
「私は元気ですよ普通に。」
エルミラももう敵を倒した様子だ。ただしアリアは少しだけ手こずっているようだった。
「手伝おうか?」
「私が一人で戦わないと意味ないわ。悪いけど待ってて、ていうかあなた達強すぎ。」
アリアの兎獣人と戦う様子はどうも観客が付きそうだ。




