とりあえず釣りでもするか
ハクは現在カンタレラ王国の釣具屋に来ている。地球にいたときの数少ない趣味である、釣りをこの休日にするつもりのようだ。一同はそれぞれ別行動ということにして、とりあえず今日はハクはノイルと釣りへ、エルミラはトレットと買い物をしてくるそうだ。
「ハク、釣り竿なんてなんでもいいじゃないの?」
「ノイル、ダメなんだよ今日やるのは川釣りだからそれ用の釣り竿を買わなきゃいけない。それに手になじむかどうかの確認も必要なんだ。やることは多いよ。」
ノイルはハクの真剣な眼差しを見て、これ以上口を出すのは野暮だと思えた。だがかれこれ釣具屋に来て1時間ほどが経過しており、少し退屈を感じている。
「そ、そうなんだ。」
「特に先ほど店員が勧めてきたマジックリールなるものは気に食わん。いくら魔法と科学が合わさった高い技術力があるとはいえ、電動リールを再現するとはな。全く持って心外だ、それじゃ魚との駆け引きが楽しめないじゃないか。」
「そ、そうだね。」
「だがこの異世界の技術が生み出してしまったこのマジックルアーは実に面白い、魔力を通すことによって、ルアーそのものが生きているように動くなんて・・・これじゃぁ魚との駆け引きがさらに面白くなるじゃないか。反対に引っ掛けて釣る釣りもできてしまいそうなのが傷だが・・・。そして何よりこのマジックルアーの面白いところは、針部分が魔力になっていて、実質魚を傷つけないで釣りが楽しめるところだ。まさか、傷をつけずに魚を釣り上げる日が来るとはな、魚にも優しい最高じゃないか、針を取る手間もない。」
ハクの弁舌は止ることを知らない。
「わ、わかったから、早く選ぼうよ。案外一日は短いんだぜ。」
「大丈夫だ大体もう決まった。ちゃんとノイルの分も選んであるから安心してくれ。」
ハクは少しだけさみしそうな顔をした後レジに向かった。
「ありがとう。」
ハクたちは釣具屋を後にした後、車でカンタレラ王国内の川に向かっている。エア・シェルターはトレットが持っている状態なので、今日は車が倉庫だ。
「ふむ、なかなかにいい川じゃないか。結構広くて、やや深いくらいかな。」
ハクはそのまま釣りができそうなスポットまで車を走らせる。ちなみにカンタレラ王国は特に変わったことのない国だ。ビルやマンションよりは一軒家が圧倒的に多いような、どこか少しだけ田舎の匂いのするそんな国だ。
「ここなんかいい具合に、木が影を作っていていいじゃないか。」
ハクは広めの河川敷に降りるとそこに車を止め、中かから釣り具一式を取り出す。そしてノイルにも荷物を預ける。
「ノイル、竿を準備するから一式をいったん貸してくれ。」
ハクはノイルから釣り具を受け取ると、素早くセッティングする。
「ほい、いっりょ上がり。」
「ありがとう、以前は人間にあまり興味がなかったからね、釣りなんて初めての経験だよ。」
「あまりの奥深さにはまんなよ?」
ハクはニヒルに笑うと早速釣り竿を振るう。店員に聞いてみたところカンタレラ王国内で釣りをするのであれば、狙うは地球で言うブラックバスの、メガハンドという魚だそうだ。手に余る大きさという意味でこの名前だそうだ。そしてそれになるように、ノイルも竿を振るう。
ハクは今までの戦闘で一度もいったったことのない集中の高見へと到達する。指先に掛かる魚の振動を一瞬でも逃さないとばかりの集中力だ。もちろん魚を待つだけではなく、積極的にアクションを入れ、魚の反応を探る。
それに対しこちは本日初めて釣り竿を握るノイル。一応ハクの見様見真似で、釣り竿を振るいルアーが少し飛ぶ。技術の差は歴然だ。
「お、来た来た。これ結構面白いね。」
ノイルは手元に来る確かな魚の反応に、釣りの楽しさを覚える。そしてそのまま釣り上げた。
「おうやるぅ~。でもまぁビギナーズラックかもな。」
ハクは簡単に釣り上げたノイルを見てそんなことを言う。先に釣られた悔しさを隠しきれていない。釣り上げた魚はメガハンドで間違いなさそうだ。大物になると50cmは優に超えるらしい。見た目は黄金のブラックバスといったところだ。ノイルが釣り上げたサイズは35cmほどでまだやや小ぶりなのかもしれない。今日ハクが狙うはもちろん50cmオーバーの魚だ。
ハクは冷静に糸を垂らす。釣りにおいても、何事においても焦りは禁物だ。
一方そのころ、カンタレラ王城内、国王の部屋にて。
「馬鹿な!?お前何を言っているのかわかっているのか!?ここまでに俺が何を犠牲にしてきたかわかっているのか!?」
明かりも少なく、やや暗い部屋にて焦るような声が響き渡る。
「こればかりはどうしようもないかと思われます。ですがまだ王がかぶった汚名を返上することはできます。無償でお返しすればよいのです。」
「クソがッ、言いたいことはわかるが、この計画のために使用した資金なども考えると・・・クソがッ。」
混みあがる怒りに任せ、口調が汚くなっていく。
「今回は勉強代思いましょう。」
「ふんッ、わかった。今回はただ従うとしよう。」
納得したわけではないが納得するしかない。今宵のカンタレラ国王はそんな表情をしていた。




