厄介なことになってきたんだよねー
翌朝目を覚ますと、一度部屋に全員を集めた。
「俺は今日マスターの頼みごとの方を優先して、ちょっと探し人をしてくる。」
「了解。」
エルミラが適当に返事をする。
エルミラがベッドに、トレットが床、ノイルは椅子に、ハクだけが立っているという状況だ。
「そこでなんだが、ここからは全員一緒に行動しよう。というか、先がわからない状況でほかの空洞に行くのは結構危険だ。ZEROの情報だとここには研究所はないらしいしな。」
全員ハクだけが別行動すると思っていたのでかなり驚いている。
「まぁ俺は結構一人で行動する癖があるけど、そんな驚くことはないだろう?昨日だって一緒に行動したじゃないか。」
「そうだけど、やっぱり珍しいことには驚く。」
エルミラはベッドの上に腰かけていたが、倒れるようにあおむけになった。
「とりあえず今日はマスターの頼み事から済ませよう。幸いにも魔人の気配もないと思うし、焦ることはない。ていうか魔人の気配はないよな。」
ハクはノイルにちらっと目配せする。
「あると思うね。」
若干ノイルの歯切りが悪い。
「本当か!?魔力が大きい奴はここまででいなかったと思ったが?」
「まぁ知っていると思うけど、魔力を隠すのは当たり前だ。確かに魔人は自己を誇示するために魔力を隠そうとはしないけど、することもある。例えば知性が非常に高い魔人は当たり前のように魔力を隠すしね。むしろ上位魔人のたしなみだといっていい。」
ハクはノイルの話を促すように顎をしゃくった。
「でも僕ほどになれば魔人の魔力と普通の人の魔力の差がわかるから、別にすぐにわかる。もちろん勇者の魔力の質の差もわかるから、エルミラが勇者だってこともすぐにわかった。」
ハクはノイルをじっと見る。
「つまり何が言いたいんだ?」
「あぁ~いっちゃえばここには魔人がそれなりにいるんだ。もちろんマリトルム・・・最初の空洞にはいなかったけど、ここアルドには魔人が結構いる。」
ハクは眼を見開いた。
「それって結構まずくない?どれくらいいるの?」
「大小さまざまだけど、あぁ強さ的な意味でね、かなり強いのが何人かいるね。かなり少数だ、でも最低でも二人はいると思う。それ以外でいうと弱い魔人、ここまで来ると人間のふりをした下級の魔物といった ほうがいいかもしれない。それでもそういうのならアルドには100体以上いると思う。」
ハクは一度しゃがんで頭を抱えた。
「やっぱり作戦は変更だ。エルミラ、それにノイルはそういう魔人について調べてくれ。もちろん魔導書について調べたほうがいいが、いったん魔人に焦点を絞ろう。数が多すぎる、なんとなく魔導書だけが目的ではない気がする。」
ハクはまた顎に手を当てて考えるポーズしている。
「わかったとりあえず、魔人について調べる。」
エルミラは拳を握り見つめる。魔人と聞くと、気合が入るみたいだ。
「トレット、俺と来てくれ。早速奴隷についての調査を開始しよう。」
「わかったぞ。」
ハクとトレットは扉に向かう。
「それじゃ、悪いがエルミラとノイルそっちはそっちで頼んだ。魔人の目的がわかることを祈る。」
「任せてよ!」
エルミラは拳を掲げてガッツポーズに片腕をクロスする。
「それじゃ行ってくる。夜には戻るからその時に合流しよう。」
「うん、わかった。」
ハクは扉から出た。そのままどんどん5階まで上がり、ゾーイの部屋まで一直線で向かう。
ハクはとびらを数度たたく。
「入りな!」
中からゾーイの男らしい口調なのに女性らしい声が響く。
ハクとトレットは部屋にさっそうと入った。
ハクはまたこの部屋に2つだけあるうちの椅子の一つに座った。もちろんもう片方にはゾーイが座っている。今日も何か書類仕事をしているようだ。
「それじゃ案内するよ。ここは部下に任せないとね。」
ゾーイは机の上に何か書置きを残している。あれは部下へメッセージを残しているのだろうか。
「というか昨日は何も聞かなかったが、まさかあんたはこのアジトのトップなのか?」
「まぁそういうことになるね。」
「なるほど。じゃぁなぜあの時転移陣のそばにいたんだ?」
「別にいいだろう?私がどこにいようとも。」
「そりゃそうだな。」
「ついてきな。」
ゾーイは席を立ちあがって、扉を開けて部屋を出た。ハクとトレットもそれについていく。
アジトを出てゾーイが急に口を開いた。
「昨日の話に戻すけど、なんで私が兵士だとわかった?」
ハクはゾーイの後をついて歩きながらも初めて歩くアルドを観察している。ノイルの話もあり魔人を警戒する必要が出てきた。
だが意外にもゾーイが自分のことを兵士と認めてたので視線をゾーイに戻した。
「勘だよ。」
「謙遜はやめな。勘じゃないことはわかっている。」
ハクは一度ため息をつくとまた話し始めた。
「あそこに・・・、つまり転移陣にたどり着くまでに集めた情報でこの国にあるブラックマーケットに国が絡んでいることが分かった。」
「それだけで私に辺りを付けて軍人だと?」
「まぁほかにもいろいろ根拠はある。歩き方だとかな。」
「歩き方が?気を付けているつもりなんだけどね。」
「足音を消している時の歩き方だ。普通の歩き方は確かにごまかせている、だが最初俺の近くにいたのに足音をけしていただろう?その時のほんのわずかな音、しぐさで君が訓練を受けていたことがわかる。明らかに野で学んだ歩き方じゃない。」
「なるほどね、今度からはそれも気を付けるよ。魔法で足音を消しても魔力を感知されるし、本当に割に合わない仕事だよ。」
ゾーイは一瞬疲れたような顔をした。ハクと視線があったことに気付くと、自分の肩を軽く持ち上げて首を振った。
「まぁそれはかなり疲れるとは思うが・・・?」
ハクは耳を澄ませる。
「あぁ、確かに大変だと思うし、辛いことだとも思うけど一つだけ確認させてくれないか?」
ゾーイはハクの方を見ずに歩を進めている。
「質問には先にこたえておくと、今私たちを付けている奴らは私の知り合いじゃない。敵対組織はいくらか思い当たるけど、会ってみないと予測はつかないよ。」
ハクは額に右手を当てた。
「おい待て、そもそも敵対組織があるのか?ふつうは政府一強だろう?」
「ブラックマーケットで住民を売りさばくような政府だから、レジスタンスがいるんだよ。」
「あぁもうそれ以上言わなくてもいい、最悪だ・・・でもまて、なんで俺にそんなことを教えるんだ?」
ハクはうすうす感づいていたが、ゾーイは周囲に人ほとんど来ない路地裏まで歩いてきていた。そこには不自然なスペースがあり、戦うには十分そうだ。
「あんた強いんだろ?手伝ってほしいんだ、国落としを。」
ゾーイはハクの方へと振り向いた。
路地に数十人のレジスタンスが入ってくる。非常に殺気を目に宿している。どうも複雑な事情があるのかゾーイはレジスタンスとは別口で国を落とそうとしているようだ。
ハクは両手を広げるように伸ばし、そこにトレットが装着された。
そのまま拳を合わせる。
「協力するかどうかは話次第だな、とりあえず今置かれている危機的状況からの脱出には手を貸そう。」
ハクは振り返りレジスタンスの方を振り向く。
「気の毒だが、いったんお前らには気を失ってもらう。場合によっては助けてやるから、今は素直にやられてくれ。」
ハクはレジスタンに当たるとは到底思えない位置でデコピンした。
するとレジスタンスの一人はその場で回転して失神する。
それを見てゾーイが目を見開いた。
「さて、掃除開始するか。」
ハクは右手で頭を軽くかいた。




