それぞれ調べてみるってよ
「というわけで、俺はじいさんの孫を探すことになったから。」
ハクはその日ホテルまで戻り、みんな集まってから今日の結果を話す。
「それにしても急だね、まぁハクらしいっちゃらしいけど。」
エルミラが困ったようにいう。
「それでお願いがあるんだが、イズラにはどうも命の書があるみたいなんだよね。そっち方面の調査を頼みたいんだ。一人と二匹に。」
エルミラとトレット、それにノイルは目を合わせる。
「わかったぞ。そっちの調査は任せてくれ、その爺さんの手助けになりたいんだろ?」
代表してトレットが答えた。
「簡単に言っちゃえばそうだな。いろんな私情が混ざってたりもするが。それと調査のヒントというか、糸口を教えとくが、この国は発展しまくってるように見えて、そこまで発展していないのかもしれない。肝心なところはローカルな気がするんだ。だから何か共通点を探すと案外紐解けていくかもな。」
「なるほど、今日一日で僕も確かに気になったことがある。そっち方面に関して調査していけば少しずつ、謎が解けていけるかもしれないってことだよね。」
ノイルが何か感づいたようだ。
「それじゃぁ大丈夫そうだからそっちは任せるよ、今日はもう休んで明日から本格的な調査を始めようかな。」
一同はこの日の会議を終え、眠りについた。
次の日早速ハクは外に出て爺さんの孫探しを開始しする。といっても爺さんが入院していた病院に向かっている。今回車はトレットに預けてある、調査には車の移動速度は邪魔になることがあるというのが一時期軍の訓練を受けていた経験のあるハクの結論だ。
ホテルと爺さんの入院していた病院はそこまで離れてはいなかったのですぐについた。といっても島自体が小さいので、そもそもそこまで歩く施設があるかと聞かれると微妙なところだが。
早速病院に入ると、受付に行く。そして受付嬢が投影される。
「この病院に最近まで入院していたと思うんですが、イライジャ・ホートルさんという方が入院してだろ、その人の孫が訪ねてこなかったか?」
もちろんハクは爺さんの名前は事前に聞いていた。
「申し訳ありません。当院では個人情報の漏洩は防がれておりますのでお答えすることができません。」
「なるほど、ではトイレを借りてもいいかな?」
「かまいませんよ、どうぞご使用ください。」
ハクは受付に通されるとトイレまで行く。そしてもちろんトイレを利用するつもりはあるが使用するつもりは毛頭ない。
「こういう時は少し強引に捜査しちゃうのが俺のいつもの流儀だったんだよね。特に異世界なんて魔法があるんだからやり放題じゃん。【ディオス・ヴァキオ】」
ハクは今回存在のみではなく姿も、この世界から消している。それではハクそのものを消すことになっているのではないかと考えられるが、実際にはそうではない。ただ単に世界の方がハクを認識できなくなっているだけだ。ハクが世界を認識している限り、世界はハクを消すこともできない。
ハクはトイレの壁をすり抜け続け歩く。もちろん入院している患者もいるようで、その人たちの前を通ってもハクに気付くものはいない。仮に魔力を察知することができるものが、ハクを探そうとしてもそれは不可能であろう。誤魔化しているのは世界なので、ハクを見つけるには世界にハクを認識させる必要がある。
「監視カメラのデータはどこなのかな~~。」
おそらくこの病院、というかこの国の科学力をもってすれば監視カメラくらいは完備されているだろう。そしてそれを発見することで、データから孫娘つながるヒントを見つける作戦だ。
おっと~、あの部屋はなぜか部屋の扉にキーがついているな。あれは怪しいぞ~。
ハクはふざけながら、調査を進める。
そして扉を何事もなく通り抜ける。そしてその部屋は残念ながら、監視カメラのデータを管理する部屋ではなさそうだった。その部屋には一つだけPCが置いて有る、特に謎なのはPCは机に置かれているわけではない、なんと床に置いてある。
「う~ん、何だこれわ。さすがの俺でも理解できないぞ。整理整頓が下手すぎるのか?それとも家具とかあんまり置かないタイプなのか。」
ハクはくだらない冗談を交えながら早速PCに近づいて少しPCをいじろうとする。だが今の状態のハクでも何かに干渉してしまえば必ず形跡は残ってしまう。
「・・・・・?このPC、なぜか魔力の名残があるな。どういうことだ?」
ハクはPC周辺の魔力を探る。やはりPCの周囲に漂う魔力がその中に向かうようにして動いた形跡がある。
「これって、俺はよくわからないがPCに干渉する魔法があるのか、それともPCに入れる人間がいるのかとかそういうレベルの話なのか・・・?」
それにしてもおかしい、仮にPCに干渉する魔法があったとして、なぜこのPCに干渉する必要があるのか、例えばデータに干渉する魔法であれば、何者かがこのPCからデータを盗んでいったのだろうか。だとしたらなぜだろうか。このPCに関しては多少のリスクがあっても調べたほうがいいのかもしれない。
「こういう時に急に新しい魔法が使えるようになったりしないかな~、でも今使っている魔法もそうだけど、俺の魔法は若干いやらしいというか、なんか馬鹿正直に最強!ドカーンッって感じじゃないんだよな~。」
ハクは触れるか触れないかの距離までPCに手を近づける。そしてハクの頭上にまたダイヤルが現れる、だが今回ダイヤルは何かにひっかっかったように回らなかった。ハクあまり考えないようにしているが自身の潜在能力を引き出す時は完全に集中する必要があること、そして何よりも現状をどうにかするには今の自分の力が足りないということを自覚する必要がある。そして毎度のこと、ハクはそれを自覚することによって、自身の潜在能力を引き出していたのだ。つまり言ってしまえば、ハクは自分の本当の力に制御がかかっていることに潜在的には気づいているが、別にそれで問題ないから対処していないだけだ。つまり出せる全力を出せるが出していないのだ。
そして今回潜在能力を引き出す必要がないということは現状の実力で事足りているということなのだろう。そしてそれをハクは潜在的に自覚している。
「前から考えていたんだが、魔力の流れをたどることができるのであれば、その流れから魔法を解析して再現することができるんじゃないのか。特にPCに干渉する魔法なんて、無属性魔法か、真属性魔法とかそこらへんだろう、俺なら対応できるんじゃないか、どれも使えるし。」
ハクは近づけた手にまた集中する、そして目をつぶる。そしてまるで触るように残留魔力を調べる。
そしてパット目を見開いた。
「わかったぞ・・・。」
ハクはそしてゆっくりと立ち上がり力強く宣言する。
「俺はこれを【トレース】となずけるよ。」
なんの変哲もないPCだけがある、薄暗い部屋の中ハクはなんとなくさみしい気持ちになった。
「くだらないことやってないでさっさと終わるか。」
ハクはそういうと魔法を早速再現して見せる。
「確か魔力の感じを考えるとこんな感じだと思うんだよね。【トレース】」
分析した魔法を発動すると、触手のようなものがハクの指先から伸び、PCに触れる。そしてPCのケーブルの挿し口にそれぞれの触手が刺さり、そのまま時間がたつ。
「これは面白いな、このPC内の情報なのか、次々に俺の頭の中に情報が流れ込んでくる。」
この情報はなんだ?これは・・・監視カメラの映像なのか?音声が入っている。受付で少女が何かを叫んでいる。そしてこの少女、俺はこの少女に見覚えがある、そしてつい最近会っている。この少女・・・そうか、そしてこの少女は確かにイライジャと言っている。おそらくこれが噂の孫娘で会っている・・・。ッ!?ここで映像は終わりか・・・。
「なんだこれは、なぜ爺さんの孫が爺さんを訪ねてくる映像がこのPCに残っているんだ?そしてこの少女・・・、まさかとは思うがあまりいい予感はしないな。これはもう少し調査を続ける必要があるかもな。」
ハクはその後、また姿を消しながら病院内を探索する。そしてそれを胸の内の嫌な予感が急かすようだった。
「それにしてもハクが私たちに任せてくれるなんて、珍しいですよね。」
「なんだかんだ言ってもいつも何か決めるのはハクだったからな。」
「そうなんだ、僕はまだまだ新参だからね。こういうのはワクワクするよ。」
「そういえばノイルさんはハクさんの意図に気付いたような口調でしたね。どういうことだったんですか?」
「うん、率直に言ってしまえば、この国のショップとか施設に投影されている少女がすべて同じなんだよね。たぶんそれが手掛かりなんじゃないかな。」
ノイルは腕を組んで、考えながらそう言った。
「そうか、俺はあまり違和感を感じなかったがこの世界には人工知能は確かにないんだったな。」
「トレットさん、その人工知能って何ですか?」
「一言で言っちゃえば、ニンゲンが生み出した、学習するシステムだな。」
エルミラは困ったように頭を抱える。そしてトレットはその様子を見て、エルミラに補足説明を始める。
「まぁ、簡単に言ってしまえば、ハクのもといた世界にある技術でな、人が機械に知性があればより人間の生活を豊かにするという考え方のもと始まった技術で、人が考えて、機械を動かすのではなく、機械が考えて機械が動くというシステムだ。」
「は、はぁ。」
エルミラはまたポカンとしている。
「それにしても異世界の技術に随分と詳しいんだねトレットは。」
ノイルは感心るようにそう言った。
「ほめても何も出ないぞ。まぁぶっちゃけ結論だけ言ってしまえば、投影されている映像がそれぞれ人間らしくしゃべりすぎているってことだな。」
「確かに受け答えとかが完璧ですよね。映画やドラマじゃあるまいし。」
それぐらいこの世界の技術とは離れているという違和感があった。
ちなみにこの世界には普通にメディア作品が数多くある。もちろんテレビがあるのでそれは当然だが。このファンタジー世界で繰り広げられるアクションは圧倒的迫力があり、特に映画はコンテンツとして高い人気を持っている。エルミラがさしているのはSF作品の機械がしゃべっていることなどを参考にしてだろう。
「だとすれば、同じ人間が普通に受け答えしているということですか?24時間ずっとそんなのさすがの私でも疲れてしまいます。いくら魔法を使うとしてもそんな高度な操作はほぼ不可能に近いですよね。」
「そうだね。僕でも再現することは難しいよ。」
「つまり見た目が同じ人間が本当に受け答えしているとしたら?ということをハクは言いたかったんだと思うぞ。」
「そんなに一度に出産できる人間がこの世界にはいるんですか!?」
「違うよ、つまり命の書で同じ命を再現することができたらってことでしょトレット?」
残念ながら心理の魔導書シリーズにそんな力があるかどうか確信は持てない。これもまた正解なのかどうかはわからないが、もしも真理の魔導書シリーズにそのような力があったらということだ。空の書が都市一つ空に浮かせる力があるのだから、命を再現する力を持っていて不もちろん思議ではないという見解だ。
「そういうことだな。」
「ていうことはまずはこの国自体を調べ始めないと結論にはたどり着けないってことか、とりあえずあの投影されている女の子について、国民に聞いてみるのがてっとり早そうだね。」
そして三人は歩き始めた。




