凄い人から魔法を学ぶらしい
とりあえず本を何冊か手に取り、必要な情報がないか調べている。いまだに【真理の魔導書シリーズ】に関しての情報はない。だが時間があるときに探そうと考えていた本が何冊か見つかり始めている。
例えば魔物図鑑があったので読んで見る。タイトルは【ネームド・キングス】前述に記載されている文章で、世界中にはいまだにモンスターが増え続けていて、その中でも目を引くモンスターを紹介していくと書いてあった。また、世界中に害をもたらし、今もなお人々に恐怖を与え続ける魔物に人々はモンスター名以外に名を付けた、これをネームドモンスターとする、と書かれている。今後世界を旅するにあたってそういったモンスターとも出会うことがあるのだろうか。
しばらくモンスター図鑑を読んでいると、トレットがこちらを見ていた。
「その本なら俺も読んだことがあるぞ、大魔女王様の部屋にも置いてあった。今はもうその本に書いてあるモンスターはほぼいないらしいぞ、その本は古いからな。でもその本に乗っていて今でも現存するモンスターは本物の怪物だといっていた。特にネームドモンスターはな。」
「それは会いたくないもんだ。【真理の魔導書シリーズ】に絡んでないことを祈るよ。」
「そういえばハクさんって、異世界の人ですよね?そちらの世界には魔物とかはいないんですか?」
「いないよ、そう考えたら結構恵まれた世界なのかもな。とても安全だったけどね、まぁ人間同士はずっと争っていたけどね。」
「そういうところはこちらとあまり変わりませんね。」
「・・・そうかもな。」
ふとあの頃を思い出してしまい、悲しい気分になった。いつの世も人間同士は争い続けている、ごく一部の人間の利益のために大量に死んでいく人々を何度も見てきたせいで、他人に期待することがほとんどなくなってしまった。あの頃の記憶は、人が目の前で次々に死んでいく光景は脳裏に焼き付いて消えることはないのだろう。
「ハクさん!これを見てください。」
「ん?どうしたの?」
物思いにふけっているとエルミラが何か見つけたらしい。エルミラが指し示しているものは本でも、巻物でもなく本棚だった。
「本棚?だと思うけどただの。」
「これはただの本棚じゃぁありません!」
エルミラが説得力のある確信のこもった眼を向けてくる。
「まさか隠し扉か何かなのか?」
「いいえ。おそらく生き物です。」
「は?」
信じて損をした気分になった。
「エルミラいい病院紹介するから行ってきなさい。今ならまだ間に合う。」
「なんでですか!?私は正常ですよ!」
「トレット言ってやれ、エルミラがどれだけ異常だか教えてやれ。」
「トレットとやら、わしが代わりにこの娘にわからせてやる、変わるのじゃ。」
「やってやれ爺さん。」
自分で言った言葉に違和感を感じた。
「爺さん?」
あれ?今会話に爺さんが混ざっていなかったか、そんなわけはないよな。
あたりを見渡しても特に変わった様子はない。しいて言うなら本棚がさっきより前に出ていることくらいだ。ん?本棚勝手に動いてない?
「まさか本当に生きているのかい?その本棚」
「とりあえず言っておくがわしは本棚ではない、化けているだけだ。」
そんな返事が返ってきたかと思うと本棚はどんどん姿を変え、爺さんになった。木製の本棚がゆっくり人間の姿に変わっていくのは実にシュールだ。
周りを見るとトレットとエルミラが目を大きく見開き驚いていた。
「なるほど、驚異的な魔法師だということは理解できた。それも明らかに現代の魔法のメカニズムとは違うぞ。古い魔法なのか?」
そんなことをトレットが話していると爺さんが椅子に座った。
「よっこいしょ。もう長いこと外には出ておらんのでな、この魔法はもう古いのか?」
「現代の魔法では化けてその姿に見せかけることはできても、姿そのものを書き換えることはできないんだぞ。」
「そうですね。私も聞いたことはありません。」
「なるほどのう・・・。万人ができるように魔法も進化していっているわけか。」
「あのう俺会話についていけてないのですが、とりあえずお名前とか聞いても?」
老人は、片目だけ開いた状態でこちらを向いてきた。
「わしの名前はオスカー・マジルガじゃ。ハクとやら、なぜここに来たのじゃ?」
ずっとこの部屋にいたのであれば、俺の名前を知っていても不思議ではないか。
「実は俺たちは・・・」
俺はこの爺さんにも自分たちの現状を素直に話してみた。なんとなく悪人には見えず、どことなく温かい匂いのする爺さんだ。茶色いニットの下に赤と青のチェックのYシャツを着ていて、目も髪も黒色をしている、そしてその眼光と顔つきは年齢を感じさせない若々しさを感じさせる。綺麗な手のひらサイズの水晶が付いた腰までの高さのステッキを握っている。
「ふむ、なるほどのぉ。ここは向こうの世界とはつながっておらんでな、外の状況は知らんかった。そんなことになっとったとわな・・・。」
「爺さんは【真理の魔導書シリーズ】に関してなんか知らないか?」
「知っとるよ。今も同じ場所にあるとは思えんが、その場所も知っとる。」
「そいつはありがたい話だ。よければ教えてもらえないか?手がかりにはなる。」
「うむ、この地図を持っていけ。とりあえずわしが把握している最後の位置が記されている。」
「ありがとう、助かるよ。普通のことかもしれないけどやけに素直に力を貸してくれるんだな。」
「その子は勇者なんじゃろ?とりあえず悪人ではなさそうだし力を貸すことにしたんじゃ。わしは意味もなくここにいるわけではないでの。動けんのじゃ、その分世界の手助けをしたくてな。」
「ちなみになんでここから動けないんだ?」
「ここの本を管理しているんじゃ。ここの本はほとんどわしが書いた本での、じゃがもちろんそうでないものもある。内容がピンキリなんじゃ。それこそ世界を滅ぼすよなものまである。そういった重要資料を管理しとるんじゃ。」
「なるほどな。それは確かに重要な役割だ。」
「でもそれならなんで最初は隠れてたんだ?」
「この部屋に人が来るのはとても難しいでな。かなりの力を持っている物しか入れんのじゃ。その人物が善か悪か、それを判断する時間を稼いでいたんじゃ。」
この話には少し違和感がある。そもそもがこの部屋に入る人間が大きな力を持っていて危険だということは理解できる。世界を滅ぼすほどの魔導書を管理している人間の力がそのレベル以下であるわけがない。何かを隠している可能性があるのだろうか。例えばこの部屋では何らかの事情で戦うことができず、不意打ちによる強制的な排除を目的としているとか。そもそも戦う必要がないだとか。
「ここには随分危険な本が置いてあるみたいだな。」
「ふむ・・・。まぁそうじゃな。」
オスカーが興味深げな眼でこちらを見ている。お眼鏡には叶ったのだろか。
「ところでまだほかにも聞きたいことはあるのか?」
「そういえばオスカーさんはすごい魔法師なんだろう?良ければ少し教えてくれないか?」
「魔法・・・か、よかろうヌシは面白いしのぉ。少しだけ教えてあげよう。」
かなり、ありがたい話だ。ここらで一度エルミラも魔法について勉強しておいた方がいい気がする。もちろん俺の楽しみといいうとても個人的な理由もあるが。




