とりあえずリドルスを返すか
「ハハハ・・・、けけけけ結構釣るじゃん、初めての割にわ。」
ハクはめちゃくちゃ焦っていた。ノイルはビギナーズラックでは説明しきれないくらい釣りがうまかったのだ。推測するにノイルは生物としてどのような動きをすれば、捕食者にとって魅力的に映るのかを理解している。魚たちはノイルの動かす疑似餌がうまそうに見えてたまらない。だからハクのルアーには見向きもせずに、ノイルのルアーへ行ってしまう。必然的にハクは釣ることができずにノイルばかりが釣るという状況が出来上がってしまっている。そしてハクはいまだにその事実に気付けていない、それもそのはずだろう、ノイルが釣りを始めたのは今日なのだから。
焦るなよ俺。大丈夫、ノイルは今日ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ俺より運がいいだけなんだ。問題ない、全く問題ないね。バス(メガハンド)は大きさがすべてなんだよ。何匹釣ろうが関係ない、最後に巨大魚を釣ればいいだけ、それだけなんだ。
「おっ?また来たかなこれ。結構引くよ!大きいんじゃないかな。」
ノイルの釣り竿が今までに見たことがないほどしなる。釣り竿が「つ」の字を描くほどにしなる、釣り糸の先に今までに見たことがないほどのサイズの魚がいることは明らかだ。
そしてノイルは今までの最大サイズのメガハンドを釣り上げた。
「やった!これはでかいな。どうだいハク?凄いんじゃないかなコレ!?」
ノイルが隣を見るとハクは膝と両手をつき、何かに謝るような姿勢をとり、そして涙を流していた。ノイルは盛り上がっていて気づいていなかったが自分が釣っている間ハクはほとんど釣れていなかったことにようやく気付いた。
ノイルはハクに歩み寄り方に手をそっと置く。
「今日はもう帰ろうか、エルミラたちも帰っていたらみんなでご飯でも食べに行こうよ。」
始めたのは朝だったはずなのに、いつの間にか日も傾き夕方になっていた。夕日の中車を走らせ、ハクとノイルは少しだけ遠回りをした後、ホテルへ帰った。
あれから少しだけ時間がたち、すっかり夜になっていた。ハクたちはホテルから出て食事処につき、ご飯を食べている。
「ハク、釣りはどうだったの楽しかった?」
「ハハハ・・・もちろん楽しかったさ。」
エルミラはハクの表情を確認して、少し首をかしげる。そのあとノイルに耳打ちで何があったかを聞いてみる。それなりに付き合いが長くなってきたエルミラもなんとなくハクの表情が読めるようになってきたようだ。ノイルから話を聞いた後、話題を変える。
「私は結構服を買えたんだ。ハクのも少し買っておいたから今度来てね。」
「おお、ありがとう、明日にでも着るよ。」
ハクはいまだどことなく元気がない。
雑談をしていると一人フードの男が声をかけてくる。
「相席かまわんかね?」
ハクは一瞬も迷わず返事をする。
「あぁ、いいですよ。」
エルミラは答えるハクを見てまた首をかしげる。ハクが敬語を使うのは結構珍しい気がした。
「ふむ、おおむね君の予想通りになったよ。だが本当に大丈夫なのかね?」
「ええ問題ありませんよ。ただし一応あなたが直接挨拶はした方がいいでしょうね。彼らには長もいますし、意外に冷静です。」
「そうかわかったよ。私としてもこの機会に彼らとは上手くやっていきたいと思っているよ。」
「それがいいと思います。いい方たちでしたよ。」
「そうか・・・。君は本当にそこが知れない男だな。それではもう行くよ、マーダスのことは私に任せてくれたまえ、それが君との約束だからね。君が私の国へ何かの用事で来ることになったら一声かけてほしい。必ずもてなすと約束しよう。」
そういうとフードの男は立ち上がり、去っていった。
「ねえ・・・あの人は誰なの?」
エルミラは早速聞いてみる。
「そうだな・・・。食事も終わったし一度ホテルに帰ろうか。」
ハクたちは会計を済ますと車でホテルまで戻った。そしてハクの部屋に集まり、ハクが種明かしを始める。
「あれはドワーフ王だよ。」
「ッ!?でも背丈が全然違かったじゃないですか!?」
ハクはトレットの方を見る。
「たしかにドワーフ王の匂いだったぞ。」
「でもじゃぁなんで?」
「おそらくはあのフード付きのマントの効果だろう。闇属性の幻覚魔法が非常に巧妙にかかっていたからね。たぶん並みの戦士じゃぁ、魔法がかかっていることにすら気づけないほど上等なものだ。」
エルミラの疑問にはノイルが答えた。
「はぁ、そうだったんだ。でもなんで急にハクさんのもとへ来たの・・・?まさか!?」
「たぶんその予想であってるよ。無事リドルスが坑道の権利を失わずに済んだんだろう。」
「じゃぁハクの作戦が無事に成功したんだ!」
-リドルス救出後、ドワーフ王のいるホテル内へ移動時の社内にて-
「それじゃ、リドルスを無条件返還させる作戦について説明するから、みんな先生の話ちゃんと聞いてねー。」
ハクは急に先生口調で話し始める。
「ハク、普通に変だよ。」
「ハク、きもいぞ。」
「ハク、やばいよ。」
「ハク君、勘に触るから止めてもらえるかな。」
ハクは涙目で話を続行する。
「う~ん実はドラゴンと戦う前に空から地面を見下ろしてるときに思いついたんだけどさ。坑道にドラゴンが住んでくれれば、カンタレラ王国はリドルスの行動に手を出せないんじゃないかと思ってね。いやはやそしてら案の定ドラゴの方から休む場所はないか?って聞いてきたんだよね。」
「だがドラゴンが住めば、困るのはリドルスも同じじゃないのか?あとドラゴってハクの戦ったドラゴンの名前なのか?」
マーダスが前に手を組んでハクに問う。
「そう、ドラゴンの名前だよ。正直俺もそこが一番の問題だと思ってたんだけど、ドラゴにその件を話したら『そもそも人間なんて小さくて食いでのない生き物をあえて襲う必要もない、人間側から何かしてこない限り、こちらから何かすることはない。』って言われたんだよね。」
「はぁ、なるほど・・・人間は食いでがない・・・まさしく頂点の生物のセリフだな。」
「アッハッハッハッ、それ聞いたときは僕も爆笑だったよ、確かに人間は食いでがないよね、僕なんか興味なくて味も知らないよ!!!!!!」
ノイルだけがこの話で爆笑している。それを見た面々は何とも言えない気持ちになったのは言うまでもない。
今回マーダスがギルドで行った完了報告はリドルスを空からリドルスを取り戻したことのみだ。坑道を一度ダンジョン化したことはあえて伏せた。報告するとドラゴンが坑道にいることがマーダスのせいになる可能性が高かったのでそれは避けた。そして無事リドルスを取り戻したことを調査しに行ったカンタレラ王国の兵士が坑道でドラゴンを発見する。今回の作戦はそれだけで完了する。
もともと、リドルスの民と王をかくまっていたことを隠していたのだから、大きく出られるはずもなく、他国に漏れることを気にしてそれを黙っておくことを条件にリドルスの民を返したのだろう。




