エルミラも来るらしい
エルミラの直剣が、ハクに振り下ろされる瞬間ハクもまた動き出していた。ハクは拳を握り、両手を全力で広げた。そしてエルミラの直剣が迫るなか、握った拳を開いた。直後直剣に凄まじい衝撃が走る。ハクは次元膜の反発した衝撃で直剣に攻撃を加えたのだ。その衝撃でエルミラの手が痺れ一瞬動きを止める、すかさず、ハクは両拳で直剣に追撃を加えた。
そして、直剣は砕け散った。
だが、エルミラは動きを止めずに直剣の柄を放し、拳でハクに応戦した。
そしてもちろんハクにエルミラの拳が当たることはなかった。だが、ハクがニヤっと笑ったのをエルミラは見た。そしてその直後エルミラとハクの拳が交差し、クロスカウンターがお互いに決まる。エルミラの右拳がハクの左頬に、ハクの左拳がエルミラの右頬に当たり、数刻お互いの動きが止まった。
そして結果倒れたのはハクだった。
「ハク殿戦闘不能のため、エルミラの勝利!」
バンディッシュのジャッジが入る。そしてエルミラの勝利が決まった。
「あれ?ハクさん?大丈夫ですか?ここは普通ハクさんが勝つ流れじゃないんですか?」
エルミラは動揺している、エルミラの作戦はこうだった。ハクとの決闘にてエルミラが善戦を繰り広げる。そこでエルミラは惜しくもハクに負けてしまう。そしてハクのもとだった強くなれるからついていきます。という完璧な流れがエルミラの中にはあった。だが、現実はどうだろうか、エルミラは勝利し、ハクはエルミラの前で倒れ、口を開く気配がない。
そして、正直エルミラの照れ隠しでそういう流れになるのではないかと思っていたシルエラも動揺している。正直なところエルミラもハクもシルエラから見たら圧倒的な強さを持っていた。この二人なら世界を救えるのではないかと考えたほどだ。だが、ハクが負けることは想定していなかった。
おそらく現状をある程度理解できているのはバンディッシュとジャックマンだけだろう。実はジャックマンも元凄腕の冒険者だったのだ。なので二人には理解できていた、明らかにハクは倒れたふりをしている。そもそもがエルミラの攻撃をあそこまで丁寧によけておいて今更あんな単純な攻撃にあたるわけがない。明らかにハクはやられたふりをしている。
だがジャックマンとバンディッシュでは理解のレベルが異なる、バンディッシュはハクの狙いまである程度の予想はできていたのだ。だからエルミラの勝利を宣言した。
そしてバンディッシュに続いてエルミラも半分だけ理解できたようだ。
「ふふふ、ハクさんは本当に面白い人ですね。」
シルエラは小声でつぶやいた。そして国王の方をちらりと見る。スキーラ王国の国王ラインハルト・メル・スキーラは顎に手を当てて考えていた。そして口を開いた。
「エルミラよ、私は君が勇者になるまでは君には何の興味もなく、そして君を知る意味はないと思っていた。だが君は素晴らしい力を手に入れたようだ。知っているかもしれないが私には娘が一人しかいないんだ。どうだろうか戻ってきたあかつきにはシルエラの親衛隊ではなく、秘書兼、護衛をやってみないか?」
「は、はい!?それは大変嬉しい話ではありますが、よろしいのでしょうか、私のような平民のものがシルエラ様の秘書など、シルエラ様のお名前に傷がつきませんか!?」
「そう焦ることはない。私は今日確信を得たのだ、君は間違いなく世界を救うだろう。そしてその功績をもってすれば、君を拒むものなどいまい。いや、いたとしてもこの私が黙らしてやろう。」
エルミラはすぐに膝をついて答える。
「ありがたき幸せ!謹んでお受けいたします。シルエラ様のことは私が一生お守りします、この命に代えても。」
「ふむ、素晴らしい心がけだ。それでは私は失礼するよ。」
そういって国王は用が済むとこの場を去った。おそらく誰も気づくことはないだろうがこの時王は幸せそうに笑っていた。
そしてエルミラがハクに向かって言う。
「ハクさん、なんとしても私をこの旅に連れて行って下さい。私自身の為にも。」
この時エルミラは心のどこかで引っかかっていた何かが、取れていることを気づき、いつの間にか心から世界を救うことを望んでいた。そして笑顔でハクに宣言することができた。
「来てくれるのか、ありがとう。」
ハクはいつの間にか先ほどまで倒れていたところに座っていた。
そして決闘は終わり、ハクは世界樹亭に戻っていた。エルミラとはあの後少し会話をして、早く出発したいという彼女の要望を取り入れて出発は翌日すぐにということになった。
ちなみにエルミラが宰相から魔導書の手がかりを集めるにはまず大図書館に行ってみてはどうかという提案を受けていたそうで、その意見に乗っかることにした。まだ情報が足りていないので最初は情報収集から始めることにする。大図書館はとある国にあるらしい。
翌日まで部屋でまどろんでいようと考えていたが、夜間扉がノックされた。
ハクは扉を開ける。
「・・・・・・・え?なぜあなたがここに?」
扉の向こうには国王が立っていた。
「とりあえず中に入れてくれんかね。」
「は、はぁどうぞ。」
ハクはラインハルトを部屋に迎え入れた。そしてラインハルトはソファにゆっくりと座った。
「あまり硬くならないでいい、今日はプライベートで来たんだ。」
「そ、そうですか。ところでどうしてここに来たんですか?」
ハクは部屋にあったマグカップでお茶を入れてラインハルトに差し出した。
「ふむ、急に本題にはいるのかね。まぁよい、それでは単刀直入にいうがどこまで気付いているのだ?」
唐突にそういうとラインハルトはハクを真剣なまなざしで見る。ハクはある程度心当たりがあった、ラインハルトが国王の身でここまで一人で来た理由も。そして数拍子の間の合間、相変わらずハクの入れたお茶が湯気を立てている。
「俺は何も知りませんよ。いえ、何も知らないことにしておいた方がいいとは思いませんか?」
ラインハルトは手元のお茶を一口ゆっくりと飲んだ。
「君はシルエラに聞いた通りそこが知れない面白い人間なのかもな。」
ラインハルトはお茶を飲み干すと立ち上がり、そのまま扉に歩いて行った。そして扉の手前で、ゆっくりとハクの方へ顔だけ少し振り向いた。
「ありがとう、感謝している。」
そいうとラインハルトは扉を開けて部屋を去っていった。
部屋には空のコップとトレット、それにハクだけが残る。そして空のコップを顎に手を当て見つめながら、ハクはトレットにあることを確認した。
「やっぱり間違いないのか?」
「今改めて匂いを嗅いだが間違いない。エルミラとシルエラは姉妹だろうな。おそらく王の不貞を働いた結果だろう。ついに二人を自分のそばにおけるもんで喜んでいる半分、辛い使命に娘を送り出さないといけない半分ってところだろうな。」
「王様ってのは本当に大変だな。」
ハクはそういうと王が飲んだコップをかたそうと手に取る。すると紙が折りたたまれてはいっていた。手に取り、それを広げると短い文章が書き記されていた。
_________________________________
ハク殿、エルミラに手を出しても、悲しませてもぶち殺します。
_________________________________
「はぁ・・・国王も所詮人の親ってな。」
ハクはそうつぶやき紙をビリビリに引きちぎると、疲れた様子でベットで深い眠りについた。




