とりあえず空に浮かすか
極限まで集中したハクの頭の中に、自分では見たことも、もちろん使ったことのない呪文が頭の中に浮かぶ。ハクはゆっくりとその呪文を口にした。
「【ディオス・ヴァキオ】」
ハクが呪文を唱えた少し後、ハクの周りの光が収まった。
「よし、入るか。」
「は?何を言っているんだ?」
マーダスの前にはまだ宝物庫の扉がある。先ほどのハクの呪文で何かが起きたという様子は一切ない。だが扉を観察するマーダスの前をハクが通り過ぎる。
「おいおい、ハク君ぶつかるぞ!?」
マーダスがハクの手を取り、止めようとしたがそのままハクは扉を通り抜けていった。
「おいおい、嘘だろ!?まさか真属性の魔法を使えるのかい?」
マーダスは偶然にもエルダーズマジックである真属性魔法を知っていた。そして歩いて扉に近づき、そのまま扉を通り抜けようとする。
「いった~~~~~~~~~~~。」
マーダスは扉にぶつかった。
「なんで扉にぶつかるんだい?ハク君の魔法でこの扉はここにあってそこにないパターンじゃないのか?」
「ごめんごめん忘れてたわ。」
ハクの手が扉をすり抜け出てくる。そしてそのままマーダスの強調された部分に手が当たる。
「なんだこれ、柔らかいんだけど。」
今度はズガンッという音がすると、扉にマーダスの手のみが貫通している。そしてそのまま拳がハクの顔面に直撃した。ハクの顔面にまるでギャグマンガのように拳がめり込んでいる。
「ごめん、普通に鍵を開ければよかったな。」
ガチャリ、今度は普通に扉を開けてマーダスも部屋に入ってくる。少し顔が赤いが、ハクはあえて問い詰めることはしなかった。
「ハクよ、その鼻血は殴られて出たものなのか?それとも違うのか?」
ハクは問い詰めなかったが、トレットがごく普通に聞いてくる。
「トレットよ、お前も鼻血出てるぞ。」
いつの間にかガントレットから元に戻っているトレットもまた鼻血が出ている。おそらくトレットは俺は関係ありませんよ、という風を装うためにガントレットから元に戻ったが、鼻血のせいでどのタイミングまでハクに装備されていたのかは丸わかりだ。それを察したマーダスはトレットのこともジロリと睨んでいる。
「それより早くしなかれば、今もエルミラは一人で戦っているのだから。」
「それもそうだが、この部屋を見てみろよ。」
マーダスはハクに言われて部屋を見る。部屋の中はまさしく宝物庫といわれるだけあり、金銀財宝がたくさん入っていた。中にはもちろん武器のようなものまである。そしてそれらすべてが浮いている、なんとも不思議な光景が広がっていた。
「ふむ、まさかとは思うがこれ、真理の魔導書シリーズって魔法具なのか?」
「私はよくわからんな。」
う~ん魔力の流れを観察すると明らかに、空の書だと思われる本に宝物庫内の魔畜具から魔力が向かっていっている。でも魔法具は使用者が魔力を送ることで発動するんじゃないのか。だが明らかに魔力を吸っている。真理の魔導書シリーズとはまさしく謎だな。
「どうだ?何かわかったのか?」
トレットが心配そうに聞いてくる。
「大体わかったよ、今の状況がめちゃくちゃまずいってこともね。」
「ハク君どういうことだ?」
「簡単に説明するとだな、空の書はおそらくほかのものから魔力を据えるタイプの魔法具だ。それでこの宝物庫内の魔畜具から魔力を吸って、空に浮かんでいる状態の可能性が高い。」
「つまり君らの探し物である空の書が、この島が浮いている原因で間違いないんだな。それの何がまずいんだ?むしろ原因が分かったのだから後は解決するだけじゃないか。ん?それってまさか。」
エルミラと違い魔力がはっきりと視認できるマーダスはハクの言っている意味をようやく理解できた。明らかに倉庫内の魔力が減ってきていることを。
余談だが通常魔力の流れを視認することはかなりの鍛錬が必要になる。そしてそれができる人間はごく少数だ。魔力の有無や、大小を見ることができるものはかなりいるが、流れまで見ることはこの世界では高等技術とされている。ちなみにマーダスは魔力の大小が確認できるまでにとどまる。もちろんマーダスほどの力があれば魔力の流れを確認するところまで到達することができただろう。だがマーダスの成長を止めたのは自身の人生の道でもある研究が原因である。
「なるほどな、つまりはこの宝物庫の魔力のおかげで浮いていたのに、もうすぐ宝物庫の魔力が尽きて落下を開始するということか。」
マーダスがすべてを悟ったように語る。
「そういうことだ。今から俺がこの倉庫内に魔力を注ぐことによって何とか時間を稼ぐ、だがそれも長くは続かない。何とかならないかマーダス?」
「ハク君の魔力だけではこの魔導書を制御してゆっくりとリドルスを落下させることはできないのか?」
「残念ながらそうだろうな。途中までは何とかなるのかもしれないが、おそらくは途中で魔力が尽きて自由落下するだろうな。」
マーダスは顎に手を当てて考える。
「一つだけ手がある。私がこの島に魔物を呼び込み、それらをうまく狩ることができればうまくいくかもしれない。だがハク君、役割を逆にしよう。私は正直戦闘から身を放して長い、私がこの部屋基魔導書に魔力を注ぐ、ハク君は魔物を狩って魔石を持ってきてほしい。」
「なるほどな、大体わかった。おそらくこのリドルスそのものをダンジョンに近い状態にしようとているんだな?」
「そういうことだ、ハク君は察しがいいな。それとプラスで言うなら今回私が戦闘を避けた大きな理由はここが空なことにあるからな。」
「そうか、空で魔物を集めるとモンスターが限定されるのか。空に来れるモンスターに。」
これにはトレットが難しそうな表情をしながら答えた。
「おいおいそれってまさか鳥系か、ドラゴン系の魔物を狩らなきゃいけないってこと?」
「いや、少しだけ違うな。ドラゴン系統のみだ、この高度まで鳥系統の魔物は来ないからな。」
マーダスは不気味なくらいにんまりと笑っていった。




