緊急事態だよねー
「あそこの店の角だけど、今入ったの見てた?」
エルミラはノイルの肩を軽くたたいて、魔人が一人だけで一目の少ない箇所に入っていったのを伝える。
「見てたよ。」
もちろんノイルもそれを見逃すことなく、しっかりと目撃していた。
「とりあえずゆっくりついていってみよう。せっかくのチャンスだ、見つかるとシャレにならない。」
今度は逆にノイルがエルミラの肩に触れる。
「【サイレント・トランスパレンテ】」
ノイルの無属性隠密魔法がかけられる。
「なるほど、これで簡単に接近できるね。」
ノイルがエルミラの方を向いて指を動かしながら、文字を書いた。
-ここからはいつも通りこれで会話しよう。見失うといけないから早速魔人の後を追おう。-
ノイルのエア・ライトを見てエルミラはゆっくりとうなずいた。
-了解。-
エルミラとノイルは早速先ほど目撃した店の角を曲がった。
先ほどのおそらくは魔人と思われるものはそのまま路地をどんどん進んでいってしまう。
-ここらへんで、とらえてさっさと目的をはかせようよ。-
エルミラが足早に歩きながら、ノイルに意思を伝える。
-待って、動きが怪しい。質問するのはやめて、このままつけて情報を集めよう。-
ノイルが先陣をとり、うまく見つからないように後を付けていった。
魔人は明らかになにか目的があって、この路地を進んでいるように見える。
おそらくはほとんど来たことのないこのアルドをほとんど迷わずに目的にしたがって進んでいくのが見える。
魔人は目的地にたどり着いたのか、足を止める。
魔人の目的地はどこかの建物だった。簡素な三階建ての建物で、魔人はその前で立ち止まった。
-建物の中を見ると、結構魔力反応がある。それも人のものだ。-
-私にもそう見える。かなりの人数がいるから、人が済む居住施設というよりは、何らかの集団の集まる基地みたいなものかもね。-
ノイルは頭の中を整理した。そしてエルミラの方にまた文字を描く。
-誰がどう考えても、魔人は人間の集団と関係があるってことだよね。もしかすると、魔人の目的とこの人間達の目的は同じなのかもしれない。でも人数的に僕の魔法じゃごまかすことは難しい。-
ノイルは背後を一瞬で振り返った。
-調査はここまでにしたほうがいい。どうも近くから魔人の気配がする。-
エルミラはいつの間にかそばにいなかった。エルミラがいた場所には魔力が残像のように残っていた。
ノイルは瞬時にエルミラが戦闘に巻き込まれたことを理解した。
そして目の前の基地と思われる施設に、下級魔人が入ったのを目撃した瞬間にノイルも動き出す。
目を閉じて、エルミラの魔力の向かう先をたどる。
ノイルは小さな声でつぶやいた。
「見つけた。」
エルミラが消えた方向を即座にたどった。勇者の独特な魔力がノイルが導く。
ノイルは砂煙を残し、その場から消えた。といっても人間ではとらえられない移動速度で移動しているだけだが。
彼が使用している【サイレント・トランスパレンテ】は凄まじい速さで移動するときに出てしまう音も同時に消すことができる。
「アルドから外に追い出されたのか?まずいなエルミラは灼熱対策用の魔法を覚えているのか!?」
ノイルはさっと携帯を取り出して、ハクにエルミラが外に連れ出されたことを伝えた。
「確か上下に移動するのは世界協定で禁止されてないよね?」
ノイルから黒いオーラが出ると一瞬でその場から消えた。
今度は光速で移動しているのではなく、このマリトルムのちょうど地上へと転移した。
ノイルが地上へと出た瞬間エルミラが魔人と戦闘をしていた。
どうも劣勢のようだが。
「そうか、ライメイをトレットに持たせたままなのか・・・。」
ノイルは頭を抱えて少しだけ呆れた。
魔人は細長く背は高い。エルミラが光速でどうするよりも早く移動している。というか瞬間こまめに瞬間移動しているというほうが正しいだろう。おそらくはそれでエルミラを地上まで引っ張ってきたのだ。
ノイルは遠くからなるべく大きな声でエルミラに語り掛ける。
「エルミラ!調子はどう?問題なさげ?」
「問題大あり!ライメイがないの!!」
「見ればわかるよ!!どうする??」
「チェンジでお願い!!」
ノイルは敵を見るが大変面倒くさそうだ。
だがエルミラがものすごい勢いでノイルの方へ逃げてくる。そして、珍しくもスライディングするようにしてノイルの後ろへと隠れた。
「やっちゃってノイル、あいつかなり強いよ。」
エルミラが後ろからノイルを鼓舞する。
「なんか今日は君らしくないね。」
ノイルは後ろに隠れたエルミラの頭を瞬時につかみ上げた。
「君じゃないからか。」
そのままエルミラだと見えていたものを顔も見ずに殴り飛ばした。
あまり力を込めていたように見えもしないのに、思った以上に吹き飛んで行った。
「まんまと騙されたよ。これは君の闇属性魔法だね。本当のエルミラはどこにやったんだい?」
「いうと思うか?お前らは我々を妨害しすぎた、マークしていたのだから当然罠にはめさせてもらった。今頃あの女は死んでいると思うぞ。」
「君の名前は?」
「我が名はバルド、お前たちを亡ぼすものなり。」
ノイルは無感情にバルドの方を見つめた。
「エルミラは死なない。ハクも、トレットも誰も死ぬことはないだろう。でも今回は確かに俺の不注意でエルミラを危険にさらしてしまったらしい。」
ノイルは自分の額まで手を持っていきそのまま髪の毛をかきあげた。持ち上げられた髪の毛は降りてくることはなく、オールバックになっている。
バルドの方へと近づいていくノイルの背丈が一歩進むごとに大人程に伸びていく。
いつの間にか顔立ちも、かわいらしい幼いものから大人びた男らしい者へと変貌していた。
「少しだけ俺の本気を見せてやる。」
ノイルはただまっすぐにバルドを見つめた。




