幕切れ サクside
アルベルト様は強い力で私の手を握ると、無言のまま人気のない回廊を進んで行く。しばらく歩いてバルコニーの窓から外に出ると、そこはお城の庭に繋がっていた。
アルベルト様の表情は硬く、まるで何か怒っているように見える。
庭に入ると彼はようやく歩調を緩め、ゆっくり私の手を解くと庭にあるベンチに私を座らせてくれた。そして彼も私の隣に座るとそっと手を伸ばし、私の乱れた髪を撫でて直してくれる。そんな恋人のような甘い仕草に場違いにも私はどきどきしてしまう。
「あの、アルベルト様、何かありました?」
「長い時間一人にして済まなかった。疲れてはいないか」
「はい、大丈夫です。楽しくお喋りしてただけですから」
「一緒にいた彼等はサクの友人か」
「ええ、私の古くからの友人です。これでも私昔は冒険者で、あの二人とパーティを組んでいたんですよ」
「そうか。・・・先ほどサクがあのバーゼルの王子と抱き合っているように見えたんだが」
アルベルト様に言われて初めて私はさっきエリックとハグをしていた事に気が付いた。
「ごめんなさい!私、本当に申し訳ないことを・・・。あの、あれは、その、私たちの間の挨拶みたいなもので」
「あの王子はサクの恋人なのか?」
「えっ?エリックの事ですか?とんでもない!彼は私の友人です。それにもしお付き合いしている人がいたら、私はこの依頼を受けておりません!」
エリックが恋人だなんて冗談でもやめて欲しいと思うけど、こちらの事情を知るはずもないアルベルト様の目は何か見極めるように鋭い目で私を見つめている。
確かにこちらの世界にハグをする風習はない。今日は私はアルベルト様の婚約者として出席しているのだから、大勢が見ている会場でかなり不味い事をしてしまったのでは。
「くくっ」
「あの、アルベルト様どうかしました?」
「いや、実はサクとバーゼルの王子が抱き合っていたのをジュリアス様に見られていたのだ」
「え・・・どうしましょう、私、今日はアルベルト様の婚約者として出席しているのに・・・でも抱き合っているなんて・・・」
私が慌てる様が余程可笑しかったのか、アルベルト様は少し表情を緩めた。
でもそれは一瞬の事で、次の瞬間彼の瞳の奥が濃い紫色に光り、まるで捕食者が獲物を捕らえる時の様な目で私を見つめた。
「サク、お前の事を教えて欲しい」
「私のこと、ですか?」
「ああ、サクラ・ムラカミ、漆黒の魔術士だろう?先の世界を救った勇者一行がこの国に来て何をしている。この依頼を受けた目的はなんだ」
アルベルト様は左手を私の肩に置き、もう一方の手で私の顎を掴むと顔を上に向かせた。
次の行動を予想して心のどこかで期待してしまう自分がいてーーー思わず唇が震える。
「何を企んでいる」
低くセクシーな彼の声に自分の体が反応する。私が何か言おうとする前にアルベルト様の唇が重ねられ、そしてすぐに離れていってしまった。・・・物足りない、と思ってしまう私は浅ましい女だろうか。そんな想いを知られたくなくて、誤魔化すようにアルベルト様を睨む。
「企むなんて、そんなこと・・・」
「では何が欲しいんだ」
「んんっ」
肩にある大きな彼の手は私が体を動かすのを許さない。さっきまで顎にあった手は今度は私の耳を弄んでいる。私が体を強張らせるのがわかるとその手は私の後頭部に回り、今度は息も出来ないくらい深くキスをされた。
「ふう・・・んっ・・・あ・・・」
嫌がっているか喜んでいるのか吐息交じりの甘い声が私の口から洩れてしまう。
恥ずかしさにキスから逃げようとするけど逃げられない。ーーーもう逃げられない。
わざとらしくギルドに貼ってあった高ランク女性冒険者向けの依頼
用意された代々受け継がれるという曰く付きの婚約指輪
今日の舞踏会のために何年振りかに集まったパーティのメンバー
ジグソーパズルのピースが嵌るように、一つ一つの符合が一致して謎が解けていく。
なんで私の好みがばれてるの、とか一体いつからどうやって、とか色々聞きたいことはあるけど、今この瞬間はこのまま甘いキスに浸っていたい。私の身体が完全に溶かされてしまうまで。




