戦闘終了だよねー
バルドは眼を見開いた、瞬間移動をもってする相手の不意をつく戦いが自分の得意とする戦闘方だったはずなのに、今不意をつかれたのは自分だった。
ノイルの変貌から一秒たりとも目をそらしてはいなかったはずなのに、隙をつかれた。
今ノイルの手がバルドの腹を貫いている。
いつの間にか目の前にあるノイルをバルドは観察する。
黄金色の瞳に黄金の髪の毛、身長は180後半はあろう長身だ。首元の黄金のファーがノイルの威厳を高める。長髪を無造作にオールバックにし、人の姿でありながら、獅子そのものの気迫を身に宿している。全体的に筋肉質で全身に無駄は一切ない。まるで彫像のような体格をしていた。黒色のマントを背後になびかせ、全身黒い服装をしている。そのせいで首元のファーがやけに目立つのだ。
「どうした?反応できなかったのか?」
「グフッ!?」
バルドの口から血が噴き出す。
「たかだか魔族の分際でこの俺にたてつくとは少し調子に乗りすぎたな?」
ノイルはバルドに一ミリの興味もなさそうに、まるで虫でも眺めているような視線を向ける。
「なめるなよ・・・、たかだか獅子の分際で俺にたてつこうとは?」
バルドは口元から血を流そうとも、まるでそれを気にしていないかのようにノイルを睨みつける。
そしてノイルが瞬きをしたのに合わせるように瞬間移動し、ノイルの背後に回る。
「【ダーク・インパクト】」
ノイルの背中に手を当てて、ゼロ距離で魔法を使用した。
あまりの魔法の威力にノイルの周りに砂煙が立ち上る。
バルドは煙の中のノイルと目があったのがはっきりとわかった。
ノイルの目は煙の中にありながら輝き、その黄金の瞳がバルドを威圧する。
まるで遥かなる高見から、バルドをただ見下しているようだ。
一瞬、ノイルの圧に押され、その場に立ち止まってしまったバルドは、ノイルに手を掴まれる。
「ほう?腹の傷はもう治っているみたいだな。瞬間再生か、面白い。」
ノイルはそれだけ告げると、バルドを無造作に投げた。
なんの力も入っていないような様子だったのに、バルドは自分で止まることができずに、どこまでも吹き飛んでいく。
バルドは両手を後ろに向け魔法を放つ。
「【ダーク・フルバースト】」
両手から背後に向けて、まるでジェット噴射のように闇が放たれる。
その勢いを利用して、ノイルの投げの力を相殺しようとしたが、魔法を使用してなお50mほど後ろに吹き飛ばされてから停止した。
バルドは腕に痛みを感じ、視線を持っていくと、先ほどノイルにつかまれていた腕は複雑骨折しているのが見てすぐにわかった。
「俺はここ最近戦闘時に、人の姿のままある程度全力を出す方法を探っていた。そして気が付いたんだが、子供の姿だったからうまく力を表現できなかったのだ。だからこの姿となった。」
手に視線を移した一瞬のうちにノイルが自分の目の前にいる。
バルドはゆっくりとノイルに視線を合わせた。
「クソがッ!魔物分際で調子に乗るなよッ!」
バルドは瞬間移動すると、一気にノイルから距離をとった。
そしてノイルの方へとその細長い指を伸ばす。
「【ダーク・ゲート】」
バルドの後ろから出現した暗黒の扉が、その重さをノイルに伝えるようにゆっくりと開いた。
魔力で作られるはずのその扉が、地面をこすり、ずずずぅぅとう音を鳴らす。
扉の隙間から次々と、過去の魔族の亡霊が現れ、バルドの体へと絡みついていく。
「力を感じるぞ、もうお前の思い通りにはならない。お前はここで確実に殺す。」
バルドの体に絡みついていた亡霊たちは、バルドの体に溶け込むように消えていった。
バルドの瞳は暗黒に染まり、吐く息も黒いオーラのようになっていた。
次々とバルドに溶け込んでいく亡霊、バルドの体から立ち上る魔力は可視化され、漆黒の災害だった。
だがそれすらノイルは興味なさげに見ている。
バルドはそれが気に食わずにノイルを睨みつている。
「どうした?かかってこないのか?」
バルドはそれに返答はせずにその指をゆっくりと伸ばした。
「【ダークネス・ボール】」
小さな黒い球が、高速でノイルに接近する。それは間違いなくノイルに直撃した。
大地を揺らし、ノイルを吹き飛ばさんがするその威力はすさまじいものだった。
そしてまたバルドは煙の中のノイルと目が合う。
「お前は・・・どれほど俺の高みにいるというのだ?」
まるで、切り離した絵と絵を合わせるような、それを感じることすら許されない速度で、いつの間にかノイルはバルドの目の前にいた。
「それに先ほどからやっているその移動はなんだ?」
「俺からしたら早歩きなんだがな。」
バルドの額の正面にいつの間にノイルの片手がある。
ノイルの手は指パッチンの形となり、バルドの手前で止まった。
これから確実に何かやばいことが起きることはわかっていたが、それでもバルドはその場から動くことができなかった。
それに気づくことを拒絶していたが、それでも何もしても通用しないノイルに対し、バルドは強制的に気付かされた。
単純な話だ、バルドはノイルに対し萎縮しているのだ。
「俺も魔法を一つ披露しようと思ってな。」
ノイルはそれだけ言った。
バルドは恐れた。
初めて圧倒的強者に出会い、自分ではどうにもできないという状況に恐れをなした。
ノイルが魔法を使用する前に、バルドは瞬間移動で逃げ出した。
ノイルはバルドが目の前から消え、それが逃亡であると瞬時に理解した。
灼熱の太陽が、ノイルの肌をじりじりと焼く。
ぼーっと地平線を眺めた。
「体毛がないと不便だな。」
何か的を得ているような、外しているのようなつぶやきが、灼熱の大地でぼんやりと響いた。




