とりあえず自分らしくするか
「はぁ、はぁ・・・。なかなかやりますね。」
エルミラの体には大量の傷が増えてきている。だがどれも浅い傷で、紙一重でかわし続けていることがよくわかる。
「あらあらなかなかしぶといのね。早く死んでくれないかしら。」
フェリナスは余裕そうにそういっているが、この瞬間にもファリナスとエルミラは戦闘を続けている。
ファリナスは【ダークネス・アビス・ブラッドドレス】を与えられてから、戦闘におけるすべての力が上昇しているようだ。エルミラはそれでもファリナスの隙を何とか突き、ファリナスに攻撃するがブラッドドレスのせいで黄金の巨剣がはじかれてしまう。そうしてエルミラは防戦するばかりに追い込まれていた。
「アハハッ!早く死んでよねぇッ!!!」
ファリナスはエルミラの後ろにまた周りその右手を振るう。エルミラはそれを何とか黄金の巨剣を振るいその攻撃をはじく。だがその次の瞬間に左手が迫る、そして黄金の巨剣ではその圧倒的なスピードに対応することができない。先ほどからなんとか体の動きのみでかすらせるにとどまらせる。
だがエルミラの体にはある異変が起きていた。
「はぁ、はぁ・・・、なに・・・これ・・・。体が・・・重い・・・。」
「あらあらこの脳筋馬鹿ようやく効果が出てきたみたいよ。」
フェリナスはあたかも当然のごとく、傘を地面につきにんまりと嗤う。その妖艶さは、残忍さを除けばさぞ魅力的に映ったことだろう。
【ダークネス・アビス・ブラッドクロウ】はファリナスの爪に毒を付与する効果もあったようだ。
「アハハッお姉ちゃん、やっと殺せるね!!!刻む?食べる?おろす?」
ファリナスは毒がついているはずの爪をゆっくりとなめる。満面の笑みでそんな仕草をする。
そしてゆっくりと二人は動きの止まったエルミラのもとへ近づく。そしてその悪魔のような魔人がエルミラに近づくも、エルミラは動くことができない。
だがその瞬間近くにある木からがさりと音がする。フェリナスとファリナスは木の方を見る。
「何者だっ!?」
「生ものです。」
エルミラは重たくなったまぶたで当たり前のようにこの場まで来てくれたその人物を見る。
「来てくれたんですね・・・ハクさん。」
エルミラはすでに意識をたもっているのがやっとなのか、巨剣を地面につき、片膝をつくような姿勢で、何とかハクの方を見ている。
「あらあらあなたも確か宝物庫の前にいたわよね。わざわざそっちから死にに来てくれるなんて、助かるわ。」
フェリナスはケタケタと嗤いながらハクの方を見ている。
「お姉ちゃんあいつも殺していいんだよね?もうすぐ殺しちゃってもいいんだよね?」
ファリナスは今にもハクにとびかかりそうな危ない視線をハクに向けている。
そしてそんな中ハクは誰が見ても答えが明らかな質問をエルミラにする。
「エルミラ、助けはいるか?」
その言葉を聞いた瞬間フェリナスとファリナスは大きな声で笑う。
「あらあら聞きました?ファリナス、誰がどう見ても助けが必要でしょうに、あの男とんでもない大馬鹿だわ。」
「アハハッ、お姉ちゃんあいつイカレてるよ、私たち以上の屑かもねっ!!!」
だが二人の笑い声だけではない、この場にはもう一つの笑い声が響いていた。そう、エルミラの笑い声が。
「フェリナスお姉ちゃん、この女も壊れちゃってるよ、早く食べちゃおうよ!」
「あらあら、似た者同士の仲間同士なのね。気持ち悪いわ。」
魔人姉妹は半ば引いたような目でハクとエルミラを見ている。
「ハク、答えはわかっているんでしょう?聞かないでよ。」
この瞬間ハクにもずっと敬語を使っていたエルミラが、砕けた言葉使いをハクにした。そしてそれを聞いたハクは笑顔になる。おそらく魔人には一生理解できない、人間にしかないようなそんな信頼関係が二人の間に生まれたのは間違いないだろう。
エルミラは黄金の巨剣を杖代わりにしてゆっくりと立ち上がる。
そんなエルミラを見ていると、魔人姉妹二人はいつの間にかその場からハクがいなくなっていることに気付く。
「あらあらファリナス。あの男はこの女より厄介だわ、早くこの女を殺して、あの男も殺さなくちゃだわ。」
フェリナスはファリナスとは違い、魔法よりの能力を持っている。そして魔力の流れすら見ることができるほどの腕前を持っている。さらに魔力の知覚範囲も尋常ではなく、宝物庫前にて一同を尾行できたのはフェリナスのおかげであった。だがそのフェリナスをもってして今のハクの動きや、魔力や気配そのすべてを追うことはできなかった。その結果からフェリナスは内心ではハクには全力を出さなくては勝てないだろうことも気づいていた。
「アハハッお姉ちゃん、わたしもそう思っていたところ。早く殺しちゃおうか!!!」
ファリナスがエルミラに接近する中、エルミラはその一瞬でなぜか、オスカーの顔がぼんやりと浮かんがでいた。オスカーは確かにハクに教えることはないといっていたが、エルミラに関しては別だった。もちろんハクとすぐに図書館を出たので教わったことはない。だが雷属性の魔法が乗った魔導書を受け取っていた。それをエルミラに託すとき、オスカーは同時にこんなことも言っていた。
「正直言ってハク君は天才、というよりは最初から強いんじゃ。今はこの意味が分からんかもしれんがそのうちわかるでの。ハク君と一緒に過ごすうち、彼の凄まじい成長速度に劣等感を感じることもあるじゃろう。だが忘れんでほしいことが一つだけあるんじゃ。結局どこまで行っても、何があっても君は君なんじゃ。君以上に君らしく生きられる人間なんかおらん。君は君の道に、人生に自信を持って前へ進むんじゃ、そしてこの言葉の意味に君が気付けたときに、少しでもこの魔導書が君の助けになればと思う。君は勇者じゃ、じゃが世界を導くなんて気負わず、ただ前をみて好きに生きてみるんじゃ、ただただ君らしく、まっすぐ進まんくてもなによりも熱く強い雷のようにな。」
そんなオスカーの激励ともいえる温かい言葉を今思い出す。だが魔導書をいくら読んでも、記載されている魔法をすべて使うことはできなかった。だが確かに今なら使える気がした。魔導書の使い方どおりに魔法を使う必要はない。ただただ自分らしく、戦えばいいだけなのだから。
「【エルダーズマジック・ライトニング・カムイ】」
そう唱えた瞬間エルミラの頭上に凄まじい雷が落ちる。そしてその衝撃で近くまで来ていたファリナスは吹き飛ぶ。フェリナスはあまりの光量に腕を目の前に持っていき、眩しそうなそぶりを見せる。
そして雷の中から、髪と瞳を黄金色に変えたエルミラが現れる。そしてその目元や全身から、小さな雷のようなものを発しながらバチバチと音を立てる。
「忘れていましたよ、私は私らしく生きればいいだけでした。私の大切なたった二人と一匹を守りたいので、あなたたちはここで倒しますよ。」
勇者とは逆境を切り開く者。神様とはきかっかけを示すだけ。たどる道も、切り開く道も、すべてを選ぶのは結局は自分なのだ。
エルミラは雷により、体内を侵食していた毒を焼き殺していた。頭も体も軽く、今なら何でもできそうな万能感がある。
だがその瞬間、先ほどエルミラに吹き飛ばされていたファリナスが、エルミラに飛び込むように突っ込んでくる。
「アハハッ!!!!痛いなあぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!!!!!!」
あまりの怒りで目を見開き、先ほどまでとはくらべものにならない速度でエルミラに接近する。
だが、エルミラはその速度を上回る速度で動いて見せる。ファリナスが右手を突き出すように攻撃をしてくると、雷の軌跡を描きながら右手の側面に回り、その腕を切り落とす。そしてそのままファリナスの首に一閃、ファリナスの首も落として見せた。
「次はあなたですよ、フェリナスさん。」
エルミラは黄金の髪をなびかせながらフェリナスの方を向く。そしてゆっくりとフェリナスの方へ近づいていった。
一方そのころ、リドルス近郊の坑道内ではシェノセィーディオが魔物の殲滅を終えたところだった。
「思ったよりも時間がかかっちゃったな。えっと確かあの人たちはあそこに魔石を入れていたよね。これ僕も空に行けるのかな。」
そしてシェノセィーディオは移動型転移魔法陣を作動させた。




