とりあえず逃げるか
坑道には通常どう考えてもないはずのもの、大きな扉が最奥にて存在している。
その扉の奥には研究室のような設備がある。
「うむ・・・魔物を呼び込むところまでは成功したが、この後が問題だな。私一人でどうにかすることもできん、冒険者を雇うのも他国にばれて危険だ。本当にどうすればいいのだ、私が国唯一の研究者だからって丸投げをしてくれるとはな。ぐわぁぁぁっぁぁっぁめんどうくさ~~い!!!」
一人の女性が研究室で頭を抱える。
ドンッ!ドンッ!と扉を鳴らす音がする。
「ひっ!?大丈夫なはずだ。この扉は超鋼鉄ミスリル製でできている。」
だが今宵扉をたたくは彼女の想定を超える化け物である。
扉は最後にドギャンッ!という音を立てると崩壊した。
「う、嘘でしょ!?やばいやばいやばい・・・。こんな扉を作る化け物なんて対応できるわけない。終わりだわコレ、終わったー。」
彼女はあまりの事態にキャラを崩壊させた。
扉が崩壊したことで起きた煙の中からゆっくりと大きな影が現れる。
それは漆黒の毛並みに黄金の鬣をはやしたライオンだった。
この魔物が出現した場合ギルドは逃げることを推奨している。ギルドは以前この化け物の討伐隊を組んだ。およそAランク冒険者100名を用意し、Sランク冒険者に指揮をとらせた、だが対応空しく結果冒険者は全滅している。Sランクでも一対一で戦うことは難しいだろう。仮に異世界でも人間の領域にとどまる限りはおそらく戦かうのは厳しい、そういう領域の生命体だ。
この化け物がここに来た理由はたった一つだ、近くに面白そうな気配があったので暇つぶしにこちらにわざわざ歩いてきたというだけである。だが中の人間を見ても特に興味はわかなかった。
ライオンは周囲をゆっくりと見渡す。目につくのは白衣を着た女性のみ、それ以外には特に誰もいない。
「あれれ?強者の気配がしたんだけどなぁ~。気のせいだったかな・・・。」
「え・・・?あなたしゃべれるんですか?」
「うん、しゃべれるよ。だってそうした方が便利じゃん。」
「は・・・はぁ・・・。」
白衣の女性は考える。
知能まで高いこの化け物を私は知っている。この化け物の名前は【シェノセィーディオ】、ある大国にて悲劇を引き起こしたことからネームドモンスターとして記録されている。もちろん魔獣災害としても記録されている化け物中の化け物だ。
「わ、私は殺されるんでしょうか?」
「なんで?別に殺さないよ、意味もないし。」
魔物とは思えない、非常に理性的な回答が返ってくる。
「は・・・?」
思わず女性は気の抜けた返事をしてしまう。
「それよりもここに人が来なかった?」
黄金の鬣を揺らし、黄金の瞳で女を見つめる。その気品と、あふれる覇気が見とれさせる。それは間違いなく恐ろしさではなく、美しさであった。彼女が正気を保っていられるのもそのおかげだろう。
「ひ、人は来ませんでしたけど。」
「そう・・・ん?今から来る人は知り合い?」
シェノセィーディオが突然首を傾げそんなことを言う。
「いえ、ここには人なんて来ないと思います。そのためにも魔物を呼び込みましたから。」
「そうなんだ、じゃぁこれは誰だろうね。随分面白そうな気配だけど・・・一人は勇者かな?」
「・・・はぁ。」
先ほどから誰かが来ると話してくるシェノセィーディオ。だが果たしてこの危険な坑道に来る馬鹿などいるのだろうか。
そう考えていた矢先、遠くから声が聞こえる。
「早く走れエルミラ!!!追いつかれるぞ!!!」
「そ、そんなこと言ったって、あなたと違って私はそんな人外速度で移動できませんよ~~。」
「ん?大きな魔力の流れがあるな少し先に行ってくるよ。」
「え?何言ってるんですか!?私を見捨てないで、ていうか私も連れて行けばいいじゃないですか普通に!!え・・マジ?ちょっ・・待って!!!」
遠くから泣きそうな女性の声がする。明らかに何者かが接近しているが声は随分と遠くから聞こえる。そう考えていた瞬間、目の前に突然男が現れる。
「ひぇッ!?だだだ誰ですかあなたは!?」
突然現れた男に白衣の女性は驚愕しながら聞く。
「うぉっ!?綺麗なライオンだなっ!?」
だがこの男、ハクもその場にいるライオンに驚いている。
「どうも初めまして、焦っているみたいだけど大丈夫?」
シェノセィーディオは優雅にハクにお辞儀をした後に話す。
「確かにだいじょばないな。」
ハクは思い出したようにあたりを見渡す。
「ハク、あれだ、あれを起動しろ。」
トレットが移動型転移魔法陣を見つける。
「ナイストレット!」
ハクは移動型転移魔法陣へ駆けつけると、すぐそばに魔力炉を見つける。その装置の形を簡単に言ってしまえば車輪のついたミスリルの板に、魔力炉と魔法陣があるとうような簡素なものだ。ハクはガラガラと大小さまざまな大きさの魔石を流すように入れる。
「ちょ待っ!?それを起動されると困るんですけど!?」
「ごめん時間ないから、話はあとで聞くよ。それよりエルミラ!!!!!早くしてッ!!!!」
ハクは大きな声でエルミラに呼びかける。
「待ってぇぇぇぇ!!!!」
遠くから小さな声が聞こえる。
「だめだなこりゃ、エルミラと大量の魔物がここに着くのは同時かもな。迎えに行くか。」
白衣の女の前からハクは一瞬で消えた、この場でその速度を目で追うことができたのはシェノセィーディオだけだろう。白衣の女はハクが転移したのかと勘違いしていたほどだ。
だがそのすきに白衣の女は魔法陣の起動を止めようと魔力炉に近づいた、その際に魔方陣に乗った。
そしてその瞬間にハクが魔方陣にエルミラを抱えて戻る。
「魔法陣起動ッ!!!!!!!」
ハク、トレット、エルミラ、白衣の女が魔方陣から消えた。
「ありゃりゃ、取り残されたみたい・・・。」
坑道の最奥にて一匹になったシェノセィーディオはぽつんと言う。
そして先ほどのハクたちが追われていた魔物たちが一気に押し寄せる。
白衣の女の制作した装置のせいで理性の飛んだ魔物たちが、ダンジョンの仲間ではないシェノセィーディオに一斉に襲い掛かる。ハクたちが逃げたのはこの狂ったような状態の大量の魔物を処理するのに手を焼いたからだろう。
「なかなかの数だねこれは、まぁ僕の敵じゃないけどね。」
シェノセィーディオは確かに笑った。




