幕切れ アルベルトside
私はサクの手を強く握ると足早に回廊を進み、バルコニーを抜けて庭に降りた。 誰にも邪魔されない、二人きりになれる場所に連れて行きたかった。庭を見回しベンチを見つけると彼女を座らせ、私も隣に座る。
「あの、アルベルト様、何かありました?」
「長い時間一人にして済まなかった。疲れてはいないか」
「はい、大丈夫です。楽しくお喋りしてただけですから」
強引に会場から連れ出したせいか、彼女を怯えさせてしまったようだ。瞳が不安気に揺れている。さりげなさを装って少し乱れた彼女の髪をそっと撫でた。
「一緒にいた彼等はサクの友人か」
「ええ、私の古くからの友人です。これでも私昔は冒険者で、あの二人とパーティを組んでいたんですよ」
「そうか。・・・先ほどサクがあのバーゼルの王子と抱き合っているように見えたんだが」
サクの瞳を正面から見つめそう告げると彼女は途端に慌てて表情を崩す。戸惑いを隠せないその表情は、今まで私の前で見せていたものとは全く違っていた。
「ごめんなさい!私、本当に申し訳ないことを・・・。あの、あれは、その、私たちの間の挨拶みたいなもので」
「あの王子はサクの恋人なのか?」
「えっ?エリックの事ですか?とんでもない!彼は私の友人です。それにもしお付き合いしている人がいたら、私はこの依頼を受けておりません!」
恐らく彼女の言っていることは真実なのだろう。もしあの王子が恋人なら彼女はこの依頼を受けていまい。だが過去にあの男が恋人だった可能性は捨てきれない。
サクと私は契約上の婚約者。しかも明日で契約期限は終わりだ。バーゼルの王子とどちらが有利な立場にいるかと言えば、一目瞭然、あいつの方だ。
ここまで考えて私ははっと気が付く。一昨日まではその存在さえ知らなかった女に私は一体どうしてこんなにも振り回されているのか。
「くくっ」
「あの、アルベルト様どうかしました?」
「いや、実はサクとバーゼルの王子が抱き合っていたのをジュリアス様に見られていたのだ」
「え・・・どうしましょう、私、今日はアルベルト様の婚約者として出席しているのに・・・でも抱き合っているなんて・・・」
私の前で悠然と微笑んでいたサクが、今は顔を赤くしたり青くしたりくるくると表情を変える。それすらも可愛いと思ってしまう私はどうやら重症のようだ。ーーー何としても手に入れてやる。
「サク、お前の事を教えて欲しい」
「私のこと、ですか?」
「ああ、サクラ・ムラカミ、漆黒の魔術士だろう?先の世界を救った勇者一行がこの国に来て何をしている。この依頼を受けた目的はなんだ」
そう言って私は左手を彼女の肩に置き、もう一方の手で顎を掴むと顔を上に向かせた。
「何を企んでいる」
サクの濡れたような唇が何かを呟くように微かに動き、私を見上げる瞳が潤む。
そのまま唇を軽く啄んでやると一瞬肩が震えた。頬をそめた顔で私を睨んでくるが、そんな顔では男を煽っているようなものだというのがわからないのか。
「企むなんて、そんなこと・・・」
「では何が欲しいんだ」
「んんっ」
左手で肩を押さえたまま今度は右手でサクの耳を触るとぴくりとその身体を強張らせた。そのまま後頭部に左手を回してサクの顔をこちらに向けると、今度はサクが喋れない位深く口づける。
「ふう・・・んっ・・・あ・・・」
嫌がっているか喜んでいるのか吐息交じりの甘い声がサクの口から洩れる。逃れようと顔をふるサクはきっと気が付いていない。私が態と喋れないように口を塞いでいる意味を。
何も言わなくていい。たとえどんな思惑があったとしても今ここにお前がいる。しかも私の婚約者として。
秘書のアレンが手配し
フーリッツがヴァンダイク家の婚約指輪を用意し
この国の皇帝が認めた女
こんな獲物をを私が逃す気はない。
サク、もうこの手から逃がさない。




